「お前、ジロー相手に勝つなんてすげぇな」

荷物を纏めて(といっても元よりあまり持ち物は無いのだが)平部員コートを出るとジローくんが背中にひっついて来た
非常に重いがそのまま引きずってゆくと青いキャップが印象的な生徒に声をかけられた

えっ?ジローくんって強いの?
だってこの子サボり魔っぽかったじゃん?

そんな事より、見覚えがあるぞ、この兄さん
前世の友人が好きって言ってたキャラクターにそっくりなのだ
という事はこの人、レギュラーやん!

色々な事が脳内を駆け抜けて行った
俺の口からは「はぁ…、どうも…?」みたいな気の抜けた返事しか出て来なかったのが非常に申し訳ない


「あんだけ上手くて非レギュラーで二年生とは恐ろしいなぁ…、流石氷帝」

「えっ?! 俺、三年生だよ!! それにレギュラー…多分まだ今もレギュラーだC〜!!」

「えっ?」

「ジローはサボり過ぎだが、まだ降格はされてねぇよ」

「えぇっ?! ちっちゃいし部活サボってるしてっきり二年生の幽霊部員かと…!
タメ口きいちゃったぜどーしよ!」

「ジローはそういう所気にしない奴だがら平気だろうが…
お前は二年なのか?」

「そうです…二年、氷帝学園に編入予定の名字名前です…」

「そう言えば名前聞いてなかったC〜!! よろしく名前ちゃん!!」

「俺は男なんでちゃん付けはちょっと…」

「俺も三年、宍戸亮 …テニス部入るんだよな? 宜しく」

「あぁ、まだ迷ってて決めてないんですが、入部したら宜しくお願いします…」


ジロー先輩を背中にぶら下げたまま宍戸先輩と握手を交わした
ついでに後ろのひっつき虫はなんとかなりませんかね宍戸先輩

俺の思いが通じたのか宍戸先輩はジロー先輩の頭をガシッと鷲掴みにした


「ジロー、いい加減部活に出ろ! テニスがしてぇなら尚更な!
愛実もお前に会いたがってんだよ、心配かけさすんじゃねぇ!!」

「A〜!? その愛実ちゃんに会いたくないんだC〜!!
やだやだ助けて名前ちゃん!」

「いやいや、俺にどーしろっちゅーのよ…」


部員でもなけりゃまだ氷帝学園の生徒でもないけん、助けられんのだよ

せめてもの慰めにと頭を撫でてやると渋々といった様子で俺から離れていった
丁度そこに見覚えのある銀髪さんが現れたあれは、さっきエンカウントしたイケメンやないか…?
よく見たら傍らにトイレの化身もいた 死ねばええのに


「あぁ〜ジロちゃん先輩だぁ〜!」


トイレの化身はジロー先輩を見るなりぎゅうと抱きついた
ジロー先輩は常時誰かしらに抱きついていたり抱きつかれていたりするのかもしれないなぁ


しかしトイレの化身に抱きつかれたジロー先輩は不快そうに表情をひきつらせた
トイレの化身はトイレ臭はするがアンモニア臭ではなく芳香剤の匂いなので顔を引きつらせる程の異臭はしないはずだ
そしてなにより、見た目だけならえらくべっぴんさんなのだ


「貴方、まだ校内に居たんですね?」

「この先輩に捕まって仕方なくな…」


一度トイレの化身を睨んだという前科からか、イケメンさんは俺を見てあからさまに警戒して見せた
仲良くなりたかったんだけどなぁ

心の中だけでしょんぼりと肩を落とした俺だが、宍戸先輩が発した
「こいつの言う通りだから、そう怒らないでくれないか…?」
という鶴の一声で
「し、宍戸先輩が言うなら…仕方ないですね…」
と、なんか良く判らないうちに許された

宍戸先輩の人望にびっくりだよ


「ねぇ、ジロちゃん先輩、愛実と一緒に部活いこっ?」


…なるほど、そしてコイツがマドンナ転入生の愛実かぁ

ジロー先輩の表情が歪むのも無理はない
テニス部を壊滅させた化け物だもんな

俺は一つため息をついて軽く両手を広げると微笑んだ

「ほら、ジロー先輩、俺のここも空いてますよ?」


ジロー先輩はよほど嫌だったのか間髪入れずに愛実ちゃんをふり払って俺の腕の中へと飛び込んできた…、ちょっとかわいいな、なんて思っていたのに宍戸先輩の一言で俺は地に落とされた


「ジロー…? ったく、誰彼構わずくっつくなって言ってんだろうが」


俺が特別懐かれたんじゃないのね…誰にでもなのね…


「今日はもう暗くなってますけど、まだ練習あるんですか?」

「俺はもう帰るC〜 名前ちゃん一緒に帰ろー!!」

「おぉ、帰り道不安だったから…ジロー先輩が居れば助かります
しかし"ちゃん"付けはやめろやいうとるやんか」


クルクルもっこもこの髪の毛を乱暴に混ぜながら不満を申したが聞こえてないようで、エヘヘという気の抜けた声が帰ってくるのみだった

それを見る愛実ちゃんの表情は驚いているような、親の敵でも見るような、簡単に言うとかなり恐ろしい物だった


「やだぁ! ジロちゃん先輩は愛実と部活いくの〜!!」


愛実ちゃんはハッと我に返ったようにジロー先輩の背中に抱きついて見せた
やっぱり意識して胸を押しつけているのかジロー先輩は「愛実ちゃんっ!胸っ!胸がっ!!」と、大変挙動不審である

それを見る銀髪イケメンさんの表情もまた、恐ろしいものであった
お前もさっき押し付けられてたやん! 思春期やなぁ…





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