from.におくん
sub.もう我慢ならん


そろそろ会わんか?
充電がたりないぜよ…



幼なじみからそんなメールが来たのが昨晩の事

それじゃあ会おうか、なんてかるく返事をして、待ち合わせをしたファストフード店で友人を待つ、午後5時半を回った頃の話


「悪い、待たせてしもうたかのう?」

「そんな、待ってないよ
俺は俺で暇潰ししてたから…」


手にしていた携帯を振ってみてると仁王は「そうかそうか」と笑って俺の頭を撫でた

仁王は俺の隣の席に、肩がつくんじゃないかってくらいピッタリとくっ付いて座ってきたので、待っている間に摘んでいたポテトを勧めたが、自分で手には取らずに此方をジッと見つめてきた

そして一言、「ピヨッ」とアピール

俺はため息をついてポテトをつまむと仁王に差し出してやった
ピヨピヨと鳴く様が餌を強請る雛鳥に見えたものだから…、まぁ、仁王を雛鳥と呼ぶには些か育ち過ぎているけれど

仁王は差し出した腕を掴んでポテトを頬張ると、俺の指に付いた塩までペロリと舐め取った

此方を見ている物好きなんて居ないだろうが、人前ですらこのような行動に出るのだから仁王は相当…、"溜まって"いるようだ

そんな事、悟りたくはなかったが、今夜俺は何時に寝付く事ができるのか…、あぁ、憂鬱である

とうに塩気などなくなっているであろう指を未だに舐め続けて居る仁王を無視して、あいている手で残りのポテトを片付けにかかる


「そろそろ動画も撮りたいよね」

「…そうさねぇ、千本桜なんてどうじゃ?」

「ハッピーシンセサイザがいいなって思ってたんだけど、千本桜もいいな

『断頭台を"飛び降りて"』、の所にバック転入れたらかっこよさそうだよね」

「…、名前に任せちゃるき、なんでもよかよ」

「におくん、そろそろ止めようか
俺の指ふやけてない? あれ、大丈夫かなこれ…?」

「ふやけても、もげても、責任持って俺が貰ってやるから、心配なさんな」

「えぇ…、もげるのはちょっと…」


仁王なら本当に食いちぎりかねないのが恐ろしい所だ

からになったポテトの容器を握り潰して、トレーを持って俺は席を立った
仁王も釣られるように席を立って、俺の後に続く
無論、俺の片手は未だに仁王に捕まったままだった

街中を男二人が手を繋いで歩いている(ように見えているだろう)というのも、かなり妙な光景のように思える
いや、義務教育を終えてすらいない中学生どうしならセーフかもしれない

そのまま電車に乗り込み、真っ直ぐ俺の家まで向かった


「いらっしゃーい
そういえば、今日はにおくんお泊まりデーって言ってたね!」

「おう、邪魔するぜよ」

「もぉーう、ここは自分の家だって思ってくれても構わないのよー?」

「姉さん、いい加減黙ってくれないかな」


酷い!と叫んで仁王に縋ろうとした姉さんだったが、次の瞬間には「や、やめんしゃい!」と完全拒絶を食らっていた
ざまぁ、である

と、いうのも、仁王はある種の潔癖症であるからだ
仁王は他人に触れられるのを好まない
自分から触れに行くこともまずない…、俺という例外を除き、だが

まぁ、多少触れたからといって取り乱したりする程という訳ではないので、日常生活に支障はまったく無い

しかし、不快な事を耐える、流すという行為でストレスがたまるのは言うまでもなく、仁王はそのストレスを"俺"で発散するのだった

ストレスの発散と言えど、俗に言う殴ったり蹴ったりという行為に走るのではなく、仁王ひたすら俺に甘えて来て、それをひたすらに甘やかすというママゴトじみた行為に至るたけだ

幼い頃から仁王の"理解者"であった俺に仁王が心を許し、依存するまでに至るのに、それほど時間はかからなかった

勿論、これはあまり宜しくないものだ
俺はなんとか仁王を独り立ちさせようと思案したが、仁王の中で積もり育った感情は、仁王が自ら腹を割り、その思いの丈をさらけ出し始めた時には既に手遅れと言えるレベルにまで至っていたのだった

仁王は嘘を吐くのが上手いように、自分の感情を隠すのもまた、上手かった


「もう、お前の人生仁王くんに捧げちまえよ」


四苦八苦する俺を見て、姉は無情にも、そう言い放った


「ほんじゃあ、私は彼の所に泊まりに行ってくるわね」

「悪いのう 俺達の事は気にせずゆっくりしてくるとええよ
…一年位」

「それは暗に帰ってくんなって言ってんのかな?
え?どーなの仁王くん?」

「…プリッ」


仁王は報復として姉から熱い抱擁をうけていた
仁王にとってはこれ以上ない罰ゲームである

ぎゃあ!とも、ひぃい!とも聞こえる悲鳴を上げて、姉さんから解放されるや否や即俺に抱きついてきた
犬みたいでえらく可愛らしい
よしよし…

こんな反応をする仁王ではあるが、これでも姉は触られても平気な部類の相手らしい

「名前のねぇさんじゃから、特別なんよ」と言って、微笑まれた日には喜んでいいのやら悪いのやら、頭を抱えたものだ



「それじゃあ、ぼちぼち踊ってみたの振り付け考えようか」

「おう、基本はニコニコに上がっとる奴でええんか?」

「そうだね、それで一部アレンジして撮ろうか
振り付け関係はにおくんに任せる」

「任されたナリ」


勝手知ったるといったようすで俺のパソコンを操作しはじめた仁王を横目に、俺は台所で夕飯の準備をはじめた

普段は台所に立ったりはしない俺だが、仁王が泊まりに来た時に限り俺が夕飯を作る事になっている

そして、その際は決まってパスタだ
パスタは簡単だしおいしいし、俺の親友と言っても良い位だ

決して自慢ではないのたが、少食を極めたような仁王が一人前をすんなりと食べきるのは俺の料理位ではないかと思っている

もう一度言うが、自慢ではない
これは仁王の悪い癖で、矯正を要する課題の最優先事項だと認識している位なのだから…

パスタをかき回しながら思案に耽っていると、いつの間にか此方にやってきていたらしい仁王が後ろから抱きついてきた


「明日も朝から練習なんじゃが、どうもやる気が出んのう…」

「でも、サボリはだめだぞ?」


絶望しました!と主張するかのように泣き真似をはじめた仁王を撫でながら笑った




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