嘘つきの祝福 05


 ──懐かしい熱気と衝動。
 夕闇煙(けぶ)る先に見えたのは、色とりどりの華やかな提灯。通路に溢れかえる浴衣を着た人々と、人垣の両脇には等間隔で並ぶ屋台。かぶき町はいつも賑やかだが、今日はより一層賑やかさを増している。

「……銀時、何処へ行くンだ?」
「へ?祭りだよ、祭り。夏祭りだって」

 銀時にされるがまま、お面を付けられた高杉が問い掛けた。その手は未だ銀時に繋がれ、残された片手は銀時から渡された巾着袋を大切そうに持っている。付けているお面と同じキャラクターの白い天人の顔型をした巾着袋は、よく見るとがま口の財布だった。袋と間違えたように、その形状は財布というよりも丸々と大きな巾着袋に近く、中には溢れんばかりに百円玉が入っている。
 わざわざ祭りのために両替したのか、はたまた貯金して貯めたのか。──きっと後者に違いない。銀時は両替なんてまどろっこしいことはしないだろうから。
いつも金がないと口癖のように呟く銀時が、高杉を祭りに連れ出したのも煙管を返さない理由も解らない。
 しかし祭りは久しぶりだし大好きだ。来てしまったからには思いっきり遊んでやろう。
 高杉はがま口財布に付いている紐を持ち、ぶらぶら揺らしながら銀時に手を引かれ付いて行く。

「その財布、紐が付いてるだろ?早く首から下げろよ」
「かなり重いぜ?てめーが下げろ」
「えー、ヤダ。重いしカッコ悪いもん」
「てめーが言うな」
「高杉ならカッコイイと思うんだけど。紐は長いから、首じゃなくて肩で斜めに掛けてみれば?」

 銀時は財布の紐をひったくると高杉の首に掛ける。嫌がる高杉がわずかな抵抗をするも、銀時によって無理やり首に掛けられてしまう。
 不服そうな高杉を余所に銀時ははしゃいで嬉しそうだ。

「──ちッ。仕方無ェな」
「何か言った、高杉?」
「何でもねェよ。……チョコバナナが食いたいのか?」
「そう、買って!んで、次は綿菓子に林檎飴にあんず飴に…」
「聞いてるだけで甘ェ」
「文句あんのかよ」
「無ェ。さっさと選べ」

 銀時が見つめていた視線の先の屋台はチョコバナナ屋。焼きそばでもなくたこ焼きでもないのが銀時らしい。どれにするか散々悩んだ挙句、銀時が選んだのは黒いチョコレートが掛かったコアラのマーチ付きのチョコバナナ。
 二人は屋台を見ながら歩き、銀時は買ったばかりのチョコバナナを美味しそうに食べる。ゆっくりと食べ進め、最後の一口を悩んだ末に高杉の口へひょいと放り込んだ。
 突然の銀時の行動に高杉は驚いて瞠目する。
 これではまるで、恋人同士の夏祭りデートではないか。
(……てか、銀時はデートのつもりなのか?)
 高杉は口に入れられたチョコバナナを咀嚼し、嬉しそうな銀時を盗み見る。微かに残っていた陽も沈み、提灯が灯されているとはいえ辺りは暗い。銀時の頬は祭りの熱気のせいか、はたまた照れているからなのか解らないがほんのり赤く染まっていた。
 ──悪くはない。
 銀時の方から繋がれたままの手も、伝わる体温も、……鼓動も。
 高杉は銀時に中(あ)てられたのを隠すように話題を変えた。

「そういえば、餓鬼共はどうした?」
「祭りに来てるよ」
「何でてめーは万事屋に残っていたンだ?」
「……あの綿菓子美味しそう!」

 話しを上手くはぐらかしながら銀時は別の屋台へと向かう。話しはぐらかしたいが手は離したくないらしく、──ずっと繋いだまま。
 もしかしたら明日と言いながら、銀時は高杉が今夜来るのを確信犯で待っていたのかもしれない。
 手の上で踊らされた六日間も含め、手に負えないと高杉は自嘲気に嗤った。

「銀時。綿菓子……」
「え、綿菓子も一口食べたいの?」
「──違ェ。まるで共食いみたいだ」
「うっせーな。一口やんねーぞ」
「要らねェから気を付けて喰え。そこ、髪にくっついてンぞ」
「ふぇ?」

 高杉は綿菓子が絡まった銀髪を指で掴み、髪ごと舐め取る。
 舌を伸ばし、ねっとりしゃぶるように。

「てめっ、何やってんだ!」
「あァ?綿菓子を取ってやってるだけだろ。てめーの体は隅々まで舐めてるじゃねェか。何を今更照れてンだ」

 恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら抗議していると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。
 そこにいたのは──…、

