01


※女体化で途中に性描写があります。


 俺は、自分の髪が嫌いだった。
 人と違うふわふわで纏めづらい天然パーマの銀髪は、どこにいても悪目立ちするし、上級生や教師からは目を付けられる。因縁を付けられ絡まれたのは一度や二度じゃない。地毛だと言っても信じてもらえず、黒く染めろ、切って来いと言われるのは日常茶飯事で、学校が嫌になり不登校になったのは懐かしい話だ。

「俺は、綺麗で好きですぜィ。旦那」

 そんな物好きはお前だけだと、同じく地毛が色素の薄い栗色で同級の沖田に言ったことがある。
 銀髪だけなら白髪と似たような色だし、人はいずれ辿る道なのだからどうでもいいじゃないかと思うが、銀時はちょっと違う。
 色のない銀髪とは対照的に、その瞳は爛々と輝く鮮やかな赤い色彩を持っていて。
 人ならざるものが見えたりはしない。
 しかし初対面の人間からしたら、とても不気味だと自分でも思う。
 だから沖田はおかしい、と。そう思っていたのだが。
 ──それを超える相手が、…いた。


 もふっ、と銀時の頭を大きな手が撫でる。
 その髪の感触を確かめているようで、ぽすぽす叩いては撫で、叩いては撫でてを何度も繰り返された。
 初対面の相手に、了承も得ず何をやってんだコイツ。
 文句の一つでも言おうと赤い爛々とした瞳で見上げれば、相手は口角を上げて楽しそうに銀時の銀髪を撫でていて。あまりに楽しそうなので、銀時は口を噤(つぐ)んだ。
(……なんて、楽しそうな顔してんだよ)
 文句を言えなくなった銀時を余所に、ひとしきり撫でて満足したらしく、相手は懐から煙草を取り出し吸おうとして──その手を銀時に叩かれる。ぼとっと煙草とライターが落ち、高杉は不服そうに銀時を睨む。

「てめーは誰だ」
「いまさら!?ちょ、髪を触る前に聞くとか…」
「名前」
「……っ!一年の坂田です、高杉先輩。あと、未成年なんだからタバコは吸わない方がいいんじゃないですか?背、伸びませんよ」
「犯すぞ、てめー」

 高杉は凄みながら落とした煙草とライターを拾い、そっと懐へと仕舞った。
 こんなヤツと一週間、一緒に罰当番をするのかと思うと頭が痛い。しかし、さっきまで居たはずの教師はそそくさと逃げるように去っていて、銀時は仕方なく渡されていた巡回ノートに自分と高杉の名前を書き込んだ。
 ──罰当番。それは教師から生徒へ与えられるペナルティ。本来なら授業が終わった放課後に順番形式で行っている、教室の戸締まりや廊下のゴミ拾いをするという巡回を、素行の悪い生徒や問題行動をした生徒に行わせるものである。
 本来なら教師も共にいるはずなのだが、今日の当番が問題児の高杉とあって逃げたらしい。これでは意味がないのでは?と思いながら銀時は巡回を始める。

「なんで高杉先輩は罰当番になったんですか?」

 授業のサボりは勿論、遅刻早退は当たり前で教師でさえ手を焼く問題児の高杉の噂は、学年が違えど銀時の耳にも入っている。問題児の高杉なら遅刻や早退、サボリ程度では罰当番などにならないだろうし、高杉の性格なら罰当番の見回りなど面倒だとサボってもおかしくないのに……。

「退屈だから」
「……さいですか」
「何もかもが平凡で、退屈だったから、教室で耳にピアス穴を開けてたンだよ。──そしたら、先公に止められた」

 なぜ平凡で退屈だったからという理由で高杉がピアスに行き当たったのか、しかもどうして教室でピアス穴を開けるという暴挙に至ったのか、疑問は多々ある。学校で行ったとあれば、教師が止めるのも当然と言っていいだろう。
 聞きたいことはあるが、相手は初対面で行動が予測不可能な高杉。聞くのを諦め、銀時は相槌を打つだけにした。

「ま、そうでしょうね」
「それがタイミング悪くてなァ。止めようとした先公のせいで手元が狂って変なとこ開けちまって、血が止まらなくて流血沙汰?」
「…マジで?」
「先公も血を見て倒れやがって、教室内が大惨事」

 言われて高杉の耳を見てみると、耳には絆創膏が貼られている。痛々しいそれは、興味が失せたので塞ぐつもりらしい。ピアス穴は学校で開けない方がいい、と高杉は変な忠告までしてくる始末だ。誰が学校で開けるか。
 因みに今日の罰当番から逃げた教師が倒れたらしい。教師からしたら高杉とは二度と関わりたくないだろう。逃げた教師に銀時は心の中で合掌した。

