あれから少しばかり時が過ぎて、現在昼休み中となった

俺は通学途中の駅前で買ってきたパンをかじりながら善哉くんへと電話をしている真っ最中だ


「っつー事があってだな、もう俺お婿に行けないんだ…ぐすん」

『ええんや、なんも心配は要らんから…、黙って俺の嫁になれば全部解決するやないか

とりあえずその女と田中君の住所はよ』

「大阪にもポケモンセンターある…?
ていうか俺はエンジュシティに住みたいんだった、よし、京都行こう

あれ、オドシシいるし、奈良だっけ?」

『白玉、ええ子やからコガネで我慢するんや』


このように、善哉と会話をするとかなりのスルースキルが必要になる

…というのは置いておいてだな、本日の議題は何故俺がイチゴオレをぶっかけられなきゃならなかったのかについてだ

善哉は変な意味で頭が弱いが、実際はかなり頭が良い奴だし、楽曲制作者というのもあって物語を作るのも上手い

つまりはその才能を生かして、俺がイチゴオレを被るに至るまでの道筋を考えて貰おうと思った訳だ

例えば、"ただ単にむかついた"とか、"不慮の事故"とか…
勿論その他にだって深い訳があるのかもしれない
や、有ったとしても許さんのには変わらないんだが


いつものように俺を大阪に呼びたがる善哉を程よくスルーしながらなんとか面白い訳を考えさせようと急かすが、善哉は早々に「そんなん無理っすわ」と吐き捨てた


『第一に情報が足りなすぎやろ
考えてもキリないもんを考えたってしゃーない訳やし』

「うぅん、まぁ、そうなんだけどねー」


そういえば、愛実ちゃんは「トリップ」がどうのと言っていたなぁ

トリップ…、直訳すると小旅行を指す言語だ

麻薬等の幻覚症状を差してそう呼ぶ例も中にはあるようだが、この場合はどちらも当てはまらないだろう

つまり、愛実ちゃんの言うトリップとは、異世界からやってきた"旅人"を差し、「ミュ」がどうのこうのと言っていた所から察するに、彼女もまたこの世にトリップしてきたのだろう

まぁ、俺は突如としてこの世界に飛ばされた王道のトリッパーではなく、この世界で生まれ育った…いわば転生トリッパーだ
おかしな記憶こそあれど、この世界の人間となんら変わりはしない

愛実ちゃんがどうかは別として、だが…


「善哉くん、読めたで!」

『おん?』

「トリッパーや!
愛実ちゃんは補正持ちトリッパーで、補正の利かん先輩が俺になついたから、より強い補正を持ったトリッパーやと勘違いしたんやろな!」

『トリッパー? トリップしてきた奴の事やんな?

白玉、いくらなんでもそれはキツいで
そんなんリアルに居てたまるかっちゅーの』

「いいかい、善哉くん、俺の通ってる学校は"氷帝学園"な『聞いてへんぞ』…ちょい黙ろうか

愛実ちゃんの補正でテニス部員はメロメロなんだけど、いくら女に現をぬかしてたって、天下の氷帝テニス部が練習を疎かにするだろうか?

本人達の意志に反する何かが働いてるんじゃないかな?


…どやっ(―ω―)www」

『ぶっwww ここでwww どwwやwww

ま、俺もテニス部の端くれなりに氷帝の噂は聞いとるしな

たしかにそんなとこが女一人で練習もろくにできんようなるんは可笑しいかもしれん』

「え、善哉テニス部とかしらんのだがwww」

『まぁ、なんでジュースをぶっかけた上ビンタなのかには繋がらんけど置いといたるわ

四天宝寺のテニス部もそこそこ有名なんやけど…

それに…』



"絶対全国大会まで行って、東京行くから、まっとってな?"



「ほな、昼休み終わるんで」なんて軽い一言と共に電話を切られた

ぜ、善哉のくせに、かっこよすぐるやないかwww


「あひwww あぴゃあwww
かっこいいwww テラかっこいいwww」


久々にあぴゃあが出ましたwww
俺の歓声の中でもあぴゃあは特に最上級だ

善哉ってすげーwww


「あぴゃ…、ぴゃ?」

「………」


空き教室で携帯片手に笑う俺の背後で立ち竦み、軽蔑の眼差しを向けている日吉くんの姿が、そこにあった

ジ・エンド オブ 俺www


「…穴が有ったら埋めてほしい」

「埋まる前に答えろ、今の話は本当か?」

「うん? なんの事だね?」

「補正持ちトリッパーとは、どういう事だ」

「読んで字の如くなんだけど…」

「その意味が分からないから、説明しろと言っている」


カチャリ、と、日吉くんが後ろ手に空き教室の鍵を閉めた

後ろの扉は日吉くんの背中
前の扉は机や棚で塞がれ使用不可能…

残念ながら、日吉くんが愛実ちゃんの補正を受けているか否か図り兼ねるが、結末は二つに一つ、か

日吉くんの古武術にフルボッコにされるか、仲間に引き入れるか


「…たんま テレフォンの使用を要求します

せっかく話すならジロー先輩も交えてにしたいんだが」

「何故ジロー先輩なんだ
あれは寝てばかりでまともに部活にも来ないんだぞ?」

「そりゃあ勿論、俺はテニス部の味方でも、愛実ちゃんの敵でもない

ジロー先輩の味方だからや

あれ呼ばわりは酷いやろ
今のテニス部で一番テニスを純粋に愛してて、元のテニス部に戻ってほしいと人一倍願ってんのは、他でもないジロー先輩なんだから」


俺が携帯電話を耳に当てても、日吉くんはピクリとも動かなかった

つまり、呼んでいいって事ね


あの万年寝たろう(付き合いは浅いがこれだけは痛いほど学習した)なジロー先輩が電話に出るかどうか、これもまたイチかバチかといった所だが…


『んん、なぁに? だあれ?』


神は俺に味方した!!
何が怖いって、日吉くんと二人きりになる事が何より怖いんだよwww




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