「…まだぁ?」


もたもた、なんて言葉がぴったりだなぁ金髪少年よ

ポケットの中身を出し忘れたと手を突っ込めばゴミが出てくるし(主にレシートや飴の袋だった テニスコートにゴミ箱はないし置いておけば風で飛ぶので処理に困っていた)、ラケットバッグのジッパーが噛んで開かなくなったり、おかげでかなり暇してマス

暇潰しに部長と競い合ったラケット回し(新体操のバトンのように片手でラケットを回す遊び)をしていたら「なにそれスッゲェ〜!」と金髪少年に絶賛された

うん、君はジッパーに集中しようねー
結局ジッパーは平部員の一人がなんとか開けてくれた
やっと試合かぁ


「試合の前に一個いいかな」

「やっぱりやめるは無しだからねぇ〜?」

「名前教えてくんね?」


金髪少年じゃ飽きたんだよ、長いし
金髪少年は一瞬ポカンとした後でにっこりと笑って言った


"楽しませてくれたら教えてあげるねぇ〜"


温和を擬人化したような俺がカッチーンとキかけました

俺達の様子を恐々と伺っていた平部員達の中から「あれは犯罪者の目だ…」「アクタガワ先輩が殺される…」といった声が上がっていた
アクタガワ?聞いたことある…かも…?
いや、無いかも?

テニプリはアニメをチョロリと見てた程度で青学以外は跡部と樺地とラッキー千石くらいしか記憶に無いんだよなぁ…

そんなこんなでやっと金髪少年の準備が済んだので試合スタートです
一球勝負、絶対勝ったる…そんで泣かす


「サーブいくよ〜」

「よっしゃ来ぉー…いぃっ!?」


声かけてる最中だったのに遠慮なくサーブを入れられた、なう

元より頭にキていたので妙な回転(勿論狙って回転をかけとんのやで?)をかけたロブショットを返す
返球の際のフォームに違和感を感じたのだろう、金髪少年はボレーで返せる弾だったにも関わらず一度コートへバウンドさせてから打とうとラケットを構えて位置取りをする

しかしボールは地に着いた途端俺のいるコートの方向へと大きく跳ねて俺の手の平の上にポスリと落下した


「残念やなぁ? このボール、お前より俺の事が好きなんやってさ」


ドヤ顔をバッチリ決めてさぞかし悔しかろうと相手を見つめたが、金髪少年はまばゆい程の笑顔を浮かべるのだった

あれ、おかしいな?


「すっげ、すっげぇすっげぇ〜!! なんでそんな風に跳ねるの!?
いや、回転だよね!?それは分かるよ〜!? でもふんわり落ちて来たのにあんなに大きく跳ねるなんて思わないじゃん!!
ボレーで返せばよかったんだよなぁ〜!! もう一球いいでしょ!? 一球と言わず一戦しようよ〜!!」

「いやっ?! 待て待て待ちなさい! 誰だお前!!」

「あの…、芥川先輩は興味がある物を見たり好奇心が惹かれたりすると覚醒するんです…」

「外野くんわかりやすい説明をありがとう…、俺、度肝抜かれたわ…」


めっさキラッキラしとる
なんかお日様並みにキラッキラしとる
前髪越しにも関わらずまばゆくて直視出来ないような気さえしてくる


「サーブするからね〜!!」

「えっ?! 一球勝負って話だったろう?!」

「しーらーなーいっ!」


パコン!

ほんまにサーブ打ってきよった!

今度は普通に打ち返すと金髪少年はボレーで応戦してきた
というか、えっ? ボレー上手いぞこいつ!

打たれたくないなぁって所にピンポイントで飛ばして来る

必死に腕を伸ばしてリターンするものの、慌てて返したボールは不安定でスマッシュを決められてしまう
意地で返球するもコントロールが定まらずアウトとなってしまった


「…不意打ちとは、卑怯なり こっからマジで本気出すから覚悟しぃや?」

「やったぁ! またさっきの弾見せてよー!!」

「あぁー、そらぁ、どないしようかなぁー?」


伊達の黒縁メガネを上着の上に放り投げて前髪をぐいとかき上げた
んー、やっぱしこっちの方がよく見えるなぁ

手櫛でかき上げた位じゃパラパラと前髪が落ちては来るが、いくらかマシになった 視界的な意味で

試合を眺めていた平部員達が一瞬ざわめいたのがちょっとだけ不思議だった



試合はかなりの接戦で、金髪少年のボレーには苦しめられたが此方の回転をかけたボールの軌道で場をかき回してなんとか勝ちを収めた
初めて手合わせしたから勝てたものの、数こなしてどんな球を打つかバレたらこうは行かないだろうなぁ


「負けちゃったC〜!! けどすっげぇ楽しかった!! 手品みたいなボール打つんだね〜!!」

「あ? え? そりゃどうも? 少年もボレー超上手いね、俺びっくりした」

「少年? 俺、ジローだから! ジローって呼んで!!」

「んー…、…ジローってことは太郎もいるの?」

「文字が違うんだけど…まぁそれでもいいC〜!!」

「ええんかいな!?」

「いいよ!全然いいよ!!」


ジローくんはラケットを放り出すと感極まったのか俺に正面から抱きついてきた
俺もジローくんも試合後で汗ばんでるのに気にしないのかなぁ?

俺より頭一個程小さいので不覚にもかわいいなぁと思ってしまった
なんか不思議な奴に懐かれて俺の学校視察は終わる事になった




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