08


 二匹の子猫を見る神楽の目は冷ややかだった。
 当然と言えば当然だろう。神楽が定春を拾って来た時は銀時と新八で大反対をして、元の場所に戻して来いとまで言ったのだ。
 そんな銀時が子猫を、──しかも二匹も連れ帰ったのだからこの反応も仕方無い。
 何も言わず、無言で子猫と子猫を抱く銀時をじーっと見比べていた神楽は、黙ったままの銀時へと話し掛ける。

「銀ちゃん」
「……なんだよ」
「猫、飼うアルか?」
「…………悪いか」

 冷やかな神楽の反応は予想していたにしろ、動物が好きな神楽にここまで歓迎されないとは思ってもみなかった。
 名付けてくれた高杉には悪いが万事屋で飼うのは諦めて里親を探そうと思った瞬間、

「きゃっほー!子猫が来たアル!!」

 神楽は嬉しそうに飛び跳ねて子猫に顔を寄せてきた。

「とっても可愛いネ!名前は決まってるアルか?」
「あ、あぁ。白猫がユスラで黒猫がウメ」
「抱いてもいいアルか!?」
「これから病院で診てもらうから、それから……な?」
「わかったネ!!」

 喜ぶ神楽を見て、この様子なら万事屋で飼うのは問題ないだろうと思い直す。
 そうと決まれば首輪やゲージとかも用意しないといけないが、今日中に買いに行けるだろうか。
 高杉と別れる際に、二匹の診察が終わったら連絡しろと言われたが、一体なんなのだろう?
 深く考えないようにして、銀時は二匹の子猫を抱いたまま定春の診察などで世話になっている動物病院へと向かう。



   *



「白夜叉様!こんにちはっス」
「銀時だって。ほんと、名前覚える気ないなー、シミ子ちゃんは」
「…また子っス。白夜叉様に言われたくないっス」

 高杉に連絡すると、港に停泊している鬼兵隊の艦へと呼び出された。
 栄養不足のためか成長遅れが心配され、急遽入院することになったウメを病院に預け、銀時はユスラだけ抱いて艦へと来ている。
 少し軽くなった、腕の中が寂しい。
(まだ拾って一日なのに、情が移っちまったなぁ)
 寂しさを紛らわすように来島の手元を見ると、持っていたのはとても不似合いな物だった。

「住宅物件案内?」
「そうっス。白夜叉様も選んでください!」

 目の前にずいっと出されて、銀時は戸惑いながらも目を通して行く。
 物件は全てが庭付きの一軒家で間取りもそれなりに多く、買うにしろ借りるにしろ高そうだ。

「この家はどうっスか?港に近くて晋助様にすぐ会えるっス」
「コンビニは?」
「すぐ近くにあるっス。スーパーも」
「……日当たりも良さそうだし、いいんじゃね?」
「じゃあ、ここで良いっスか?京のカタログも用意しましたけど」

 京の物件がなんだというのか。鬼兵隊の隠れ家に使うのなら銀時には関係ないし、聞かれる意味も選ばされた理由も解らない。
 しかも、ここで良いと聞かれたということは、まるで自分がそこに住むみたいだ。
 何かおかしいと銀時が首を捻っていると、来島は銀時の腕の中の子猫を見つけて大きな声で叱りつけ始めた。

「赤ん坊に猫はダメっス!アレルギーの心配が……」
「へ?」
「こっちで引き取るんで、白夜叉様は身重だから新居でじっとしてるっス」
「身重?新居??だ、誰の……!?」

 身重って、子供が腹にいるってことだよな?
 新居って、新しい住まいだよな??
 意味が解らず子猫を抱いたまま頭をぐるぐる回す銀時。
 しかし、いくら考えても解らないものは解らない。というか解りたくない。この状況で考えられることは一つしかないのだから。
 銀時は腹を括って来島に問い掛ける。

「また子ちゃん、赤ん坊に新居って……なに?」
「晋助様と白夜叉様に子供ができたって、晋助様から聞いたっス」

 開いた口が塞がらない。
(やっぱりかよ!!)
 話の内容からそうだと予想はついたが、当たったら当たったで何故か悲しくなる。だが、今は悲しくなっている場合ではない。

「だ、誰の子供が出来たって!?」
「晋助様と白夜叉様っス!めでたいっス!!」
「子猫!できたんじゃなくて、拾ってきたの!!」

 説明すると、そうだったんですか?と残念そうに来島は首を傾け、

「武市先輩は懐妊祝いを買いに行ったっスよ?」

 最後にとどめを刺してくれた。
 男の俺が子を孕む訳ないじゃないか!
 高杉のヤツはどんな説明を二人にしたのだろう?恐ろしくて聞く気にもなれない銀時はしゃがんで項垂れる。

