01


 肌寒くなってきた、秋口の朝。
 目覚まし時計は鳴っていないので起きるまでまだ時間はある。もうちょっとだけ眠ろう、あと五分は布団にいてもいいはずだと半覚醒の頭で銀時は思った。施設の食事係を引き受けている銀時は、子供たちよりも早起きしなければいけない。この半年で染み付いた体内時計の起きる時間は正確で、寸分の狂いもないので時計を見なくても大体の時間が解る。
 今寝たら起きられないかもしれない、という不安はあるが、布団から出たくないのも事実で。銀時が起きていなかったら桂がなんとかするだろう。昨日、銀時はバイトで帰りが遅かったのは桂も知っているし。
 肌蹴た肩が寒くて銀時はごそごそ手探りで布団を探す。よいしょと引っ張るも、なぜか重くて動かない。
 なぜこんなに布団が重いのだろう?おかしいと思いながらも更に引っ張ると、不思議なことに布団が自分からかぶさってきた。──温かくて、少し重い。
(……ん?重い?)
 ごそごそと重さの元凶を確認するため、嫌々ながらも目を開ける。
 目どころか頭も一気に覚める光景が、そこにはあった。

「なんで一緒に寝てるの?晋助」
「………ェ」
「うるせェ、じゃないし!子供じゃないんだから、一人で寝ろよ!」

 引き剥がそうとするも、銀時をがっしり抱き込む高杉の腕はなかなか外れない。こんな狭い二段ベッドに、高校生の男二人で寝るなんてありえないだろ。
 しかも高杉は寝るときに愛用している白いうさぎのぬいぐるみを持参している。一緒に寝る気満々じゃねぇか。え、何これ。いじめ?嫌がらせ?
(そういえば、こんなの前にもあったな)
 二か月前の高杉の誕生日の夜、いろいろあって疲れていた銀時は、二段ベッド上段の自分の寝床まで辿り着けず、下段の高杉の寝床で不覚にも眠ってしまったのだ。その時は夏だったこともあり、銀時の寝床である上段の布団で高杉は寝たのだが、

「銀時の匂いがして、よく眠れた」

 高杉は意味のわからないことを呟いていた。
 いや、意味などわからなくていい。わかりたくもない、俺の匂いってなんだよ。よく眠れたとか、ありえないし。
 それから、銀時的には不本意ながらも時々だが寝る場所を交換するようになった。今日は高杉が上段の銀時の布団で寝ているはずだったのに。

「離せって!晋助!」
「……あったかい」
「はぁ?寒いの?風邪でも引いた?」

 心配そうに高杉の顔を覗きこんでくる銀時の、腰を抱いた腕に力を込める。
 利用して悪いが、こんなことできるのが年下の唯一の特権だから。銀時が何も言わなくなったのをいいことに、高杉はその腕の中にもぞもぞと頭を埋めた。


   *


 どんっと大きな音を立てて弁当箱が机に置かれる。
 髪が邪魔だったか?と桂が長い黒髪を結おうとしたが、どうやら違うらしい。桂は食器洗いをしながら横目で銀時を見る。弁当箱を置き、戻ってきた銀時は無言で食器拭きを手伝ってくれていた。
 ──銀時の機嫌が悪い。それも、とてつもなく凶悪に。
 そんじゃそこらの出来事では怒らない銀時が朝から怒っている。そういえば、黙々と料理しながらも包丁さばきは荒々しかった。
 それは作った弁当にも表れていて、弁当箱に詰められたウィンナーと卵焼きは焦げており、しかもなぜか高杉の弁当だけ異常な数のミニトマトが詰め込まれている。高杉はミニトマトを嫌いではないが、嫌がらせとしか思えない量だ。一緒に詰められた白米は海苔どころかふりかけも掛っていない。高杉だけじゃなく、銀時自身の分でさえ。……これは、相当きている。
 むすっと膨れっ面で、何も喋ろうとしない銀時。桂は理由を知っている。銀時が怒る理由は同室の高杉以外に考えられないからだ。
 珍しく今朝の銀時は寝坊していた。それも理由の一つかもしれない、桂は背後で悠々と朝食を食べる高杉を見やる。
 我関せずの高杉は、朝食を食べながら器用なことに用意された高校生組三人の弁当の白米に海苔を千切って蓋を閉め、布で包んでいた。いつもは銀時がやってくれるのだが、銀時はじろりと高杉を睨んだまま動こうとしない。

「──ほら、銀時。弁当用意できたぜ」
「作ったのは俺だろ!」
「いつも有難うゴザイマス。ほら、遅刻するから早く用意しろ」
「まだ食器を拭いているんですぅ」
「俺がやるから、洗濯物干して鞄持って来いよ」

 高杉は食べ終わった食器を桂に渡し、銀時から布巾を受け取ると積み上がった食器を拭き始める。銀時が施設に戻るまで家事は交代制だったので、高杉も家事はそこそこ出来るのだ。──料理を除いて。
 パタパタ銀時が走り去るのを確認して、桂は高杉にお灸を据える。

「高杉、いい加減にしろ。だからお前は背が伸びないんだ」
「…背は関係ないだろ」

 何もしていない、と否定しないということは何かやらかしたな。
 まったく、高杉は銀時を前にすると堪え性がない。今日は銀時の誕生日だというのに、朝っぱらから怒らしてどうするのだ。
 食器洗いが終わり、桂はわざとらしく溜め息を吐くと弁当を持って学校へ向かおうと廊下へ出る。すると、身支度を整えた銀時とすれ違う。銀時が向かっているのは玄関ではない。桂が出たばかりの台所だ。
 何事かと戻ってみれば、銀時が小脇に抱えていた黒色のカーディガンを高杉に投げつけているところだった。

「なにすンだよ、銀時」
「……寒いんだろ。風邪、引かれると困るし」
「あァ、……ありがと」

 高杉は学ランを脱ぎ、いそいそと着込んで再び学ランを着る。
 銀時は高杉と自分の分の弁当箱を手に取ると、先に玄関へと向かう。いつからかは桂には解らないが、高杉の自転車で二人乗りをして学校へ登校するのが日課になっている。
 二人分の弁当を持った銀時が、高杉を急かす声が聞こえた。



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