03


 結局その夜、銀時は高杉の家に泊まった。
 高杉のセックスは長く執拗で、初めて抱かれた銀時としては負担が大きかった。気付いたら翌朝で、体は高杉が洗ってくれたのだろうか。後孔に違和感などなく、銀時は高杉のパジャマに着替えさせられ、高杉のベッドで一緒に眠っていた。
 パジャマからそっと服の下を確認すれば、高杉の好きなように弄られた体には記憶にない愛撫の跡がいろんな箇所に赤く残されて、首や鎖骨付近はもちろん、胸や、腹、太股にまであった。──やりすぎだろ、これ。
 赤面する銀時の隣りにいる当の本人に聞いたら、恋人に痕を残すのは普通だと言われてしまった。初めてが高杉なのでこれが普通なのかわからない銀時。抗議するのを諦め、家に帰るのが面倒なので高杉の家で朝食を食べさせてもらうと、慌てて家へと戻った。
 用意周到な高杉から連絡があったらしく、母親は心配する素振りもない。
 絶対に、何か、おかしい。
 今日からどんな顔して高杉に会えばいいのかわからないのに、こんなに緊張しているのは自分だけとか。え、どうして?
 銀時は穴があったら入りたい──、布団にくるまって隠れたい衝動を抑え、平静を装い恒例となった弁当作りを進める。今日はいつも以上に時間がない。待たせている高杉が焦れて、階段を上ってくる足音が聞こえる。
 急いで弁当箱におかずとご飯を詰め、手さげに入れて家を飛び出す。
 戸を開けると高杉が目の前にいて、胸に飛び込む形ではち合わせてしまった。高杉はぽんぽんと銀時の頭を叩き、寝癖がついてンぞ、と普段通りに笑う。
(…え?意識してるの、俺だけ?)
 なぜ平静なのかを問いただしたいが、自分の家の前で恥ずかしいので止めた。
 意識するのが馬鹿馬鹿しい。しかし、高杉より経験値が少ない銀時はすぐ普通には戻れない。
 階段を下りながら、平常心、平常心と何度も呟く。心をなんとか落ち着かせ、銀時は急いで作った弁当箱の入った手さげを高杉に差し出す。

「ほら、高杉の弁当」

 素直に受け取ればいいのに、高杉は不審な顔をして弁当箱を受け取らない。

「……おい」
「ん?」
「てめーの弁当はないのか」
「時間がなくて高杉のしか作れなかった。俺は買い弁するから気にすんな」
「てめーが作った弁当だろ。てめーが食え」
「ヤダ」

 高杉が何を言っても、銀時は譲らなかった。
 ──強情で、可愛くない。
 ほんと、昔の素直で可愛かった銀時はどこへ行ってしまったんだか。
 弁当を俺のために作ってくれるのは嬉しい。しかし、銀時の分がないのでは本末転倒ではないか。なぜ、食い意地が人一倍はっている銀時が、自分の弁当ではなく高杉の弁当を作ったのか、高杉には理解できなかった。

「…だって、高杉貰うだろ」
「あァ?」
「取り巻きの女子から貰ったの、食べようとしてるだろ」

 思いつかなかったがその手もあったか、と高杉が手を叩く。
 しかし、高杉が叩いた手は銀時にはたかれる。さりげなく痛い。しかも弁当箱が入った手さげを無理やり握らせられる。
 文句の一つでも言おうと銀時を睨めば、泣きだしてしまいそうな銀時の赤い瞳が、高杉をじっと見つめていた。

「…俺、男だし、全然可愛くなんかないし、年下だから高杉と釣りあわないし……。だけどっ、他の子から貰ったのは食べてほしくない!高杉はずっと、俺の作った弁当だけを食べてればいいの!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る銀時。
 そうか。銀時に不安を与え、強情にさせていたのは俺の方だったのかもしれない。
 ──訂正。
 強情で可愛くないけど、俺のために意地を張ってしまう可愛い銀時が、ずっと今も大好きだ。



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