03


「はぁ……」

 銀時のため息の先には、見慣れない赤色の携帯電話があった。
 自分と同じ瞳の色の色彩。
 血より深い、闇を帯びたダークレッド。
 持ち主はそれを意識して使用していたのなら、随分悪趣味だと銀時は思う。
 もちろん、銀時の物ではない。
 この携帯電話の持ち主は別にいる。
(覚えてねぇみたいだから、仕方ないんだけどね)
 着流しの裾を掴んで離さない。
 銀時の布団を占領して眠っている相手。
 そう。
 土砂降りの雨の中で拾った、高杉が持っていた物だ。
 他に所持していたのは刀と煙管ぐらい。
 唯一、鬼兵隊と連絡が取れる手段なのだが、……雨で濡れてしまってデータは消えている。
 不幸中の幸いなのは、なんとか充電は出来て電源も入るには入った。
 通話が出来るかは別として。

「……どうすっかなぁ」

 もう一度ため息を吐くと、あどけなく眠る高杉の髪を梳く。
 この部屋に布団は一式しかない。
 高杉がその布団で眠っているので、銀時は眠る場所がないのだ。

「はぁぁ。どうすっかなぁ…」

 銀時は携帯を放り投げて、掴まれたままの着流しの裾から高杉の指をそっと掴む。
 離すことは出来なかった。
 なぜか、この指を解くのが惜しい気がして。
 その指を握り返して、横になる。

「…あったかいな」

 高杉はいつも冷静沈着で不敵な嗤いばかりしているから騙されるが、抱き締められるたび、体を繋げるたびに思い出す。
 その腕の力強さを。
 その温もりを。
 その心地良さを。
 銀時は誘われるように、ごそごそと布団の中に足を入れる。
 もっと中へ。
 もっと奥へと潜り込むと銀時の足は高杉の足に当たった。
(やばっ…)
 起こしてしまったかと思ったが、高杉は起きずにそのまま眠っている。
 普段の高杉では有りえないだろう。
 攘夷時代は敵の夜襲に備えて眠りは浅かったし、今だって似たような生活だから変わってはいないはずだ。
 そんな高杉が起きない。
 起きるどころか、その足は銀時の足に絡まって離れない。

「お前は、ほんとに高杉なのか…?」

 枕元に木刀を置いて。
 すぐ起きれるように寝巻きには着替えず、銀時は瞳を閉じて眠りに入る。
 今、この弱い子供みたいな高杉を護れるのは自分だけだから。
 護らなければ。──絶対に。
 温もりを求めて、銀時は高杉に抱きついた。
 胸の鼓動が聞こえて、ほっと安心したのだろう。
 なぜか涙が流れていた。
 その涙を高杉の胸元で拭い、懺悔のように呟く。

「……ごめんな、高杉」

 許されることもないし、許されたい相手もいないのに。
 銀時は殉教者の気分で眠りに就いた。




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