それを愛と言うのかも? (2011.2.14)


 バレンタインデーの一週間前。
 依頼を終えて夕方の混み始めた商店街の中。
 大江戸スーパーの一角で、銀時は足を止めた。
 そこはバレンタインデーの特設コーナーで、可愛らしく包装されたチョコレートや手作り用の材料が所狭しと陳列されていた。

「バレンタインか……」

 そう言えば、もうそんな時期だった。
 甘い物は作るのも食べるのも大好きだ。銀時にとっては楽しいイベントの1つでもあるのだが。
 問題といえば、悲しいかな、誰もくれる人がいないのと。──…渡す相手だけ。
 折角チョコを作っても、本当に渡したい相手はどこに居るか解らない。
 しかも、甘いものが嫌いと絶望的だ。
(……どうしようかなぁ?)
 少し考えてから、銀時は複雑な顔で徳用チョコレートとラッピング用の袋とリボンを手に取った。
 一緒に買い物に来た神楽は酢昆布を何個買おうか悩んでいる。
 今日は新八もいない。
 誰にも見られずに買うには今日しかない──!
 思いついたら銀時の行動は早かった。
 急いでレジへと向かい、買ったことがバレないよう他の食材と混ぜて買い物袋の一番奥に入れる。
 誰にも見られず、気付かれずに買えて任務は完了したのに。
 買い物袋の中、それらを目聡く見つけたのは神楽だった。

「銀ちゃんはチョコ作るアルか?」

 不意を突かれて、銀時は押し黙る。
 ギリギリまで気付かれないと思ったのに、早くもバレてしまった。
(痛い、視線が痛いっ!見ないで神楽ちゃぁん!!)
 しかし、新八はともかく神楽とは一緒に住んでいる。
 遅からず遠からず、いつか必ず神楽にはバレてしまうのだから。
 銀時は開き直った。

「作るよ!誰にも貰えないから!配って残ったら銀さん自分で食べるしぃ!」
「包帯男にも作るアルか?」
「……アイツ、甘いもん好きじゃないからなぁ」
「何もないならナイで、絶対に拗ねるアルヨ」

 そう言って、神楽は銀時が首に巻いていたマフラーをほどき、首元に先程購入した包装用の可愛いリボンで蝶々結びをする。
 不器用ではないが、握力が強いのでどうしても締めすぎるらしい。
 銀時は喉から悲鳴を絞り出して叫んだ。

「首!?首が苦しいっ!!」
「──これでいいアル」
「……はぁ?」
「プレゼントは銀ちゃん、って言えば、あの包帯男もイチコロネ」
「ちょ、神楽ちゃん!?お母さんはそんなこと教えてないよ!!?」

 きょろきょろ辺りを見回して、銀時は慌てて周囲に誰も顔見知りがいないことを確認する。
 こんな所を高杉に聞かれた日には、どんな目に遭わされるか解ったもんじゃない。
 ……というか、高杉はバレンタインデーを知っているのだろうか?
 祭り好きの自己中テロリストなら、知っていてもおかしくはない。だが、高杉はこういう女子的なイベントに疎い気がする。そもそも鬼兵隊は男性の隊士ばかりだ。女性の隊士はというと、側近の来島しか見たことがない。しかも、宇宙へ出ていれば地球限定のイベントを知らなくても当然だ。
 皺にならないよう丁寧にリボンを解きながら、銀時は一人ごちる。

「アイツが来る訳ねぇーよ」
「絶対に来るアル!」

 ……来てほしくないアル、と神楽は嫌そうな顔をして付け足した。
 神楽は高杉のことが嫌いだ。
 理由を聞いたら、とても単純で、子供なりの独占欲だったので神楽には悪いが嬉しくて笑ってしまったけど。
 ──家族、みたいだ。
 ほんとうの。
 家族みたいに心地良くて、優しくて、……温かい。
 銀時は両親を知らない。
 肉親もいない。
 自分を育ててくれた松陽先生は師であり親でもあったが、一緒に暮らした短い時間はとても遠く昔のことで。
 家族というものと縁がなかった銀時にとって、神楽と新八はもう従業員ではなく家族なのだ。
 そんな神楽が教えてくれた理由。
 高杉が来ると神楽は除け者にされてしまう。
 尚且つ銀時が泣かされて、いなくなったらいなくなったで、──寂しそうに、ぎこちなく笑っているのが嫌だと言われてしまった。
(どこで見てるんだかなぁ…)
 けど、高杉が来ると銀時が喜ぶので我慢している、と。

