嘘つきの祝福 06


 銀時は高杉の手を引いて人混みに紛れた。
 悔しがる土方と沖田を置き去りにして、まるで隠れるように。
(ほんと、高杉っていい性格してるよなー)
 さも愉快気に嗤う高杉とは対照的に項垂れながら歩く銀時。その手にはしっかりとパフェ食べ放題のチケットが握られている。高杉が大量にゲットした他の景品は半泣きの長谷川に返したので、手元に残ったのは高杉が最初に落としたこのチケットだけだ。
 別に銀時が強請ったわけではない。高杉が黙って銀時に寄越し今に至る。
 そんな高杉の優しさに、銀時がほんのちょっと嬉しくなったのは高杉に教えない。知ってらァ、って鼻で笑われるに決まっているから。
 ──もう、頃合いだろう。
 まだ食べ足りないが祭りはもう充分堪能した。本当は明日が良かったけど、そろそろ高杉にネタばらししないといけない。
 名残り惜しくて、銀時は歩を遅くする。

「お兄さん寄ってかない?すーっと涼しくなる、地獄のお化け屋敷だよ!」

 客寄せの店員に呼び止められ、銀時はお化け屋敷の前で立ち止まった。
 入口の隙間から見える作り物の地獄は暗く、壁には赤を基調とした地獄絵図が描かれ、無造作に置かれた墓石の後ろには銀時の嫌いなおどろおどろしい幽霊の格好をした人が立っている。
 ──こんなもんじゃない。
 本当の地獄はこんな生易しいものじゃなかった。
 噎せ返るような鉄の臭い。羽織りは浴びた血液で重く、腕は刀を握り疲れて硬直し痺れている。足の感覚はとうに無くなり、何を踏んでいるのかも解らないほどだが、そんな足を叱咤して前へと進む。
 たくさん人を斬って、仲間の骸や天人の屍を乗り越えてきた。
 あれは地獄以外の何物でもない。
 だから、俺は地獄を見たことがあるし、──逆に、天国よりも近い楽園を知っている。



『──が、…………から』

 高杉の声が聞こえた気がした。
 不遜で傲慢ながらも、優しく銀時に話し掛けてくる高杉。それは今とは違い、変声期前のちょっと高めの声。
 ──そうだ。あの日も俺は、高杉と祭りに来ていた。

「……」

 銀時は松陽先生に仕立ててもらった藍色の浴衣を着て、珍しそうに神輿を見上げる。初めて祭りなるものに来たのだ。人の量もさることながら、賑やかさと熱気に息が出来ないほど高揚していくのが銀時にも解る。
 飛び散る汗と人々の歓声。
 わっしょい!という掛け声と共に間近まで迫る神輿。
 立ち並ぶ様々な屋台にはずらーっと美味しそうな食べ物が売られ、見たことがない商品や遊技もある。
 きょろきょろと物珍しく祭りを視ていたら、高杉と桂が居たはずなのに気付くと二人はいなかった。
 どうやら二人とはぐれてしまったらしい。
(……どうしようかな)
 銀時は悩みながらも、見たことがない祭りに惹かれどんどん奥へと進んでいく。

「おや、迷子かい?」

 見知らぬ男に話し掛けられ、銀時の足が止まる。
 訝しげるも、銀時は素直にこくりと頷く。
 すると、男に手首をがっしり掴まれて抵抗する間もなく無理やり引っ張られてしまう。

「おじさんがイイところへ連れて行ってあげよう」

 嫌がり抵抗するも力では全く敵わない。男は人混みから遠ざかり、脇の草むらへと銀時を引きずるように連れ込む。
 必死で助けを求めて伸ばした手。そんな銀時の手を、誰かが握る。

「おい!──ッ、銀時!!」

 銀時の手を掴み、呼び止める高杉はいつもの取り澄ました顔じゃなくて。汗で張り付いた前髪に流れ続ける汗と荒い息で、どれだけ銀時を探していたのかが解った。
(……しんすけ…っ)
 握られた手に銀時は縋り付く。
 高杉は銀時を庇いながら変質者が腰に帯びていた刀を奪うと、鞘から抜かないで思いっきり変質者の股間を殴打した。
 崩れて身悶える男を一瞥し、高杉は何か言いたそうな銀時に心配させないよう不器用ながら笑い掛けて祭の人混みへと戻る。

「……が…とう」
「あァ?何か言ったか」

 ぶんぶんと銀時が否定の意味で首を振れば、高杉に思いっきり額を弾かれる。

「──が、…………から」

 高杉の言葉を理解し、銀時が頷くと高杉はため息を一つ溢してから笑って。
 優しく銀時の頭を撫でた。
 怯えさせないよう、ゆっくりとぎこちなく。

「あの時、高杉はなんて言ったんだっけ。…思い出せないなぁ」

 頭を掻きながら銀時が歩きだそうと前を見ると、先を歩いていたはずの高杉の背中が見えない。
 いつから一人だったのだろう。銀時は慌てて人混みを掻き分け高杉を探すが、エリザベスのお面も特徴のある紫がかった黒髪も見当たらない。
 立ち止まって左右前後全て確認するも、やはりどこにも高杉らしき姿はなかった。

「あれれ?……もしかして、銀さん迷子??」

 けど、不思議と怖くない。
 なぜだろうかと銀時が首を捻れば、聞こえるはずのない声が聞こえた。

『俺が、必ず迎えに行くから』

 ──…あ。思い出した。
 変質者を追い払った後、手を引かれながら銀時が高杉に言われた言葉。
 必ず迎えに行くから。だから迷子になったら動くンじゃねェぞ、と高杉は銀時の手を繋いだまま離さなかった。祭り中ずっと。

「手、離してんじゃねーよ。ばか」

 高杉が傍に居て。
 文句を言いつつ迎えに来てくれるのなら。
 この世界で生きるのも、……悪くない。
 今と同じように、あの日の銀時も子供ながらにそう思い繋いだ手を握り返した。
 ぎゅう…っと繋いだ手は痛かったかもしれない。しかし高杉は何も言わず、ずっと手を繋いでいてくれた。



[リクエスト]
仔高銀で祭中に変質者に銀が無理やり連れてかれ必死になる仔高──です。
小さい銀時さんはあまり喋らないイメージなのでこんな感じ。
けど晋助って呼んでるのが可愛い!
リクエストありがとうございました^^



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