恨まれたり、憧れられたり、求められたり…、化け物とはなんとも忙しいものだ

俺は透くんと化け物の友人二人を連れて大型のスポーツ用品ショップが主催したテニス大会に足を運んでいた

俺のように、人とは違う能力を持った奴らは意外と大勢いる
能力の大小は勿論、その内容は様々である

実はそれらをまとめたり、管理したり、特別な仕事を斡旋したりする団体がいくつもあったりするのだ

俺が所属して居るのが"ダークマター理論"とやらを提唱する…、まぁ、能力者の生態や能力のメカニズムの解明を主とする団体である

実験や研究には金がかかるので、被検体である俺達が"アルバイト"をすることもあるのだが、詳しい話は省く事にする

とりあえず、このテニス大会に来たのはその団体から斡旋された仕事という訳だ

あまり嬉しくない事に、この大会には我が立海テニス部のメンバーも一部参加しているようだ

「ターゲットの探知は名前くんに任せるとして、ハネちゃんはどうしようか」

「…この人混みじゃ、僕は出歩けないなぁ」

「じゃあハネちゃんはテニスコートの照明の上で待機しといて

真っ昼間だから照明を見上げる人はいないだろうし、人ひとり位なら乗っててもバレないだろうしね…、でっかい羽が生えてても」


以上は全て会場の近くに路駐されたボックスワゴンの中での会話である

車を運転して来てくれた初(はじめ)さんと、ハネちゃんと呼ばれた少年は共に能力者である

因みに初さんは24歳で、ハネちゃんは16歳
俺と透くんが最年少だ

能力者に囲まれた透くんは心なしかソワソワと落ち着きがなかった


そのまま俺と透くんを下ろした初さんはハネちゃんを近くの建物の屋上へ送るために車を出した


"…人が多いですが、大丈夫ですか?"

「…、若干きついけど、まぁ大丈夫だよ」

"柳蓮二がいますね"

「そうだね」

"幸村精市もいますね"

「…、そうだね」


透くんのヒトリゴトに相槌をうってはいるものの、端から見れば俺が1人で話しているようなものだ

これも、溢れるヒトリゴトから気を逸らす為に、イヤホンで大音量の音楽を聴いているからなんだけどね
ちなみに片耳で音楽を聞き、片耳にはインカムを繋いでいる

周りの音は聞こえないが、俺の脳がヒトリゴトをせっせと拾うので、複数の意味で頭が痛かった

既に大会は数試合を終えていたが、先はまだまだ長そうだ

先ほど太陽が雲で隠れた数十秒の間に、大きな影が会場を横切ったのに気づいた人は何人居るのだろうか

真剣に探している訳ではないが、俺の耳に入ったヒトリゴトを聞く限りは1人たりとも存在しなかった


「次は柳くんの試合みたいだね、行ってみようか」


透君はこくりと頷いたが、その心中は酷くざらついていて、あぁ、嫌なんだなぁと手に取るように分かりやすいものだから、思わず笑ってしまった

この会場には複数のテニスコートがあるので、回転率は早い方だ

それでも、柳蓮二の試合は驚くほど長引き、試合を眺めていた観客や他の選手達はどよめいていた

立海は中学テニス界でトップクラスの実力を誇る強豪校のはずだ

この大会はプロ、アマチュアを問わず、大人も子供も関係なく取り組まれている大会ではあるが、見た所相手は俺達と同年代であって、相手がプロの大人ならまだしも、柳蓮二の苦戦する相手には見えないのだ

勿論、相手は上手い
だが、柳蓮二はそれ以上に上手いと俺は思っている

その時、びゅうと強い風が吹いて、柳蓮二の打ったボールをラインの外へと押し出した

アウトと審判の声が上がり、ゲームセット、柳蓮二が敗退する事となった


"間違い無い、誰かが意図的に風を吹かせているね"


ハネちゃんが、確かにそうヒトリゴトを漏らした

つまり、俺達以外の化け物がこの会場のどこかに居て、多分、柳蓮二の相手をしていた少年に味方をしているのだろう

つまり、今、このコートの周りに居る

音楽を鳴らしていたイヤホンを引き抜いて、瞳を閉じる

"すごい勝負だった""茶髪の子、かっこいいよね""えぇ、あたしは黒髪の子だなぁ""流石、不二先輩!""あの子達何者なんだろうな""喉が乾いたな""次は俺の番か""茶髪の子、強いなぁ""スポーツのできるイケメンなんて…"

"負けは良くないな、明日は蓮二の練習量を二倍にしてやろうか"


頭をフェンスに預けてヒトリゴトに意識を集中させるが、見つからない

幸村精市のヒトリゴトを聞いてなんだか気が抜けてしまった俺はヒトリゴトを聞くのを止めて、再びイヤホンを差した


『見つかったかい?』


インカムから初さんの声が聞こえた


「いえ、だだ、ターゲットは恐らく"不二先輩"の味方をしているようですから、不二先輩が追い詰められた時を狙ってもう一度探してみます

ハネちゃんは、まだしばらく風に気をつけて見ておいてくれるかな

もしかしたら、不二先輩の味方じゃなくて無差別かもしれないし」

『わかったよ、それにしても、ここはホコリっぽいや』

『ハネちゃん、今日は帰ったら美味しい物を食べに行こう
だから我慢してね』


そう言ってハネちゃんを慰める初さんをよそに、ハネちゃんは『別に、仕事だからね』と、なんとも冷めた反応を返していた

「さて、透くん」

「名字様、どうかしましたか?」

「…幸村精市にバレました、頑張っていい子にしていてね

間違えても睨んだりしないように

あと様付けはやめてほしいなぁ…」


透くんは一瞬にして眉間にシワを寄せると、フェンスを握りしめて唸った

そんなに嫌なのか、透くんは好き嫌いが激しいし、たぶん好きな物より嫌いな物の方が多そうな印象だから、らしいと言ったららしいのだが

コートの中では柳蓮二と"不二先輩"が握手をして、お互いを労って言葉を交わしていた


"フッ、自然に味方をされては叶わないな"


"ごめんね、柳
最近、妙にツいているみたいだから…"


"何か不服そうだな?"


"だって、僕の実力だけで勝った訳ではないし…
なんて、勝ってしまった僕が言うのは失礼かな"

"…、いや、なんでもないよ
ありがとう、良い経験になったよ"


"こちらこそ"



これだけ離れていても、会話内容はヒトリゴトとして聞き取れた

人は思った事を率直に述べる時、頭の中でもそれを復唱しているし、相手の言葉を聞いている時もまた、その言葉を復唱しているものだから、それがヒトリゴトとして俺に届くのだ


「やぁ、幸村くん、柳くんは負けちゃったね」


振り返る事無く、後ろからやってきた幸村精市にそう声をかけると、幸村くんは目を丸くして驚いてみせた


「よく気配が無いって言われるのになぁ
よく気づいたね、いつもびっくりされるんだけど」

「いや、だってびっくりさせる気で後ろから近づいて来ただろう?」

「あれ、それもバレてたの?」

透くんはやはり、苦虫を噛み砕いたように、不服そうにしていた




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