誰しも「特別な存在」になりたいと思った事があると思う

未だに絶賛中二病まっさかりであった高校二年生のある日の事だった

俺の親友と(キスもセックスもしていないが一応)俺の彼女がいちゃいちゃしている姿を目撃してしまったのだ

ぎょっとする親友はまだ可愛いものだ、彼女は驚くほど軽いノリで「あ、バレちゃった」と笑った

度肝ぬかれたよ、ああ、びっくりしたもの

これからは、俺だけを見てくれる子とだけ付き合いたい
俺は今度こぞ、唯一無二の特別な存在になろう(恋人的な意味で)

そんな事を考えながら布団に潜り込んだ



次に目が覚めた時、俺は赤子として第二の人生を歩み始めていた

そして目が開いて、一人で寝返りが打てるようになった頃、俺は自分の特異性を自覚したのだった

他人の考えている事が頭の中に流れ込んで来るのだ
俺が精神年齢高二だったからまだしも、これが生まれたばかりの純粋無垢な赤子だったら気が狂っていたかもしれない

今は赤ん坊を囲う狭い世界でしかないし、聞こえる心の声も両親の物しかないが、高二の俺ですら若干鬱になりそうだもの

外の世界に出たら俺の頭もいよいよ狂うかもしれない

それだけではない
俺の目には人の体の一部にまとわりつく赤いモヤも見えるようになっていた

最初こそ、そのモヤの意味は解らなかったが、それらの持つ意味は俺が小学生に上がる頃には嫌でも理解する事になった


そして時が経ち、俺は立海大附属中学校に通うしがない一般生徒となっていた

いや…、一般生徒、というには少し語弊があったかもしれないな

クラスや学年を問わず、俺の存在は広く知られており、俺は気味が悪くて近寄り難い奇人変人として遠巻きに眺められるような日々を送っていた



そんなある日の事、かったるい体育の授業中(今回の科目はバスケだった)で、彼方へ此方へと動き回るボールを追ってぼとぼとコート内を歩いていた
誰がどう見ても不真面目と取れる態度であったし、実際「何だよあいつ、使えねぇな」と思っている奴等が大半であった

ふと体育館の片隅に目を向けると、バドミントンをする生徒達が目に入ってくる


「やっぱりテニスとは違うね」


なんて言って友人と笑う少年を見て、俺は思わず眉を顰めた

その少年が嫌いな訳ではないし、その少年に何か可笑しな所がある訳でもない

しいて言うならば、少年の左足にまとわりつくモヤが見たことが無いぐらい赤黒く、大きくなって揺らめいていたからである

今までの経験上、俺の見る赤いモヤはその持ち主、その部位に訪れる危機を表していた

そのモヤは色が濃く、大きい程重度の危険が迫っているようなので、きっと彼を襲うであろう危機は尋常ではないものなのだろう

モヤをジッと見つめていると、そのモヤの中にうっすらと情景が見えた

地面に転がった信号機と、切断されて転がった…足かな?

まぁ、このまま行けばテニスはできなくなりそうだなぁ

バスケを監督する体育教師が「あと30秒ー!」と大声を上げた


"あいつ、ムカつくから顔面当ててやろう"

"よそ見してるし…"

"どうせもう逆転できない"

"くそ、もうなんでもいいや"


頭の中に流れ込んできた最悪なヒトリゴトを聞いて、俺はため息を吐きながら振り返った

やはり此方目掛けて飛んできていたボールを両手でキャッチして、数回ドリブルして、ジャンプしてシュート

ほぼ反対側のコート内から放ったボールは ガゴン! と音を立ててゴールへと飛び込んだ


「其処まで! 名字の最後の3ポイントシュートで、Dチームの逆転勝利だ!
お前等、よく追い上げたな!

Aチームも頑張ってディフェンスしてたが、名前にボールが行った時、気抜いてたな
次からは最後まで、気を抜かずに試合に取り組めよ?」


あぁ、あれで逆転勝ちしたんだ…
入れなきゃ良かったかな


「すげーなあいつ、頭に目でもついてんのかな?」

"やっぱ、あいつって変だ"

「ま、まぐれじゃね?」

"なんか、キモイ 何処がキモイか解らないけど、キモイ"

"怖い"


此方をチラチラと見ながら話される内緒話もヒトリゴトも、残念ながら全部筒抜けなんだけどな

あぁ、気分が悪い
胸糞悪い



体育の授業が終わり、体育館から人が出て行く中、やはり少年の左足が纏うモヤは一際赤黒く広がっていた





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