「だから、銀ちゃんは何も心配いらないネ!」
「……ありがとな。ちょっと寄り道すんぞー」
「お礼はチョコより酢昆布がいいアル」

 まったく。
 うちの子達は。
 神楽といい高杉といい、良い根性してやがる。
 銀時はため息をひとつ吐いて、陽がすっかり暮れてしまった帰り道を急ぐ。
 右手に買い物袋。
 左手には子供特有の温かい神楽の手を繋ぎながら。



   *



 高杉は久々に江戸に来た。
 理由が理由なので堂々と出掛けられず、殺人的スケジュールで忙殺される中、万斉や来島の目を見計らって抜け出した。
 理由は、鬼兵隊隊士が聞いたら卒倒するような内容だ。
 そう。
 2月14日。バレンタインデー。
 鬼兵隊総督はチョコを貰いに来たのだ。
 相手は糖分王。チョコを作っていない訳がない。
 用意していない訳がない。
 万事屋に着くと、高杉はいそいそと出掛ける銀時を見つけた。
 その手には、いつも持っていない大きな紙袋を持っていた。
 あれがチョコに違いない。
 階段を下りたところで、下の店前で掃除をしていたババアと何か話している。
 家賃の催促をされているようだ。
 しょうがねェヤツだと思って見ていたら、紙袋の中から何か袋を取り出してババアに渡した。すると、ババアは機嫌を良くして笑顔になった。
 確実にあれがチョコに違いない。
 やっぱり、こういうデカイ祭りは相手を驚かせたい。
 高杉は銀時に気付かれないように尾行を開始した。


 銀時は宛てもなくかぶき町を徘徊しているように見えた。
 歩きながらキョロキョロ辺りを見回して、立ち止まっては歩くを繰り返す。誰かを探しているような素振り。
 ──俺か。
 俺を探しているのか。
 俺を探しているのに違いない。
 銀時は執着をしないので、自分を探している姿を見ているだけで楽しい。
 しかし、もうそろそろ頃合いか。
 高杉が出て行こうとしたその時、銀時が叫んだ。

「ヅラ!やっと見つけた!!」
「ヅラじゃない、桂だ!」

 道の脇に立って客引きをしていたのは、見慣れた黒い長髪の桂だった。
 銀時は桂をそっと脇の路地裏へと呼ぶと、紙袋から小さな袋を一つ取り出して放り投げる。

「ほらよ。チョコだ、大事に食えよ?」

 受け取った桂は、複雑な顔をして銀時を見つめる。
 他に渡す相手がいるのではないか、と。
 嫉妬深い幼馴染みと、馬鹿で天然パーマの幼馴染みを心配しているようだ。

「……銀時。高杉は江戸に来ているぞ」
「ふぅん」
「興味ないのか?」
「興味も何も、何しに来たか解らねぇし。
 ──バレンタインだから来たのかな?」
「そうだと思うが」
「まさか。あの高杉が?」

 銀時は桂の言葉を信じようとしなかった。
 そのまさかなのですが。

「……チョコ配ってくるわ。じゃあな」

 聞かなかったフリをして、銀時は行ってしまった。
(──銀時は、いつまでも鈍いな)
 いや。ある意味純粋というか。
 昔と全く変わっていないというか。
 あの高杉がわざわざ江戸に来る理由など、一つしかないではないか。
 解っているのか?銀時。

