後日、至極問題無く、スムーズに俺の氷帝編入は行われた

俺の居るクラスにはテニス部こそ居るものの、愛実ちゃんにお熱なイケメンくんや、跡部のお抱え秘書樺地くん

そしてイケメンくんと樺地くん以外の二年生レギュラー(名前は判らないが、たしか友人がピヨなんとかって言って居た気がする)は居ない、平和なクラスだった

ピヨ…ピヨなんだっけ?
いや、ピヨじゃなくてプリッ?

んん? たしかプリピヨ言うのは仁王って詐欺師じゃなかったか?


ノートにひよこの行列を書きながら二年生レギュラーを思い出そうと頭を捻っていると、不意に教室がざわめいた


「名前ちゃーんっ!」

「うぶっ!?」


ひよこに描いていた口元のほくろがみょーんと伸びて、まるで銛で刺されたようになってしまった

…これは酷い


背後からの熱い抱擁のせいで頬に当たるふわふわの癖毛は十中八九ジロー先輩のものだろう


「ジロー先輩、重いんスけどぉー?」

「俺は重くないよ?!」

「そりゃそうやろ!乗られてんのは俺、乗ってんのはお前なんだから!!」

「違うC〜! 体重が重く無いんだC〜!!」


重いと言われてプリプリと怒る様はまるで女子のようだった

そんな事より、何故ジロー先輩が二年生の教室に居るのだろうか

思い立ったが吉日(きちじつと言って思い出したが、ひよしだ!二年生レギュラーぴよしだ!!)と直ぐにジロー先輩に聞いてみると、一瞬ポカンとされて、うんうんと唸った後一枚の紙を渡された

なんと、希望先にテニス部と記入済みの入部届けだった
何故か顧問のさ、さかき? という人のサインまでも記入済みと来た

後は俺が名前を書くだけ…


そんな用意周到すぎる書類を前に、「後は君のサインだけだぜ!」と、記入済みの婚姻届を渡す図が重なった

どっちが旦那でどっちが妻ですか?
ジロー先輩が嫁ですか?

あ、違う、これはあくまでも入部届けだった


「名前ちゃんはさぁ、テニス部だったんだよねえ?
だったらやっぱりテニス部入るんでしょ?!」

「え? あぁー、実はね、それなんだがねー…」


キラッキラした目で俺を見つめるジロー先輩に、まさか「俺は、実はテニス部じゃないんだ…」なんて言える訳も無かった

俺は「あははー忘れなかったらかいとくなあははー」とプリントを適当なノートの間に挟み込んだ

ジロー先輩はそれをぼんやりと眺めた後、真剣な顔をして見せた
「それ、大事にしてねぇ?」

「えぇ?」

「名前ちゃんに渡すからちょーだいって言ったんだけどぉ、愛実ちゃん凄く嫌がってなかなかくれなかったんだC〜

何枚も破かれちゃったり取られたりして、やぁっと持ってきたんだからね〜」

「そwwれwはwwww
俺虐められるフラグじゃまいかwww」



ここでテニス部入りをした俺の未来について考えてみよう


…テイク1

「あんたをテニス部から排除するわ!
どんな手を使ってでもね!」

ここで王道的に自らの頬を叩く愛実ちゃん

「きゃあああっ! やだっ、やめてよぉ!!」

「あーんどうした愛実!?」


俺/(^0^)\オワタwww


…テイク2

「もう愛実、あいつと会いたくないよう!」

そしてアホ部に泣きつく愛実ちゃん

「よしわかった、あいつは今日をもって退部にしてやるぜあーん?」


入部の 意味/(^0^)\無いwww


…テイク3

「歓迎するぜあーん?」

「えっwww まじすかwww」

「鳳にサーブを当てさせる的が欲しかった所だったからな、あーん?」

「えっwww」


痛いの/(^0^)\やだwww



「………、氷帝のテニス部は、俺には荷が重いかもしれんなぁ」


俺が遠い目をしながらそう呟くと、ジロー先輩は「ヤダヤダ一緒にテニスしたE〜!」と盛大に駄々をこねてみせたが、俺は決して首を縦には振らなかった

でも正直、アホ部が愛実ちゃんの手玉に取られる姿には唯一心惹かれるものがあった
…いつか生きて拝みたいものだ


そんな事があった次の日

…余談だがジロー先輩が苦労して持ってきてくれたらしい入部届けは家の引き出しにしまっておいてある

昨日はジロー先輩が俺の元へと現れたが、本日はトイレの化身が俺の元へと現れた

イチゴオレを啜っていた俺は度肝を抜かれてゴフリとイチゴオレを吹き出しかけて、鼻の奥がツンと痛んだ

エンカウントで既に瀕死状態とは、泣きたい


「あたしねぇ、ちょっとだけあなたの事を調べたの!

3カ月前にあった地区大会での成績は42位、ストレート勝ちしてたみたいだけどぉ、最後の勝負は棄権負けとかぁ、プライド無さ過ぎじゃん?

まぁ、氷帝のテニス部はあんたなんかのレベルじゃあついていけないと思うんだぁ〜

それでもテニス部入りたいのぉ?第一、あんたがなんでジロちゃん先輩に気に入られてんのかわかんないし!」

「ふぐっwww
最後本音が漏れてますおwww

それってただの僻みやんな、わかるでwww」

「やだっ、ユウ先輩の真似ぇ? きもーい!!」

「ユウ先輩? だれやそれ…」

「はぁ? 忍足侑士先輩、知らない訳ないよねぇ、しらばっくれてもわかるんだから!」


お、忍足っ!?


甦る記憶…

「伊達の丸眼鏡に関西弁
足フェチのロリコンで有名な氷帝の天才様ですね…っ!」

俺は頭を抱えて机へと突っ伏すハメになった


関西弁、伊達眼鏡…


「キャラ被っとるやんかぁあああ!?」

「はぁ?」


愛実ちゃんの呆れ声を頭上に聞きながら、一人涙を飲んだ
同類にされたくないよぅ…


「てか、ロリコンとか、原作からじゃなくてミュからの派生ネタだから

忍足の事をロリコンだと思ってる時点であんたはこの世界の人間じゃない、つまりトリップして来たんでしょ?」


愛実ちゃんは先ほどのぶりっこ前回の態度を一変させて、冷ややかな目で俺を見下すとマイイチゴオレを机の上から払い除けた

宙を舞うイチゴオレは俺の腹を盛大に濡らして地面へと転がった


「きゃあっ! ごめんね名字くんっ!
風邪ひいちゃうよ!
ほら、ワイシャツ脱いでぇ!!」

「えっ?いや、別に平気だから…」

「だめ! 今、早く、此処で脱いで!!」

「や、やめてー!!」


愛実ちゃんどうしちゃったの!

がっちりと俺のワイシャツを掴んだ愛実ちゃんは俺の抵抗をものともせず俺のワイシャツを引っ張るものだから、ボタンが圧力に耐えられずブチブチと飛び散り、俺はクラスの真ん中で盛大に腹を見せる事となってしまった

しまった、せっかくなら筋肉つけておけばよかった

ピザではないが、筋肉も無い貧相な体をクラス中に広める事になろうとは…


愛実ちゃんは俺の体を見て数秒間硬直し、「きゃあっ!?」という悲鳴とともに俺の横っ面ををバッチーン!とひっぱたいて教室を駆け出して行った

意味わからん
なにあれ

ジンジンと痛む頬を抑えながらポカンとしていると、前の席の田中君が俺の肩にそっとブレザーをかけてくれた

…とりあえず田中君マジイケメン






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