滴るのは雨粒


 ぽつんと、窓枠に落ちる雨。
 どうやら持たずに雨が降り出してしまったようだ。梅雨だから仕方無いとは言え、突然降りだした雨。銀時の待ち人は確実に雨に降られるだろう。
 静かに、ゆっくりと着実に雨足は強くなっている。こう夜遅くては傘を買えるのはコンビニぐらいだけど、目立つのが嫌いな待ち人は絶対に傘を買わない。待ち人──、高杉がするであろう行動に銀時は確信があった。

「珍しく会いたいなんて言うからだよ、ばーか」

 高杉の日頃の行いが悪過ぎるからだと銀時は思う。
 だが、久々に会いたいと言われて内心嬉しかったのも事実で、高杉の日頃の行いが悪いとはいえ少し可哀想だと思い始める。

「……しゃーねぇな」

 銀時はめんどくさそうに頭を掻きながら自室の箪笥からタオルを取り出す。ふわふわの、日の匂いたっぷりの白いタオル。片手にタオルを持って銀時は居間へ戻りソファへ座ろうとして、はたと止まる。
 これでは高杉が来るのを今か今かと待っているようではないか。
 そんな勘違いをされるのは嫌だ、──絶対に。
 しかし、突然降ってきた雨に高杉が濡れてしまうのは確実で。銀時はタオルをどうしようかと持ったままソファの周りをうろうろ徘徊していると、
 ──…ピシャリ。
 わずかながら空気が震え、玄関の引き戸が閉まる音がした。玄関の鍵は高杉が来ると思って未施錠なので、誰かが入って来てもおかしくはない。

「……高杉?」

 銀時が声を掛けるも返事がない。
 そっと間の仕切り戸を開けて確認すると、そこにはやはり銀時の想像通りにびしょ濡れの高杉が玄関に佇んでいた。

「高杉っ!?」

 水も滴るいい男ではあるが、これは滴り過ぎだろう。
 銀時は慌てて駆け寄ると持っていたタオルを高杉の頭に被せる。ハリネズミみたいに濡れそぼった髪をごしごし力いっぱい拭く。
 当の高杉はというと、タオルの端で懐から取り出した煙管を丁寧に拭いている。
 あまりにも違いすぎる拭き方に、されるがまま拭かれていた高杉が銀時に文句を言う。

「もっと丁寧に拭け、銀時」
「うっせ。拭いてやってるだけマシだろっ」

 心配そうな銀時とは反対に、高杉は嬉しそうに口元を歪める。嗤いたいのを堪えているようだ。

「……ククッ。銀時ィ」
「なぁんだよ!今忙しいの!!」
「タオルなんか持って来て、俺を待ってたのかァ?」
「──ッ、」

 違う、と言いたいのに。
 銀時は言葉を紡げなかった。
 高杉が目を細め、あまりにも嬉しそうに嗤っているから。

「ち、違う!調子に乗んなよ、ばか」

 銀時はどもりながらも慌てて否定するが、すでに遅かったようだ。高杉の嗤いは止まらず、むしろ声が大きくなり酷くなる。
 これ以上、何を言っても後の祭りだ。
 銀時は嗤い続ける高杉に弁解するのを諦め、顔を赤くしながら髪を拭き続ける。
 今まで以上に強く、ごしごしと。
 ひとしきり嗤い満足した高杉は、何を思ったか拭いた煙管を懐に戻し銀時の肩へと両手を置く。
 何をするのか怪訝に思った銀時が手の動きを止めた瞬間、高杉は銀時に倒れ込むように抱き付いた。
 銀時が必死に逃げようとするが、高杉は許さない。

「──…ッ!?たかす…っ」
「あァ、悪ィ。てめーも濡れちまったかァ。なら、一緒に風呂入ろうぜ」

 間延びし、空惚(そらとぼ)けた高杉の口調。
これは偶然なんかじゃない。故意に決まっている。
 しかし、解っているのに銀時はなぜかその腕を振り解けなくて、高杉に抱えられたまま銀時は浴室へと連れ込まれた。

「離せ、高杉!」

 文句は言えるのに拒めないのは、高杉のせいだ。
 雨が降っているのも。
 梅雨なのも、──高杉が嬉しそうだとつられて銀時が嬉しくなるのも。
 全部、高杉のせいだ。
 ……けど、偶には悪くない。


(2011.6.6〜2012.8.13)



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