「おぬしの行動次第で、江戸は火の海になるぞ」

 誰もいなくなった路地裏で、桂は渡されたチョコを懐にしまい呟く。
 先程まで桂の背後にあった憎悪にも似た殺気は、いつのまにか消えていた。
 銀時の後を追うように。


 その後も銀時はチョコを配り続けた。
 アルバイトのメガネの自宅や、真選組の狗やら、吉原やらいろいろと。
 見ているこっちがイライラするほど、楽しそうに笑いながら配って。
 嬉しそうに貰って。
 一通りかぶき町を回って、銀時は万事屋へと帰ってしまった。
(……俺を探していたンじゃねェのか?)
 予想とは違う銀時の行動に、高杉も気が気じゃない。
 なぜ自分を探さないのか。
 自分を探していたのではないのか。
 銀時の後を追うように、高杉は呼び鈴も押さずに勝手に上がり込む。ドスドスと荒立った足音は、高杉の心中のように荒れていた。
 脇目もふらず、一直線に客間へと進む。
 そこに、銀時はいた。
 客間に貰ったチョコを広げて、夜兎の小娘と楽しそうに話している銀時が。

「銀時ィ。俺に渡すモノがあるンじゃねェか?」

 怒気を孕んだ高杉の声音。
 睨みつける隻眼。
 銀時は高杉に問われて、少し考えていた。
 高杉が怒っている。
 その理由が思いつかないからだ。

「……俺の分のチョコは無ェのか」
「あぁ、うん。お前にやるチョコはねーよ?」
「なンで」
「だってお前、甘いの嫌いじゃん」

 ──……あァ。壊そう。
 この世界を壊す前に、まずはてめーを。
 俺がいないと生きられぐらいグチャグチャに。
 求めて縋るぐらいにドロドロに。
 キツイ仕置きと躾け直しが、銀時には必要みたいだなァ。
 俺には何もないが、ヅラはおろかその他大勢に今日だけでたくさんの愛想とチョコをバラ撒きやがって。
 こんな腐りきった世界を壊して。
 というか、銀時からチョコを貰ったヤツ全員殺して、この世界を壊そう。銀時と俺だけの世界にしよう。
 そうしたら、……こんな苦しい思いはしないだろう。

「どうしたんだ、高杉?
 あ、腹減ってる?これから夕食だから、食べていけよ」

 黙ってしまった高杉を横目に、銀時はチョコを片付けて夕食の準備に台所へと行ってしまう。
 客間には、高杉と神楽の二人が取り残された。

「お前、銀ちゃんからチョコ貰えなかったアルか?」

 夜兎の小娘が持っていたのは、銀時が配っていたチョコの袋だった。
(なんでコイツが貰えて、俺が貰えないンだ?)

「可哀想アルな」
「……五月蠅ェ」
「少しなら分けてあげてもいいアル」
「──!?」
「ふふ〜ん」
「殺してやらァ…!!」

 高杉が刀を抜く。
 神楽が構えて臨戦態勢をとる。
 そんな二人を見兼ねたのか、銀時が戻ってきて二人の頭に雷を落とす。

「お前らっ、夕飯前にケンカするな!!」

 喧嘩が中断したのを確認して。
 銀時はなぜか高杉の手を引いて台所へと連れて行く。
 夕食の準備を始めて忙しい銀時は、高杉を冷蔵庫の前に立たせて調理を再開した。

「玉ねぎと……人参を冷蔵庫から適当に取ってー」
「…人参は入れなくてイイ」
「馬鹿。カレーに人参は必要だって!好き嫌いしてるから背が伸びないんじゃねーの?」
「あァ?」
「さっさと取らねぇと、倍入れるぞコラ」

 仕方無く高杉は冷蔵庫から言われた野菜を取る。
 今夜の坂田家の晩御飯のメニューはカレーとサラダらしい。手際良く野菜を切って肉と一緒に煮込み、レタスを手で千切って小皿にサラダを作っている。
 料理をする姿は良い。
 自分の目の前で作っている姿は、さながら新婚の若妻みたいで結構そそる。
 しかし、銀時はエプロンも着けずにそのままの格好で料理していた。レースがフリフリの可愛いエプロンで作れとまでは言わないが、服が汚れるからせめて着流しぐらい脱げばいいのに。

