04


 金色の目。
 きらきらと輝いて。
 対に翠色をてらてらと宿して。
 紅い目、ふたつ。
 こうこうと全てを逸らさず映して。
 ──見つめ続ける小さな瞳。

 銀時が拾ったのはオスの黒猫が二匹だと思っていた。
 が、どうも違うらしい。
 若干ではあるが体格がそれぞれ異なっている。同じ母猫から生まれた兄弟にしてはウメの方が大きいので、きっと同時期に生まれた兄弟ではない。
 しかし、ここまで差異があったとは。

「ユスラ。てめーの毛並みは銀色かァ」

 最初に銀時が連れ帰った時から、ユスラはあまり濡れていなかった。びしょ濡れで帰ってきた銀時が拭いたとは考えにくいので、元から濡れてなかったのだろう。
 しかし、もう一匹のウメは濡れて毛並みが溝鼠のようにへこたれていた。
 きっとウメがユスラを庇っていたのだ。
 降りしきる雨の中から、自分より小さいユスラを。
 高杉は風呂に乱入し濡れてしまったユスラの毛を拭いてやる。その毛は柔らかく、くるくると丸まっていて触り心地が良い。
 丁寧にタオルで擦ると、今まで薄汚れていたのか黒ではなく鈍い銀色の毛並みが現れた。
 銀色の毛色に、赤い瞳。
 嫌でもどっかの誰かさんを彷彿とさせる。

「…てめーも惹かれて離れられなくなったのか?ウメ」

 胡座を組んで座る高杉の膝上、ちょこんと座るウメと目線が合う。
 腕の中で心地良さそうに目を瞑るユスラとは正反対に、大人しいウメがニャーと鳴いた。

「生意気にヤキモチか」
「誰がヤキモチだって?」

 高杉が振り向くと、背後には風呂上りの銀時が立っていた。髪からぽたりと水滴を落とし、右手には牛乳と小皿、左手にはいちご牛乳を持ちながら。

「てめーじゃねェ。猫だ」
「俺は猫にヤキモチ焼いたりしねぇ!」
「違う。ユスラを抱いたらウメがヤキモチ焼きやがった」
「へぇ…?」
「てめーも俺にヤキモチぐらい焼け」
「なんでだよ。高杉にヤキモチ焼くぐらいなら、俺はケーキを焼くね」

 銀時は高杉からユスラを預かると高杉の目の前に座った。
 持ってきたいちご牛乳を脇に置いて、子猫用に拝借した二枚の小皿に牛乳を入れようと封を開ける。

「銀時」
「あぁ?今ちょっと忙しいんだけど」
「ウメを見てみろよ」

 高杉の膝上のウメを見る。ウメは銀時を待っているのか、大人しく座ったままだ。

「…へぇ。ウメは目の色がそれぞれ違うんだ」

 ウメの右目は遠い空のような、深い海のような、濃い森のような、──…あお。
 瑠璃色、というのだろうか。
 そんな不思議な色合いで。
 見ていると吸い込まれそうになる。
 逆の左目はというと、透き通った金色の色彩。右目とは全くの正反対で、色が無かった。

「翠色と金色?」
「──オッドアイ、って言うンだぜ?左右で目の色が違う猫」
「ふーん」

 高杉みたいだと銀時は思ったが、口には出さなかった。
 黒く艶やかな毛並み。
 誇らしく胸元の一部分だけ白く。
 ゆっくりと歩く姿はどこか貫禄というか、威厳がある。
 そんなウメの前にミルクが入った皿を差し出すと、警戒しながらも近付いて、ゆっくりと優雅に舐め始めた。

「うわっ、や、ひゃっと、と」
「銀時。ウメがミルク飲んでるぜ」
「そ、あっ、だぁぁ!?」
「──で、てめーは何を手間取ってンだ?」
「ユスラがミルクを飲まねぇの!」

 ユスラは銀時が用意したミルクの入った小皿に目も向けない。
 あっちこっち歩き回り、挙句ピョンピョン跳ねて暴れ回っている。

「だぁぁあぁぁ!静かにいちご牛乳も飲めやしねぇ!!」

 そんな状況でもいちご牛乳が飲みたいらしい。意地で紙パックのまま飲み出した銀時の口元を。
 ぺろり、と。
 ユスラはわずかに零れたいちご牛乳を舐める。
 何度も小さな舌を出して、美味しそうに。
 銀時の肩に乗って強請るように。
 舐められた方の銀時はというと、目を見開いて驚いてはいたが、飲んでいることが嬉しいのか目を細めて笑っている。
 それを見ていて。──ぷつり、と。
 高杉はどこか頭の中で、糸が切れる音を聞いた。




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