05


 銀時が拾ってきた猫。
 興味も関心もなかったはずなのに、この感情は何だろう?
 ……触れるのも。
 見るのも、甘える相手も。
 てめーは俺一人で良い。

「──銀時」
「あぁ?」
「なに唇を舐められてンだ…?」
「落ち着け!相手は猫だ!子猫だってば!!」

 子猫が相手だというのに、高杉の目は怒りで吊りあがっていた。
 以前、攘夷戦争時代に高杉に言われたことがある。
 桂や坂本は別として、他の仲間に対し色目を使っただの誘惑しているだの、高杉に理不尽に怒られた。
 身に覚えのない銀時はいつも高杉に逆らい、喧嘩して言い合いになり、最後は酷い目に遭わされるの繰り返しだった。
 今も、まさしく同じ状況。

「──もしかして、…ヤキモチ?」

 抱いた感情の名を銀時に悟られて。
 らしくなく、高杉は苛立ちのせいか頭を掻く。
 その反応で銀時は解る。これは、図星をさされて隠す時の仕草だ。

「…小さいなぁ」
「あァ!?」
「背じゃねーぞ。心が、狭いなって思って」

 舐める物がないのに、ずっと銀時の口元を舐め続けるユスラ。
 銀時がくすぐったくて手で塞ぐと、今度はその手を舐め始めた。子猫だからといって空気を読まないのにもほどがある。
 高杉が先程から睨んでいるのに全く効果はない。

「……悪ィかよ」
「ううん。嬉しい」

 きょとん、と。
 頭に指を伸ばしたまま、目を見開いて静止する高杉。
 珍しい高杉の失態に笑いそうになるが、銀時は堪えて言葉を続ける。

「……俺はさ、高杉。受け入れる覚悟が出来てるから、さ。高杉が誰と居て、誰と寝ようが驚かない自信があるし、何とも思わない。…と思う」

 ポリポリ鼻の頭を掻きながら銀時は呟く。
 高杉と視線を合わせたくないのか、俯いているので声は聞き取りにくい。
 それでも、高杉には全て届いていた。
 銀時が隠していた胸の内も。
 照れているせいで視線を合わせられない

「いや、ちょっとはヤキモチ焼くかな…?」
「いっぱい焼け」

 高杉は銀時の肩に乗るユスラを床に下ろして。
 それは自分のモノだと言うように、銀時の肩に腕を回して抱き締めた。下ろされたユスラは鳴いて抗議している、が。
 高杉も、……銀時も。
 相手の表情は見えない。
 見えていないのに。
 相手の声以外、聞こえない。
 聞こえていない。

「たかす、ぎ」
「焼いて焼いて、俺に縋れ」

 高杉が言い終わる前に、銀時は高杉の首元に抱き付く。
 照れて、──…嬉しくて。
 ほんとは泣き出してしまいそうな銀時の唇を高杉が塞ぐ。
 息苦しいはずだが、より一層、銀時が高杉に強く抱き付いているのは気のせいではないだろう。
 唇を塞がれて、抱き締められて。
 銀時は気付いた。
 どこか安心している自分に。
 猫相手だけど、ヤキモチ焼いて自分を束縛しようとしている高杉。その腕の中は温かくて心地良く、離れたくない。
 ──離したくない。
(…そっか。俺も、独占したいのかな?)
 高杉が銀時を抱き締めていると、真似をするように子猫二匹も銀時にすり寄ってきた。
 まるで母親を取り合う子供。
 ……正確には、母親を取り合う子供と、独占欲の強すぎる旦那サマ。

「こいつらって、高杉に似てねぇ?」
「──てめーに似てるの間違いなんじゃねェか?」
「なんでだよ」
「甘いモンが好きで、俺に甘えてくるトコとか」

 拗ねて鳴き続ているユスラの頭を高杉が撫でてやると、気にくわないのかウメが間に入ってくる。
 そんなウメの喉元を銀時がゴロゴロ撫でまわす。

「それを言っちゃえば、ウメはユスラが関わるとすげー嫉妬深いぜ?」
「あァ。ヤキモチ焼くぞ」

 それぞれ猫を撫でて満足すると、抱き締め合ったまま布団に寝転んで笑い合う。
 もっと撫でられたいらしく、子猫も後を追うように布団に潜り込む。
 睦言も、性行為もないけれど。
 込み上げてくる笑いが止まらないのを、銀時も高杉も感じた。
 こんな夜の過ごし方もたまには悪くない。



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