02
白い雪は汚したくなる。
ドロドロのグチャグチャになるほど真っ黒に。
踏めばすぐに汚れて、土に触れれば黒く染まってしまうのに。
なんでお前は変わらないンだ?
ありのままに白くて。
雪よりも純粋なままで。
汚すことも染めることも出来ない、──俺の銀色。
掴んでいた手が消えた。
手の主──、銀時を探して宙を彷徨った手は逆に掴まれて動きを止める。
読んでいた本から顔を上げると、飽きずに雪を眺めていた銀時がまっすぐに高杉を見据えていた。
「晋助」
「なんだ?菓子ならもうねェぞ。蜜柑でも喰ってろ」
「違くて。雪止んだみたいだし雪合戦しようぜ」
「嫌だ」
「…晋助は、雪が嫌いなんだな」
「──…あァ」
雪、というか。
雪の存在自体が嫌いだ。
視界を真っ白に染めて。
前を見えなくして。
音を消しながら降り続けて。
地に落ちれば黒く汚れて。
指先で触れればとても冷たくて。
体温を緩慢に奪って。
そのクセ触れた熱で簡単に溶けてしまう。
脆弱で儚くて、踏み躙りたくなるほどたまらなく愛おしい。
そう。好きだったんだ。
……いつからだろう。
降り続く雪に嫌悪どころか殺意が沸くようになったのは?
「だったらさ、食べればいいんじゃね?」
「そういう問題じゃねェんだよ」
「かき氷みたいで好きだけどなぁ」
銀時は窓から手を伸ばして、縁に積もった雪を掴む。
その指先は、雪のように白く。
風に靡く銀髪は、雪に溶けて見えなくなる。
「……銀時」
理由が解った気がした。
酷く単純な八つ当たりだ。
──…全てが見えなくなるからだろう。
雪の所為で。
周りの景色だけじゃない。
お前が雪に馴染んで、今にも消えてなくなりそうだから。
だから、雪が嫌いになった。
「馬鹿。冷えるぞ」
腕を引いて銀時を抱き寄せると、その悪戯な指を捕らえる。
冷えて赤くなってしまった指先を舐めると、ほのかに甘い気がした。
指を舌で丹念に舐めてしゃぶる。
銀時は恥ずかしいらしく顔を真っ赤にして必死で逃げようともがいているが、俺が押さえつけているせいで動けずに意味不明な言葉を漏らすだけだ。
「──んんっ! や…、やめっ…しんす……けぇ」
「……フン」
涙目で恥ずかしがる銀時を堪能して、名残り惜しいが解放した。
だが、銀時はもう逃げる気力もないらしく、肩で荒く息をして腕の中で震えている。
そうだな。
食べてしまえばいいのか。
溶けようとするなら、俺が先に溶かしてしまおう。
誰かに黒く汚されてしまうぐらいなら、俺が汚そう。
見えなくなるなら、俺はお前を絶対に離さない。
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