という訳でやってきました氷帝学園

一度家に戻って一本だけラケットを持ってきたのだが、正直かさばって仕方がなかった
ラケットが何本も入るようなテニスバッグは要らないかと思い、適当な手提げ鞄にラケットと携帯と財布だけを投げ込んできたためだ

ラケットのグリップが盛大にこんにちはしていてなんだか恥ずかしい

あと、此方に来る前に少し大ぶりの黒縁のメガネを買った
メガネの上に伸びた前髪をだらしなく前に垂らして目を隠してみれば面白い位ブサメンになった
いや、ブサイクというより、モッサイモサメンかな?


俺がまだ母と住んでいた頃は変な宗教法人の奴らが寄付を募って昼夜構わずうちのチャイムを鳴らしてきたものだ

俺の所まではさすがに来ないかもしれないが、念のためこのモサメンキャラで過ごしてみようと思う


氷帝学園内をぼんやりと歩いていると遠くに室外のテニスコートが見えた


「貴方は…?」

「テニスコートを見に来た一般人ですがなにか?」

「…貴方が見てるのは平部員のコートですよ
せっかくならレギュラーの練習を見て行ったらどうですか?」

「ぬぅん、せやなぁ…
しかしレギュラーの練習場なんかわからんしなぁ」

(なんで急に関西弁なんだろう?)


そういえば、俺は誰と会話してんのだろう
視線をテニスコートに向けたまま話していたためまったく相手を確認していなかったのだ

「良かったらレギュラーの練習場まで案内します」

なんて言ってくれた良い人の顔を拝もうと視線を向けて俺は思わず硬直した
いや、だってこれがまた超イケメンなのだ

白っぽい髪と首から下げられたシルバーアクセサリーが太陽の光を反射してキラキラしている…、なんだ天使か

俺はイケメンと瞳を合わせたまま動けずにいた
脳裏では「目と目が合うぅ〜瞬間好きだと気付ぅ〜いたぁ〜♪」なんてお決まりのアニソンが流れている

"貴方は今、どんな気持ちで居るn「チョタ君をいじめないでぇ〜!!」


俺のうっとりタイムにとんだ邪魔が入った

妙に舌っ足らずの甘ったるい声を上げてイケメンに抱きついたのはミルクティー色をした髪が特徴的な女の子だった
制服が女の子っぽいから多分女

しかし俺の女だった時の感(センサーとも言う)が凄まじい勢いで警報を鳴らした
"こいつは計画的ぶりっこだ!痛い!痛い子だぞ!!"
うーん、香水が鼻に染みる
なんかトイレの芳香剤みたい臭いがした


「お嬢さん、俺が彼とホンマに喧嘩しとったとして、なんで間に入ってくるん?
なんで彼に抱き付くん?もしホンマに喧嘩しとったとしてぇ、彼はお前が抱き付いたせいで手も足も出せへんし、防御もできんやろ?
お前完璧邪魔やんか、なぁ、そんなんも判らへんの?」

馬鹿なの?死ぬの?
今の俺はハイパーイケメンタイムを邪魔したトイレの化身みたいな女に怒り狂っていた

トイレの化身はびくりと怯んだかと思えばイケメンの背後に隠れて「やぁっ…怖いよぉ…!」と鳴いてわざとらしくイケメンの背中に胸を押し付けている(ように見えた)

はっはぁーんっ!お前自分がかわええと思っとるんやな!
残念やったなトイレの化身!
かわい無いわボケがぁ、ミジンコのが万倍萌えるで!
まずもっかい子宮からやり直してこい
トイレの芳香剤みたいな香水を選んどる時点で美的センス逆Vやぞマジで


(補足すると逆Vってのはポケモンの廃人用語…詳しくはググれ!
まぁ、Vなら才能があると考えてくれれば良い
逆V…すなわち才能がないって事やで)


イケメンの背後からちらちらと此方に視線を送るトイレの化身にガン垂れていると表情を険しくさせたイケメンが俺の胸倉を掴んだ


「彼女を睨むの、やめてくれませんか?」

「わおっ イケメンは睨んでもイケメンなんだね〜」


イケメンだが、天使も裸足で逃げ出すレベルの悪人顔だぜ
おー恐っ


結局イケメンはトイレの化身に連れられて俺のときめきごと、どこかへ消えた

ぱこん、ぱこん、というボールがラケットに弾かれる音を遠くに聞きながら、思わずため息をついた

さて、レギュラーの練習場探しに行こっかなぁ

丁度その時、遠くからキャーっという黄色い悲鳴がきこえた
変質者でも出たのだろうか

…あ、まさか…俺の事じゃないだろうな?


「君、君〜!」

「なんだ? 誰も居ないのに声が聞こえるぞ?」

「上見て、上ぇ〜」


こりゃまたトイレの化身みたいにとろんとした声だなぁ
トイレの化身の声にはヤらしさというか、わざととらしさがあったが今度の声はなんか…ひたすら眠そうな声だ

面倒だが視線を上に上げると二階の窓からひょっこりと人の顔が覗いていた


「君が持ってるのって、テニスのラケットだよねぇ?
あっ、ていうか、君誰ぇ?」

「俺は近々ここに編入予定の部外者で、あとこれはテニスのラケットだよ金髪くん」

「テニス、するのぉ? 強いー?」

「まぁまぁ〜? 元の学校じゃ部内二位だったよぉ〜」

「あれぇ、俺のしゃべりかたうつってるよぉ?」

「えっ?」

「えぇっ?」


とりあえず、そっち行くねぇ、と言って金髪くんは顔を引っ込めた
正直首が痛かったんで、もう見上げなくてすむならありがてぇや





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