嘘つきの祝福 04
来島また子の探し人はなかなか見つからなかった。
別に見つからなくてもいい。
来島が会いたい訳ではないから。
──ただ、艦の舳先に座り込んで一人愁いている高杉を見ていられなくて。万斉や武市に止められるも勢い余って市街へと出てしまった。
日中は真選組がパトロールで巡回しているので見つかる危険度は遥かに増す。早く目当ての人物を探し出し、問題の煙管を返してもらって帰らなければ。
万事屋は留守だったので、かぶき町の商店街を一通り探す。しかしいくら探しても見つからないので、来島は人通りの少ない裏通りから路地裏の裏の裏まで隅々まで探し歩く。
すると、探し人である坂田銀時が見慣れない店から出てくるのを見つけた。
(……?こんな店になんの用があるんスか?)
どんな店か気にはなったが、銀時を見失っては元もない。来島は人混みに紛れる銀時を走って追い掛ける。
のらりくらりと歩いていたので、表通りに出る手前で銀時に追いつくことができた。
「白夜叉!晋助様に煙管を返すっス!!」
「……なに、高杉に言われたの?」
呼び止められた銀時は立ち止まると来島に聞き返す。
問い詰めているのは自分なのに何かおかしいと思いながらも、来島は首を横に振って否定する。
これは高杉を思ってのお節介だから高杉は関係ない、と。
「悩んで愁いている晋助様も素敵っス!けど、見ていられないんスよ」
「ふーん。じゃあ、高杉に伝えてよ。明日、万事屋まで取りに来たら返してやる、ってさ」
「明日?──…あ、」
何か言おうとした来島の口を銀時は指先で封じる。
来島もなんとなく理解した。ここ数日の銀時の不審な言動の意味に感づいたので、瞠目しながらも無言で頷く。
──これ以上は踏み行ってはいけない。
何も、言ってはいけない。お節介がお邪魔虫になってしまう。
遠ざかっていく銀時の背を、来島は追わずに見送った。
“──この感情を何と呼ぼう”
ずっと、逃げている訳にはいかない。
答えを出さなければいけないのは自分だって解っているし、気付いている。
煙管を奪われたこの六日間、高杉が考えるのも思うのも銀時ばかりで片時も頭から離れない。──離してくれない。
これが、銀時の望みだったのかもしれない。
銀時の望みだったに違いない。
胸の中に葛藤を抱いたまま、高杉は万事屋の戸を引いた。
「あれ?高杉、また子ちゃんから聞かなかった?俺は明日返すって言ったんだけど」
「明日まで待っていられるか。銀時、いい加減にしろ」
「えー。まだ俺、高杉から好きなもの貰ってないし」
「いいから早く返せ。返さねェと……」
「返さないと、俺をどうすんの?」
高杉が言葉に詰まる。
どうにか出来るならもう既にやっているし、銀時を無視して煙管を奪い返しているだろう。
それがどうして出来ないのか、高杉にもはっきりした理由が解らない。
解らないだけに不愉快だ。
高杉が凄味を増して隻眼で銀時を睨むと、銀時は両手を上げて降参のポーズを取る。
「──はいはい。ほんと、短気で俺様なんだから」
銀時は諦めたように、袂からごそごそ何かを取り出すと高杉へと投げつける。
ぽすっと着物に当たる感触。
それは、高杉の望む煙管ではなかった。
「……?」
手に持ちじーっと眺める高杉。
眺めている、というよりは考えあぐねているという表現が正しいだろう。
白地に黄色いクチバシと丸い目が描かれているお面。
それは、昨日桂に渡されて道に捨てたはずの物だった。
銀時が拾ったのは覚えているが、なぜそれが此処にあるのだろう。
怪訝そうにお面を持つ高杉の手から銀時はお面を奪うと、高杉の頭にゴムを掛けて斜めに被らせる。顔半分を覆うお面は高杉の顔を上手く隠し、宵闇も相成ってぱっと見では指名手配犯の高杉晋助だとは解らない。
最も、高杉の性格を知っている者なら高杉がこんな巫戯けたお面をしているとは思わないだろう。鬼兵隊や、真選組隊士も含めて。
「──良し。じゃあ、行きますかっ!」
満面の笑みで高杉に微笑む銀時。それは高杉が見たかった、嬉しくてたまらない時の銀時の顔だった。
そう、最初から答えは出ていたのに、なぜあの時はっきりと言えなかったのだろう。
昔から銀時が好きなのは自分だったではないか。
こんな簡単なことなのに、随分遠回りをしていた気がする。
──たくさん、言いたいこともあった。
だが銀時の嬉しそうな微笑みに怒りも憤慨も全て打ち消され、しかも許してしまっている自分の心境の変化に高杉は気付く。
(……仕方無ェな)
何が良しなのか解らないが、高杉は銀時に手を引かれて万事屋を後にする。
お面と同じキャラクターであろう、白い天人の顔型をした巾着袋を持たされて。
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