13
クーアを護りたい、じゃない。
──私が、絶対に護ってみせる。この命に代えても。
父はクーアの目の前で死んだ。救えなかったことをクーアはとても悔やんでいるので、命に代えて、って言うと怒られる。
「誰も死んじゃだめだ。ツェーレはもちろん、トレーネもクヴェルもみんな一緒に生きて、笑いあっていたいんだ」
普段、我儘を言わないクーアが、照れくさそうに呟いていた。
まっすぐツェーレを見つめてくるのは、今も昔もまったく変わっていない。視線を逸らさず何でも言えるのはクーアの強さだ。……嘘も、目を逸らさずに言えてしまうのは想定外で解りにくいけれど。
「守るものが増えすぎちゃって、息苦しいときもあるけど。温かくてぽかぽかして強くなれる、それが“幸せ”なんでしょ?」
私が守るから、強くならなくていいのに。
けど、……けれど、ね。クーアがいないと私の幸せは有りえないから。魔界のためじゃない、私自身の心の平穏のために今日も戦う。
敵は同胞だろうと容赦しない。
先代魔王の取り巻きは、腕っぷしが自慢の脳筋ばかりだった。
魔法を軽んじる魔界での戦いは腕力一辺倒だけど、逆に魔法は体格差も腕力もイーブンにできてしまう飛び道具だ。
氷魔法で場に氷塊を作りだして行動できる場所を制限し、同じく氷魔法で作った武器で攻撃する。二人がかり作った氷塊はかなりの大きさと量があるので壊すのは無理だし、壊れてもすぐに直せて、間髪入れずに再び攻撃できる武器は便利だ。
氷魔法で作った武器は強度に欠ける。どんな作り方をしても、要は氷だということに変わりはない。魔法を解くと水に戻ってしまうので武器を持っているあいだは氷魔法を永続して使っていなければいけないし、氷で出来ているので欠けたり折れたりしやすいのだ。それを防ぐために、武器の元となるもの──、剣の柄を使ったり、逆に刃を仕込む場合がある。
私はそれらを邪道だと思っているので。正々堂々、氷魔法だけで捩じ伏せてみせよう。細い氷の剣は折れやすいが、何本も束ねれば圧し潰すこともできるし、叩き潰すこともできる。
兄が作った氷の大きな氷塊に、自分の作った氷塊も合わせれば、広間の中は侵入者が立てるスペースはない。唯一、クーアが立っている中央付近が立てるだろうか。氷の上に立つツェーレとクヴェルは例外として、侵入者たちは壁を蹴り、部屋を跳ねるように飛び回っている。
そんな侵入者が、突然ぐしゃりと潰れて氷塊の間に落ちていく。一人だけじゃない、二人、三人……、次々と潰れていく。
高速で侵入者を潰しているのは、大きな黒い影だった。
中央にいるクーアの影が長く伸び、黒く、大きな腕が伸びて攻撃をはきながら、逃げる間もなく賊をそのまま、片腕で捩じ伏せている。
「殺すなよ、──バジ」
クーアに呼ばれた黒い影は、名前を呼ばれてぴたりと止まる。影からのっそり、もう片腕も出てくる。腕だけでなく頭、図体とどんどん這い出てきた巨大な魔物は、その肩に当たり前の如くクーアを乗せて立ち上がった。
「ここが一番安全じゃろう?」
「バジは荒いから、安全ではないと思う」
「久しぶりに会ったら、生意気なことを言いおるわい!」
止まっていた腕が大きく横に旋回し、侵入者を薙ぎ払う。威力は氷魔法の比ではないだろう、勢いよく壁に叩きつけられた侵入者はぴくりとも動かない。
「バジ領のバジリス!? 領地に戻っているはず……ッ、」
「かっかっかっ、あまりに不穏で陽動くさかったので、すぐに戻ってきたわい!」
笑いながら侵入者を吹き飛ばす。その勢いは止まらない。
ツェーレとクヴェルが対峙していたはずなのに、半数以上をバジリスクが潰してしまった。
クーアはバジリスクの肩に乗ったまま、心配そうに侵入者を見つめている。
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