「で、てめーの罰当番の理由は?」
「おれ?俺のは──…髪、です」
「あァ。気合い入ってンな」
「見事な銀髪でしょ?地毛なんですけど、黒く染めて来いって言われて、けど染めるの嫌で教師と言い争そったら罰当番になりました」

 もっとも、言い争ったのは自分ではなくクラスメイトの沖田だが、その辺は省いた。自分が元凶には変わりないから。
 しかし、他人に無関心そうな高杉が銀時の理由を聞いてくるとは予想外だ。今日初めて話したが、その言動からして高杉は絶対に自己中で厨二病だと銀時は思う。
 学校での他愛のない話をしながら巡回すること約二十分、順調に巡回も終わり、スタート地点の職員室から一番遠い、ゴールとなる端の理科準備室まで来た。

「これで今日の罰当番は終わりですね」
「あァ。──ほら」

 すっと、高杉は手を差し出してきた。なんだ、この右手は。

「なんですか、この手?糖分でもくれるんですか?」
「…違う。ノートを職員室に置いてくるから寄こせ」
「ありがとうございます。高杉先輩」

 銀時がお礼を言いノートを手渡すと、高杉はわずかに目を細めた。何か機嫌を悪くさせることを言ったかな?と銀時が高杉を見つめていれば、

「先輩は止めろ、くすぐってェ。じゃあ、また明日な。──銀時」
「へ?なんで名前知ってるの!?」

 高杉は銀時の問いには答えず、ノートをふらふら振って行ってしまった。
 なぜ高杉が教えていない銀時の名前を知ることができたのか、一生懸命考えるも銀時にはわからず、首を傾げるばかりだ。


   *


 罰当番二日目。
 高杉は集合場所の職員室前に、決められた集合時間に遅れることなく銀時を待っていた。これは意外だ。小腹が空いて、糖分を買いに売店まで行っていた銀時の方が遅れている。
 高杉が罰当番をサボると予想していたので、銀時は買った糖分をのんびり補充できなくなってしまった。仕方ない、巡回しながら食べ歩こう。

「遅ェ」
「二、三分遅れただけだろ。気が短いなぁ、デートじゃあるまいし」
「なんで遅れたンだ」
「糖分を買ってました!」

 ほら、と袋いっぱいの駄菓子を見せれば、高杉は額に手を当てて蹲る。甘いものは好きじゃないらしい。もっとも、好きだと言われても高杉に分ける気はないが。
 昨日と同じように、楽しげに銀時の髪をもふもふ弄る高杉へ銀時は遅れた分も含めてぺこりと一礼する。

「今日もよろしくお願いします。高杉先輩」
「──…高杉でいい」
「えっと、じゃあ、今日もよろしくです。…高杉」

 後輩の自分が呼び捨てにしてもいいのだろうか。しかし、本人がいいというのならいいのだろう、うん。銀時は少し気恥ずかしくて高杉の顔を見れずに俯く。
 そんな銀時の頭を高杉はぽんっともう一撫でしてから、用意していた巡回ノートに高杉と銀時それぞれの名前を書き込む。
 昨日、高杉が銀時の名前を知っていたのは、このノートに書かれた銀時の名前をそっと垣間見たからだと今日になって気付いた。


  *


 罰当番三日目。
 学校一の問題児と言われる高杉は、話してみると全然問題児ではなかった。
 銀時は罰当番を巡回するときしか高杉と一緒にいないが、待ち合わせ時間に遅れることはないし、終えると必ず巡回ノートを職員室へ返しに行ってくれる。案外、フェミニストなのかもしれない。
 最初はさすがに話しにくかったが、高杉は根が真面目なのか、銀時が聞けば大概のことはなんでも答えてくれる。学校のことや部活のことなど、話しだせばネタが尽きることはない。
 罰当番の始まりの恒例となった、髪を撫でる行為は日増しに長く、しつこく、勝手に結った髪を解くなど大胆になっていくが、不思議と銀時も嫌ではないので黙ってされるがまま、受け入れている。
(──…嫌、っていうか、むしろ、……好きかもしれない)
 高杉が、じゃない。撫でられるのが好きなんだと自分に言い訳し、銀時は解かれた髪を結わき直す。
 すると、高杉がぬっとコンビニ袋を取り出して銀時に握らせる。

「なんですか?これ」
「中、見てみろ」
「わっ!」

 ごそごそと袋の中を覗けば、なぜかチロルチョコが山ほど入っていた。
 高杉が銀時のために、わざわざコンビニで買ってきたのだろうか?どんな顔で、どんな気持ちで選び、買ったのかを思うと胸が熱くなる。

「甘いもの、好きなんだろ?…やる」

 最後に、またぽんっと髪を一撫でされ、手を繋がれた。
 ──どうしよう。ずっと、高杉と一緒にいたい。
 こんな気持ち始めてだ。
 これを、もしかしたら好きっていうのかもしれない。
 銀時は顔を真っ赤にしながら、ありがとう、と小さな声で呟いた。



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