「高杉くーん。何をしてるのかな?」

 最初は着流しを脱がせようとしていたのだが。
 その白い喉元を見ているうちに、目的が変わってきてしまった。
 高杉は脱がすだけでは飽き足らず、銀時が困るように、首筋から胸元へ唇を這わせ吸い始める。

「あ……ん…、やめっ…」

 白い肌に赤く残る無数の痕が艶めかしい。
 ──誰が見ても、一目瞭然だろ?
 コイツには嫉妬深い恋人がいるって。
 だから、間違っても手を出すンじゃねェぞって。
 黒のアンダーシャツから乳首を晒して舐め回し、噛む。
 ……解っている。
 これは、チョコを貰えなかった八つ当たりだってことぐらい。
 解ってはいるのだが、もう止められない。

「気持ちイイだろう?銀時ィ」
「んんっ…!!──料理中だっ、馬鹿杉!!」

 肘鉄を脇腹にくらって、その場にしゃがみ込む高杉。
 そんな高杉に構うことなく、銀時は肌蹴た着流しを整えると小皿に盛ったサラダを持って隣りの居間へと行ってしまった。
(──銀時、もう許さねェぞ…!!)
 わざわざ江戸くんだりまで忙しい中、時間を割いて会いに来たのに。
 チョコは貰えない。
 餓鬼がいるから抱けない。
 その餓鬼と口喧嘩すれば怒られて。
 料理を手伝わされて。
 銀時にちょっかいを出して、その上お預け。 もう高杉の忍耐は限界だった。
 怒りで鬼の形相になる高杉の前に、銀時は大きな椅子を持って現れた。いつも銀時がふんぞり返って座っている、客間の奥にある革張りの椅子だ。

「ここに座って、大人しく待ってろ。……もうすぐ夕飯できるから、さ」

 銀時は怒って不機嫌な高杉を宥めながら、持ってきた椅子に座らせる。
 ちょっと鈍い銀時にも、なんとなく理由が解ったようだ。
 高杉がこんなにも不機嫌で、いつもは無視する神楽と喧嘩して、強引に体を求めてきた理由が。

「はいよ」

 銀時から手渡されたのはお猪口。
 黙って受け取ると、並々と酒を注がれる。
 顔色を窺う銀時に促されて、高杉は酒を一口飲んだ。

「──…美味い」

 あっという間に飲み干す高杉を見て。
 銀時はほっとしたのか、笑いながら飲み干したお猪口におかわりを注いだ。

「良かったわ。俺、高い酒の味なんか解んないし」
「…てめーは飲まねェのか?」
「あ。言ってなかったっけ」

 未だ拗ねている高杉の頬に銀時は触れるだけのキスをして。
 銀時は頬だけでなく耳まで真っ赤にして。
 照れながらも、耳元で囁く。

「…それ、俺からの……バレンタインプレゼント」

 きょとん、と。
 高杉は目を丸くする。
 銀時の煽るような口付けと、その言葉に驚いて。
 怒りも不満も全て忘れて。
 残された漆黒の右眼で、ただ、──銀時だけを見つめる。

「バレンタインは、好きなやつにチョコをやるんだぜ?」

 額に柔らかな銀髪が触れる。
 銀時は俯いて、恥ずかしいのか目を瞑っていた。
 しかし、その腕は高杉の首に回されていて、離そうとはしない。
 高杉の目の前にいるのは、いつもの憎まれ口を言う銀時ではなくて。
 ひどく照れた恋人の姿があった。

「……銀時」
「高杉、俺は──…」

 愛してるから、違う、と。
 消え入りそうに呟く銀時が可愛くて、顎を掴んでその唇に高杉はお返しのキスをする。
 そうか。
 俺が甘いモノ嫌いだから、銀時に気を使わせていたのか。
 チョコとは別に、自分では飲まないこんな高そうな酒を用意していた銀時。
 万事屋の依頼料なんてたかが知れてる。
 それを、いつ来るか解らないヤツの為に。
 こんな高い酒を買うなんざ。

