隣にいるのを怖れた



 高校生になって、ピアスを開けた。
 一つだけ、なんとなく好奇心で開けた左耳のピアス。思っていたより痛くもなく、簡単に開いてしまったそれは、増やす気もないが塞ぐ気もない。針を通したまま放置している。ただ、片耳ピアスが同性愛者の目印だと知って、もう片方も開けようか考え中。
 塞いでもいいのだが、せっかく開けたのに塞ぐのは勿体ない気がする。開けるときちょっと痛かったし、ピアスも何個か買ったり貰ったりした。……いや、自分で買ったのより貰ったピアスの方が多いと思う。そんなにピアス開けてるのってめずらしいのか?
 髪を茶色に染めたのも好奇心。
 ほんとは金髪にしたかったのだが、目立つのはあまり好きじゃないので手慣らしに茶髪にしてみた。
 それぞれとても似合いすぎているらしく、なぜか不良と思われ、誰も近寄って来なくなったのはつい最近。
 ──不便は、ない。そんな上辺だけの関係に興味はないし、変わらずに友達付き合いを続けてくれる寮の同室者やクラスメイトがいるから。
 しかし、それ以上に不便というか困っていることがある。オレは自分が思っている以上に変なヤツらを引き寄せやすいらしい。
 知らないヤツに絡まれるようになり、しかもなぜか喧嘩を売られて、結局不本意ながら喧嘩のまとめ買いをすることが増えた。まとめ買いを出来るぐらい、そこそこ喧嘩は強いので上手にかわし続けている。生徒指導室だってへじゃない。
 そんなオレでも、どうにも出来ないかわせないヤツが、──…いる。

「また喧嘩したの?」

 下校途中の廊下を歩いていたら、背後から声を掛けられた。見た目不良のオレに声を掛ける物好きなんて限られている。しかも、今回は声だけで誰かはわかってしまった。
 関わり合うと面倒だし厄介だ。それでなくても今日は不本意ながら喧嘩に巻き込まれて負傷している。弱っていると知られたくないし、立ち止れば倒れそうなほど疲れているのも事実で。余裕ぶって歩いているが、実は残りの体力は寮までの帰宅分ぐらいしかない。
 オレは無視する、という選択肢を選んで、振り返らずに帰路を急ぐ。

「ねえ、聞こえてる?」
「……」
「湿布くさいね。怪我したんだ、めずらしい」
「…………」
「怪我したのは左手でしょ?庇っているもんね。カバン持ってあげようか?」
「余計なお世話だ……ッ」

 振り向いた瞬間、目の前に迫っていた相手に顎を掴まれ、傷む左肩を思いっきり力まかせに壁へと押さえ付けられる。
 いわゆる壁ドン?いや、これは違うよね。ドンしたのは背中だし、押さえ付けられたままの負傷している左手も背中もジンジン痺れて痛い。

「あー、顔も怪我したの?可愛い顔が台無しだよ」
「オレは可愛くないし。お前の方が可愛いんじゃね?」
「そう?ありがとう」
「褒めてねーし。……で、そろそろ離してくんない。生徒会長サマ」

 右手に持っていたカバンを投げつけようとしたら、その右手も壁へと押さえ付けられて文字通り拘束される。
 蹴られるのを防ぐためか、足の間には生徒会長サマの足をこじ入れられた。
 見た目は華奢なのに、さすが生徒会長サマ。弓道部主将は伊達じゃない。全然、体が動かないんですけど。

「離したらどっか行っちゃうでしょ」
「あぁ。即行で寮に帰るな」
「──逃げる気?」

 逃げはしない。君子危うきに近づかず、危険なモノを回避しようとしてるだけだ。本能には逆らえないだろ。
 反論する体力はないので、行動で示す。精一杯の反抗にキッと睨めば、生徒会長サマは嬉しそうに微笑んだ。あれ、全く効果なし?

「やっと俺のこと見てくれたね」

 逆効果だったらしい。拘束される力が増して痛すぎる。
 誰かタスケテー。

「ん、あれ。耳、どうしたの?」
「耳?」
「ピアス取れてるよ」

 喧嘩の時に外れたのだろうか。確認しようにも両手は拘束されて確認できない。がむしゃらに暴れて、やっと左手の拘束だけ緩められた。
 慌てて左耳に触れてみれば、そこにはいつもと変わらずピアスが嵌められている。

「うそ。泣きそうな顔しちゃって、そんなに大切なピアスなの?妬けちゃうなぁ」
「──…っ」
「あはっ、食べちゃいたいぐらい可愛いー」

 味見ぐらいいいよね、と唇にちゅっとキスされる。
 イラっとしたので、なけなしの力を振り絞り、痛む左手でありったけの力を込めた腹パン一発くらわして、予告通り即行で寮に帰ってやった。
 誰だよ、あんな危険で変態を生徒会長にしたやつ。俺の楽しい学校生活はこんな外見にした時点で諦めていたけど、なにもない平穏な日々とファーストキスを返してくれ。



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