01


 銀時が連れ帰ったのは二匹の黒猫。
 確か奇特な銀時は、土砂降りの雨の中へいちご牛乳を買いに行ったはずなのに。……変な物を拾ってきたもんだ。
 しかも、猫はおろか銀時もびしょ濡れ。
 高杉は玄関に佇む銀時にタオルを持っていく。
 そのしっとりとして勢いをなくした銀髪にタオルを被せて、銀時の手から猫を一匹受け取ると用意したもう一枚のタオルで拭いてやる。
 銀時も立ったまま頭に乗せられたタオルで猫を拭きだしたので、高杉は仕方なく猫を懐へそっと入れ、猫を拭いていたタオルで銀時の頭を拭いてやる。
 傘はどうしたか、なんて愚問だ。
 きっと銀時は、猫に傘を差して自分は濡れて帰ってきたに違いない。

「馬鹿だと知ってはいたが、ほんと馬鹿だな銀時」
「うっせ。──…ありがとう、高杉」
「あァ。……食うのか?」
「誰が食うか馬鹿。見過ごせなかったんだよ」

 銀時は親に捨てられて、松陽先生に拾われるまで一人で生きてきた。
 だから、捨てられているモノに弱い。
 また、なんであれ一度護ると決めたモノは必ず護る。
 それがなんであっても。
 自分が傷付こうが、倒れようが関係ない。
 ……怖いのだ。
 失うことを一番怖がって。
 この腐った世界を一番憎んでいるのは銀時なのに。
 全て受け入れて生きようとする不器用な銀時は、馬鹿だと思うが、──……愛おしくて傍に在りたいと思う。

「…仕方ねェな。飼って良いぞ」
「やった!」
「世話はてめーで見ろよ?」
「わかってるって!なぁ、高杉が名前を考えてくんねぇ?」
「フン」
「高杉センス良いし」

 そう言われると、悪い気はしない。
 銀時に小首を傾げて可愛く強請られて、高杉は仕方なく、思いついた名前をぱっと付けた。

「──…モノとウメ」
「ふーん。高杉にしてはそこそこの名前じゃね?」
「ケモノのモノ。ウメキのウメ」
「やっぱりやめろ。その残念な名付けセンス」

 ウメはともかく、モノはちょっと可哀想だ。
 銀時は毛を乾かした子猫を高杉に渡して、もう一匹の猫を高杉から交換に受け取る。高杉も猫を拭いていたので、その毛並みは乾き始めていた。

「…ウメは可愛いな。お前がウメ!」

 抱いた子猫に銀時は頬ずりをして、ウメと名付けた。
 猫は答えるように、ニャ、とか細い声で鳴いた。
 もう一方の名前未定の子猫は、ウメよりか元気らしく高杉が手を放したらよたよた歩いている。
 しかし、ウメが心配なのか銀時の足元に戻ってきた。
 こんなに可愛い黒猫なのに。
 ──モノはねぇよな?

「名前のセンスが悪いパパでごめんな?」
「オイ」

 高杉は不機嫌そうに煙管を取り出して、少し考えて吸うのをやめた。
 その変わり、口寂しいのか銀時の唇を貪った。

「…銀時。てめーが考えれば良いだろ」
「んー。ウメとくればホシかな?梅干し」
「てめーも人のこと言えンのか?」
「うっせ。黙ればか」
「馬鹿はてめーだ、馬鹿。
 ──…ユスラウメ」
「あぁ?」
「桜桃って、花があンだよ」
「じゃあ、ユスラとウメ?
 パパは馬鹿だけど、お前達は可愛い名前で良かったなぁ」
「二匹ともオスみたいだけどな」
「げ」

 そんなこんなで。
 銀時さんと高杉さんは、猫を二匹飼うことになりました。




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