「なんや部長ってぇええ!?
リア友やからってベタベタしよって…! 死なす…っ!万回死なす!!」
「荒れてるわねぇ、光ちゃん…」
「昨日から血眼になって大阪に来い大坂に来いってメールしとったしな」
「光ちゃんに思われておいて…ほんま悪い女やね…」
「えっ…、メールの相手って男なんやろ?」
「えっ…」
「「………」」
財前が携帯を片手に一喜一憂するのはもはや四天宝寺テニス部ではお決まりの光景となっていた
しかしそのメールの内容は本人以外全く判らず、覗き込もうとすれば容赦なく拳が飛んでくるし、覗き見防止のシールも張られている
さらにはロックまでかかっているため彼がどんな相手とどんなメールをしているのかはテニス部七不思議の一つのように扱われてすらいる
荒々しく叫びながら凄まじいスピードで返事を打つ姿には恐怖すら覚えた
「小春…、あのメールごっつ見たない?」
「当たり前じゃないっ!」
一氏はニヤリと笑って見せると小さな画面に意識が向いている財前の背後から両手を伸ばした
「小春っ!今や奪え!!」
「はいはーい!
おー、これはロックかけてあるメールフォルダーじゃないの!」
「ざけんな!見るな読むなさわんなボケがぁ!!」
「くぉら財前!小春に暴言吐くなや何様じゃボケェ!!死なすぞ!!
小春、公開処刑や!!読み上げてまえ!」
「ちょーっと待ってね〜
あらやだ、この受信メールフォルダーのメール全部保護されてるわ…」
「やめい言うとるやろ糞剥げ茶瓶!」
「黙れ言うとるやろうがー!?」
ついにキレた一氏に口を塞がれ羽交い締めにされた財前にもはや抵抗する術は残っていなかった
「どれどれー…せっかくだから財前が送ったメールやのうて相手の子からのメール読んじゃいましょっ!」
"スマホ買ったんだ〜 俺もスマホって話しはしたよな?多分一緒の機種だぜそれ!"
「財前の事やし、きっとおそろ狙って買ったんやろな」
「「飽きたんすわ」とか言って携帯会社まで変えてはったものね」
「〜っ…!(絶対死なす…!)」
"ぜんざいキモい… 調子のんなや…(・ω・`)"
「「ブフッwww」」
「……(もうやだ死にたい)」
"俺もぜんざいとは会ってみたいけど東京と大坂じゃ難しいよな〜 ぜんざいもしつこいし、そろそろ貯金頑張るよ(^ω^)"
「あらぁ、しつこくしちゃったの?」
「あかんなぁ〜みっともないなぁ〜」
「あら、電話来ちゃった」
「誰から? 大事な用だったらあかんし小春出たれや」
「おっけーっ! はぁーい、こちらは財前くんの携帯よー!」
金色と一氏の独断で電話にまで出られてしまい財前は気が気ではなかった
しかもこの着信音は…!
こうしては居られない、と財前は己の口を塞ぐ手の平に歯を立てた
噛むなら白玉を噛みたかった
…もちろん2つの意味で(白玉善哉の白玉しかり、メール相手の白玉しかり…)
「イッテ!このガキ噛みよったぞ!!」
「噛みたくて噛むか! 金色先輩、ほんま頼むから余計な事言わんといて下さいよ!?」
もう既に自分の名字はでかでかと叫ばれてしまった
よくある名字ではないが、名字だけならまだ特定はされまい
せめて、せめて名前は明かさないでくれと祈らずにはいられなかった
「光くぅん!白玉さんから電話よぉ?」
神はなんとも非情であった
今日という日から、神様の存在なんぞ信じへんわ!クソや!!
名前が知られたのが嫌なのではない
白玉から「教えてほしいな」と言われれば抵抗なく教えていたと思う
しかしだな、「個人情報やからなぁ」なんて言って「変わりに白玉の名前教えろや」とか、「知ったからにはオフで会ってくれるんやろ?」とか、あれこれ要求する事もできたのではないか思うと何とも歯がゆいばかりだった
「もう暴れへん?」
「はぁっ?!」
「約束出来へんなら携帯は返さへんよ〜?」
「くそ…、約束したりますわ! せやから早よよこせ!!」
「はいはい…、ユウ君手ぇ大丈夫〜?」
「大丈夫や!心配してくれはっておおきにな小春ぅ〜!!」
ひしと抱き合うモーホーを横目に恐々と携帯に耳を寄せた
うんともすんとも言わぬ、まさに無言だった
「もし、もし…」
無言に耐えられずお決まりの台詞を口にする
『好いとうよ、財前君…えへへ』
えへへ、なんぞ、笑えへんわホンマ冗談やないぞホンマに…!
手の平から買ったばかりのスマートフォンが滑り落ちていったが、心の底からそれどころではなかった