「なんだ?その変なお面を付けたヤローは」
「えっと、俺の……友達?そういう大串君はお祭りのパトロール?大変だね」
「大串じゃなくて土方だ!!」

 真選組鬼の副長と呼ばれる土方十四郎と、一番隊隊長にして問題児の沖田総悟だ。
 土方は銀時を怒鳴ると不機嫌そうに煙草を取り出して吸う。流れるような所作に整った顔で、女性なら見惚れてしまうかもしれないが、火を付けたライターは残念なことにマヨネーズ型で全てを台無しにしている。

「じゃあパトロール頑張ってね、総一郎君」
「旦那、いつも言ってますが総悟でさァ。……で、その変なお面ヤローは何も言わずに逃げるんですかィ?」

 逃げる、という言葉に銀時ではなく高杉がぴくりと反応した。
 場をなんとか丸く収めたい銀時とは裏腹に、高杉はお面越しに殺気を飛ばして臨戦態勢に入る。

「なんだ、やるのかお面ヤロー」
「──喧嘩を売ったのはそっちだぜ?」
「そんな変なお面付けている方が悪い。まるでどっかの攘夷志士みたいで胸糞悪くなる」

(ヅラのせいかァァアァァ!!)
 銀時は叫びたいのを堪えて心の中で叫んだ。お面の隙間から覗いた高杉の顔も、苦虫を潰したような苦々しい顔をしていた。
 だが、銀時と高杉の違いはこの後で。
 高杉は苦々しい顔から一変、唇を上げて嗤う。さもおもしろいことを思い付いたように。
 ──不味い予感しかしない。
 こんな顔をしている高杉は大概くだらないことを考えているし、銀時では抑えられなくなる。
 祭り中の喧嘩は止めてもらいたいし、高杉のことがバレると大変なので早々に切り上げたい銀時は高杉の着物の裾を引っ張って必死に土方達から離れようとするが高杉は止まらない。

「あのー、せっかくのお祭りだしさ…」
「──あァ、解った。そうだな、祭りらしい勝負にしようぜ」
「ちょ……っ」

 着物の袖を捲くり上げ、高杉はやる気満々だ。
(全然、何も解ってないよ!)
 銀時の心の叫びを無視して勝手に話は進む。現実を逃避しようと視線をふらふら彷徨わせた銀時は、屋台に立っているある人物に気付く。

「あれ、長谷川さん?こんなところで何やってんの?」
「銀さんじゃん!なかなかお客さんが入らなくて困ってるんだよね。射的やってかない?」

 その言葉にしまったと思うがもう遅い。
 銀時がそっと視線を戻すと、三人は射的を見つめニヤリと嗤い、

「土方さん。射的なんてどうですかィ」
「「──上等だ!!」」

 息もぴったりに食らい付いた。



 三人に見つめられ、銀時は頭を痛めながら悩む。
 悩んでいるのは他でもない三人の勝負についてである。頭を押さえながら、銀時は上段に置かれたある景品を指差した。

「あのパフェ食べ放題のチケットがほしい」
「旦那。俺がゲットしたら一緒に食べに行くのはいかがですかィ」

 景品を狙いながら沖田が無駄口を叩く。
 三人の勝負方法は至って簡単。銀時が指差した景品のチケットを落とした人の勝ちである。順番は公平にジャンケンで決め、沖田、土方、高杉の順に一発ずつ打っていく。泣いても笑っても一度きりの勝負だ。
 一番初めの射手は沖田で、普段もバズーカを使用している点も含め得意だと思われたが、無駄口を叩いたのが災いしたのか外してしまう。
 外すとは思っていなかったらしく、沖田は頭をぽりぽりと掻いて気まずそうに笑う。

「いつもバズーカだから外しちまったぜィ。…てへ☆」
「てへ、じゃねぇ!!」
「そんなに言う土方さんは一発で仕留められるんですねィ」

 仲間割れを始めた真選組チームは、沖田がドSの本領を発揮してなぜか土方にプレッシャーを掛ける。ドSパワーで手元が狂ったのか、土方の打った弾はチケットを掠めるも落とせなかった。

「フン。真選組はこんなモンか」
「そういうお面ヤローは一発で仕留められるんですかィ?」
「……副長サンも一番隊隊長サンも見てやがれ」

 高杉はお面を付けたまま景品に狙いを付ける。お面越しでは普段と感覚が違い、狙いづらいはずなのだが……、それを上回る集中力と感性でクリアして。
 四人が見ている中、高杉は宣言通りにチケットを一発で当てて落とす。
 長谷川から落としたチケットを受け取ると、高杉はお面からわずかに覗かせた口元を上げて不敵に嗤う。

「これで終わりかァ?」

 ニヤリと嗤う高杉に挑発されて、今度は三人同時に打って時間内にどれだけ商品が取れるかの勝負になった。
 最も、今度の勝負も正確な射的で商品の半分以上を落とした高杉の圧勝だったが。



[リクエスト]
お面をつけている高杉さんに気付かない真選組と鉢合わせ!そのまま原作ギャグパートのノリで夜店の遊技対決突入で一人勝ち高杉さん──です。
銀時さんを乱入させようか悩みましたが、高杉さんをカッコ良くしたかったので乱入はなしで^^
リクエストありがとうございました!




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