「……また子ちゃん。俺、泣いていい?」
「鳴くのは夜だけにしとけ、銀時」

 素知らぬ顔で現れたのは噂を流した張本人の高杉だった。その手にも大量の住宅物件案内があるのを見ないフリして銀時は叫ぶ。

「高杉ィィ!てめー、なんてこと言ってんだァ!?」
「何をだ?それより銀時。ウメはどうした?」
「ウメ!?あ、成長が遅れてるから様子見で入院になった」

 正直に言うと、ウメが入院したのは心配だがユスラ一匹だと世話は格段に楽だ。子猫二匹の世話は神楽が手伝ってくれるにしろ大変なので、万事屋に依頼があった時はどうしようかと考えさせられる。

「変な心配はいいから、仕事中に預かってくれると助かるんだけど」
「あァ、いいぜ。いつでも預かってやらァ」
「……いいのか?」
「俺と銀時の子じゃねェか。気にすンな」
「やめてくんない?そういう変なこと言うの、やめてくんない」
「いっそ泊まっていけ」
「なに言ってんの?」

 高杉って猫好きだっけ?
 てか、そんなに子猫が心配なの?
 高杉の意外な一面に目を点にして驚いている銀時を余所に、

「そうか。一緒に暮らせばいいのか」
「はぁ!?」

 高杉はとんでもないことを言い出した。
 一緒に暮らすとか冗談かと思ったが、高杉が冗談なんて言うわけがない。至って真面目なので性質が悪い。

「両親が揃ってねェのは子供の教育上悪いだろ?あと銀時。子供の前ではちゃんと俺をパパって呼べよ」
「ちょ、高すぎ…ッ」
「艦内が嫌ならてめーのとこで決まりだな。布団一式は持参するとして、あとは何がいるかなァ……」
「もしもーし。ちょっとは俺の話を聞いてくれない?」

 問い掛ける銀時を無視し、高杉は腕を組んで考えながらぶつぶつと呟いている。
 銀時は悪い予感しかしなかった。
 高杉の口から出た、一緒に暮らすだの艦内が嫌なら俺のとこだのをまとめると、つまりは万事屋で一緒に暮らす気らしい。

「待て待て高杉!よーく考えろ!!」

 銀時は必死に高杉を呼び止めるが聞こえていない。ごそごそと着物を揃え、煙管盆も持参するのかタバコの葉を大量に用意しているようで準備は着実に進んでいる。
 こうなっては手遅れだ。中二病の末期だ。
(見捨てて逃げるしかねぇ!!)
 銀時はユスラを抱いて高杉に気付かれないよう、そそくさと部屋を出る。
 この現実から逃げられないにしても、少しばかりは時間稼ぎができるはずだ。万事屋にやってくるであろう高杉への策も講じれる。
 なんでこんな事になってしまったのかと、泣きたいのを堪えて銀時は来たばかりの艦を後にした。


 なんとか万事屋に帰り着いたものの、良い考えは全く思い浮かばない。
 銀時は客間のソファに凭れかかり頭を抱える。空気を読まないやんちゃなユスラだけが、楽しそうに銀時の膝上で跳ねていた。
 高杉のあの様子だと、今夜中にやって来てしまうだろう。しかも居座る気満々だ。それだけはなんとしても避けなければならない。
 だが、いくら考えても悪い考えが増えるだけだ。
 銀時の暗い心境を知らない子猫は、銀時にちょっかいを出すのを飽いたのか、膝を下りると何を思ったのか玄関へと向かう。

「どうしたんだ、ユスラ?」

 ユスラは玄関の前にちょこんと座る。
 さっきまで飛び跳ねていたのが嘘のように大人しく。まるで誰かが来るのを待っているかのように。
 怪訝に思い銀時が玄関の戸を開くと、そこには風呂敷を背負い布団と枕を抱えた高杉が立っていた。

「来たぜ」
「…………」

 今日から、拾った子猫二匹と、押し掛け女房ならぬ押し掛け旦那の高杉と万事屋で一緒に暮らすことになりました。
 もう一匹の子猫は入院中ですが、明日からとても楽しみです!

「──って、認めるかァァアァァ!!」

 玄関で叫ぶ銀時を残して高杉は勝手に万事屋へと入り、銀時の自室に敷かれたままの布団の隣りに持ってきた布団を敷いて横になっている。欠伸までして、これは今にも寝る体制だ。
 しかもポンポンと布団を叩いて一緒に寝ろと催促している始末。
 もう手に負えない。

「早くしろ銀時。ユスラも眠そうだぜ」

 なぜかその布団にはさっきまで玄関に座っていたユスラがおり、しかも高杉の隣りで寛いでいる。
 銀時はいろいろと諦めて玄関の鍵を閉めると、迎えに来た高杉に引き摺られるようにして自室へ──、高杉の敷いた布団へと連れ込まれた。




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