「ねぇ〜、名前っ!
私、めっさ切なイイ曲見つけたんだ!絶対歌うぜ!!」


放課後、下校の際に幼なじみに捕まって、何を言い出すかと思えば、自作のアップ予告であった
俺はさも興味が無いとういように「へぇ、そう、良かったね」と携帯を片手に極めて業務的な返事をした


「名前が好きそうなラブソングもアップしてたから聞いてみてよ!

ほーら携帯貸してっ!」

「うわっ、や、やめ…」

「ははっ、こうなったら香奈は止まれないからなぁ〜」

「由希、助けてよ…」


香奈(かな)と由希(ゆき)、俺の幼なじみであり、二人はカップルだ

幼なじみの三人の内二人がくっついて、俺だけ一人取り残された
現状はそんな感じだけれど、実際はもう少し複雑だったりする

俺は男である由希に恋愛感情を抱いており、由希は香奈を好きになっていて、香奈は、多分俺が好き

向かい会う事の無い一方通行は、由希の告白によって大きく動きを見せた

由希に告白を受けた香奈は酷く動揺をした
しかし、告白を断れば由希との間には亀裂が入り、この三人で居られる可能性は低い
この関係を変えてしまいたくはないと、あろうことか俺に相談をしてきたのだ


「付き合ってみたら?
俺達、まだ中学生だよ、もし付き合っても、きっと何も変わらないよ」


この一言を言うだけだというのに、酷く吐き気を催した

香奈は悲しさを隠し切れぬまま、無理に笑顔を浮かべて「そっか、分かった…」と言ってうつむいてしまった

これじゃあ、俺が悪者みたいだ


俺は由希に告白する気は無かったのだから、由希と俺は結ばれたりしない
由希と香奈が付き合ったとして、どこの馬の骨がも分からない奴に貰われるよりはよっぽどマシなはずだ

そうだ、そうだよ…


香奈は由希や俺と育って来た事もあり、性格が男っぽい所がある
それが原因か、香奈はマンガやアニメやゲームに興味があり、今では某動画サイトで歌い手になっていた

人気は中の下ではあるが…


話を戻して、最近歌い手デビューを果たした幼なじみ、香奈は俺の携帯を取り上げて、勝手に動画サイトへ接続するとこれまた勝手に検索をかけた

友人とメールしてたんだけどなぁ


「これこれ! 雪星Pね!」

「ああ、聞いた事あるよ
悲しい曲ばかり作る人だよね

ていうか香奈、打ちかけのメールどうした?」

「あぁ、送ったわよ!」

「しね」

「由希ーっ! 名前が苛めるよ!」

「うん、これは香奈が悪い」


俺の罵声を受けて由希に泣きついた香奈は由希からチョップを食らっていた
うん、香奈が悪いから仕方がない


変なメールを送ってしまった事を謝ろうとした時、ちょうどメールの相手から返事が来た


"メール、焦ってたの?
でも、是非って書いてあったって事は、期待して良いんだよね?"


彼も大概、俺の事が好き過ぎると思う

所詮は同じ穴の狢という訳か


"うん、俺なんかで良ければだけど"

"いや、君じゃなきゃ、嫌なんだよ"


俺も由希への思いを自覚してからというものろ腹に黒いものを抱えて、かなりひねくれたのだが、このメール相手も俺に負けず劣らずのひねくれものだった

俺のオフの話はしたので、次はオンの話をしようか

俺は幼なじみの男性に恋をした
けれどもこの思いを告げたりはしないと心にきめていた

その先に幸せを思い描く事ができなかったからだ


周りからの祝福は望めないだろうし、彼が香奈を思って居るのを知っていたからだ

けれど、俺の中に募る思いは腹の中をぐるぐると巡り、それに引きずられるようにして俺の気持ちは下降を極めていた

どこかで、吐き出さねば


そう思案してたどり着いたのが、歌であった

世界には恋をテーマにした歌に満ちていたし、それに自身を重ねるのは容易な事であった
現在進行系で、俺は恋をしているのだから

動画サイトで注目を浴びていた曲を録音して、アップしてみると、それが思いの他評判が良かったようで、アップして数時間後には期待の新人というタグが貼られていたのを良く覚えている


俺が歌ってみたにデビューをした頃、ボカロPとしてデビューを果たしたユーザーが居た

そのユーザーの作る歌は、どこか俺に似た歪みを持った曲ばかりであって、注目を浴びる前から気をかけており、曲を上げれば毎回聞きに行っていた

俺も何曲か動画を上げ、知名度は着々と上がっていた

ある時、そのきっかけは分からないがやっと彼の曲を歌うに相応しい器になったのではないかと、漠然と思えたのだ

うp主の事が知りたい!という声から始めた生放送で、ずっとそのユーザーを注目していた事と、明日そのユーザーの歌を上げる事を告知してみたところ、なんと、そのボカロPが俺の生放送を見に来ていたのだ


"俺の曲を


スケールさんに歌って貰えるなんて光栄です"


そんなコメントが流れて来たのを見て、盛大に動揺したものだ

「つ、釣り…?
本人様だったらすみません…」
"本人ですよ、俺もスケールさんのファンだったんです@雪星"

"本人ktkrwww"

「あ、コテハン有難うございます

お詫びに何かワンフレーズ歌いましょうか…」


"相思相愛じゃないかwww"

"おまいら付き合っちまえwww"

"生歌!wktk!"

"サンドリヨンきぼんぬ!"

"是非恋するアプリを!"

雪星"気にしなくて良いのですが…、スケールさんの歌が聞けるのは嬉しいです"

「サンドリヨン、恋するアプリ…、雪星さんは、何かリクエストはありますか」

雪星"是非、雪の降る星の元よりで"

「それは明日アップするので、だめです

そろそろ時間ですね…、では、雪星P幻の曲、fastをワンフレーズだけ歌ってしめます

参加、有難う御座いました」


"fast?知らんなwww"

雪星"えっ…?"

"雪星Pの幻の処女作じゃないかwww"


"マジでファンだったんだなwww"

「音源は…、クラシックギターで即興でいいかな…」

雪星"録音しmす!1"

"雪星Pみなぎってるwww"

"弾き語りか、すげーwww"


「あまり、期待はしないでほしいです、あ、いきます…」


その後、スカイプールを歌い生放送は幕を閉じた

次の日アップした"雪の降る星の元より"(雪星Pの名前の由来になった曲だ)で、雪星Pの人気に火がついたと言っても過言ではない

お互いがお互いのファンだった事もあり、動画関係以外でも連絡を取るようになっていた

お互い、抱え込んだ歪みを出す事は無かったが、そこには少々の同情と、同族を見つけた安堵のような安心感、相手の腹の底を探る時のような後ろめたさが混ざり合っていた




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