04
翌朝になっても高杉は目覚めなかった。
死んではいない。
呼吸はしているし、時々ごそごそ寝返りをする。手を差し出せば、無意識に握り温めてくれた。
ただ、眠りが深いみたいで起きないだけ。
叩き起こしてやろうかとも思ったが、眠る高杉の顔が思いのほか幼くあどけないのと、起こして昨日みたいにべったり引っ付かれるのは嫌なのとで、銀時はあえて起こさなかった。
「……どうしようかなぁ」
寝ないように銀時は高杉の眠る布団脇の畳に寝転ぶ。
目を閉じて何度か寝返りをうてば、すぐに睡魔がやって来た。柔らかい布団も、温かい掛け布団もないのに、今なら簡単に寝入ってしまうだろう。
しかし、寝る訳にはいかない。
昨日の高杉が夢でも幻でも演技でもなければ、尚更だ。
精神が後退した子供のような状態の高杉から目を離す訳にはいかないし、起きないのなら銀時が起きているしかない。
(懐かしい……かも)
襲撃に備えて寝ずに番をした、攘夷時代を思い出す。
今は襲撃も奇襲もへったくれもないので、こんなに眠っていないのは久方ぶりだ。
戦は日中行うので、夜は見張当番でなければ、寝ているか酒を飲んでいることが多かった。
よく酒盛りをしていたのは、坂本と桂、高杉と自分の四人。
坂本は飲むといつも以上に上機嫌になって踊り出す。
桂は飲むと小言が多くなりぐちぐち怒られた。
高杉は一人で飲み進めて、銀時の分の酒まで飲み干してしまう蟒。いつも酔って潰れた銀時を介抱してくれたのはなぜか高杉だった。
楽しくて、遠くなった過去──。
銀時が攘夷時代を思い出し、うとうと浅い眠りに誘われていると、その静寂を破るように携帯のバイブレーションが頭上で響いた。
目をこすり、銀時は手を伸ばし携帯を探す。
携帯は手探りではなかなか見つからず、半開きの瞼でやっと見つけて掴み取る。
死んだ魚のような目でディスプレイに表示された電話番号を睨むと、半覚醒の意識で通話ボタンを押した。
『晋助様ァ!無事っスか!?』
電話に出ると、甲高い女の声が耳を突き抜けた。
「痛ぇ……」
『晋助様?晋助様ァァアァァ!?』
「うるせぇな。ちょっと落ち着けって」
寝起きの不機嫌な声で銀時は女に喋りかける。
女は黙ってしまうと、電話口の向こうで誰かと話をしているようだ。
(……めんどくせーなぁ)
眠くて、五月蠅くて、…眠い。
電話口から聞こえたのは確かに晋助の名前だったと思うが、眠いので気のせいだったかもしれない。
現に、今は何も聞こえない。
銀時が電話を切ってやろうかと思ったその時、電話口から男の声が聞こえた。
『晋助、ではござらんのか』
「違げーよ。声聞きゃ解んだろ、ボケ」
『……その声、白夜叉でござるか?』
「あぁ」
『晋助は近くに居るでござるか?』
「居るには居るが、……──あぁ!説明めんどくさっ!!話が長くなるから、ちょっと万事屋まで来てくんねぇかな?」
『……』
「俺は別にいーんだけど、高杉が、…ダメなんだ」
未だ目覚めない高杉。
そんな高杉を残して出掛けるのは危険だし、もし起きたとしても街中を連れ歩くのは困難だ。もし何かあった場合、銀時一人では対処が出来ない。
「無理か…?」
『……解った。すぐに行くでござる』
銀時の返事も聞かず、電話は一方的に切られた。
「…あ。眠いから早く来いって言い忘れた」
銀時はあくびを噛み殺し、大音量で通話していたにも関わらずに眠り続ける高杉の髪を梳いて、顔を洗うため洗面所へと向かう。
途中にある客間の机に、持ってきてしまった携帯電話を置いて。
寝室で、のそりと起き上がる気配を感じながら。
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