「…お前は馬鹿だな、銀時」
「うっせ。文句言うなら飲むな、馬鹿杉」

 膝の上に凭れかかる銀時を抱き締めて、さっきの余韻に酔う。
 あんなに熱い愛の告白をされたのは初めてだった。
 嬉しくて顔がほころぶ。
 銀時の頬も熱いが、俺の胸ン中も……熱い。
 熱くて火傷しそうなぐらい、火照っているのが解る。

「……銀ちゃん、ご飯まだアルか?」

 夜兎の餓鬼も遠慮してか、台所の間の戸は開けずに声を掛けてきた。
 もう少し銀時を抱いていたかったのに、……惜しいな。
 餓鬼がいなければ、躊躇なく押し倒していた。
 俺も、銀時同様に相当ヤられてらァ。
 こんないい年の男を可愛いと思ってしまい、しかも欲情までしている。

「邪魔すンな小娘」
「黙るのはそっちアル、包帯男!」

 銀時も離れがたいのか、俺が腕の力を弱め解放すると、今度は逆に銀時の方から唇を合わせてきた。
 最初の、触れるだけのキスとは違う。
 舌を絡めて吸い合うような、濃厚なキスだった。

「……はいはい。喧嘩は止めようねー。神楽がリクエストしたカレーできたから」
「マジでか!?」

 名残り惜しいが離れると、銀時はいそいそと食器の準備を始めた。
 夜兎の小娘も水とコップの用意で台所は一気に慌ただしくなる。居場所がなくなった高杉は椅子をいつもの定位置に戻し、居間に座って大人しく待つ。
 先に一人で晩酌を始めながら。

「悪いな。それ買ったけど、酒のつまみ買い忘れた」

 そう前置きされて、高杉の前にぽんと置かれたのは肉じゃが。
 カレーとは別に俺用に作ってくれたらしい。
 確かに、カレーと酒はちょっと合わないからな。

「おかわりはないから。人参少なめで作ったから、全部食えよ」
「あァ?」
「「いただきまーす」」

 文句を言おうとした高杉を無視して、銀時と神楽はカレーを食べ始める。
 高杉の前にも、少なめに盛られたカレーとサラダが用意されていた。晩酌するから量が少なめなのだろう。銀時は変なところ気が利く。
 カレーとサラダを高杉はぺろりと平らげ、肉じゃがに手を伸ばす。
 酒のつまみにはならないが、それはそれで美味しい。
 クイっと一気に酒を飲み干せば、隣りに座った銀時が何も言わずに酌をしてくれる。
 目の前では食欲旺盛な夜兎の小娘がすごい勢いでカレーを食べていて、ちょっと引くが。
 幸せとは、こんな感じなのだろうか。
 辛口の酒なのに、ほのかに甘く感じた。


 夕食後はすぐに静かになった。
 満腹になった神楽が珍しく眠ってしまったからだ。
 銀時の膝の上には、テレビを見たまま眠ってしまった満足そうな神楽の頭があり、そんな銀時の肩を抱いて隣りには高杉が座っている。
 そんな神楽を銀時は押し入れに寝かしてきたいのだが、どうにも動けない。
 いや、動けないというか。
 高杉が動くことを許さないのだ。
 銀時は諦めて、机に置いた皿からチョコを取って食べる。
 それは今日配ったバレンタインチョコの残りだ。

「高杉。チョコ欲しかったのか?」

 ぽりぽりチョコを食べながら、銀時が問う。
 その姿は小動物みたいで愛らしい。

「そんなにチョコ食べたいなら、やろうか?」
「──…あァ」

 高杉はチョコを食べていた銀時の唇を塞ぎ、ねっとり舌を絡めて味わい尽くす。
 どこもかしこも。
 チョコの味しかしない、その甘い唇を。

「ここに大きくて甘い菓子があるが、全部喰ってイイか?」
「…腹壊すからやめとけ」
「はッ。もう壊されてるじゃねェか」

 銀時の行動に一喜一憂して。
 拗ねて八つ当たりして……、喜んで。
 そんな俺が壊れていなかったら、なんだっていうンだ?
 ──もう手遅れだ。
 世界をブッ壊す前に、俺がてめーに狂わされてらァ。




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