01


 土砂降りの雨の中、そいつは居た。
 空を仰ぎながら。
 薄暗い路地裏のゴミ捨て場に凭れかかりながら。
 俺だけを、……見つめながら。
 懺悔にも似た、愁いて物寂しげな表情で。

「──……高杉?」

 銀時が声を掛けても返事はなかった。
 自分は傘を差しているとはいえ、激しい雨が降っている。高杉の耳には届かなかったのかもしれない。
 ゆっくりと近付けば、銀時は違和感に気付いた。
 右手に握りしめられた刀。
 返り血を浴びた着物。
 そして、赤みを帯びた艶のある黒髪から覗くピンと立った猫のような獣の耳──。

「お前、どうしたんだその姿!?」

 銀時が触れようと手を伸ばせば、嫌がるように頭を振って抵抗する。
 そんな弱った高杉を見ていられなくて、銀時は傘を肩で差しながらしゃがんで、目の前に手を差し出す。

「来いよ、……高杉」
「……」

 返事はなかった。
 ──が、反応はあった。
 怯えながらも、おずおずと。
 心細そうに震えながら。
 今にも泣き出しそうな顔で、銀時を見つめながら。
 差し出した手を掴もうと前のめりになった体は、そのまま銀時の腕の中へと倒れていった。

「おいっ、高杉!?」

 返事なく。
 力なく覆いかぶさったその体は、雨のせいか冷たくてまるで死人のようだった。
 銀時は激しい雨の中、その冷たい体を抱き締める。
 温めるように。
 護るように。
 ……祈るように。



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