01


 銀時と年明け初めて会う。
 いつも逢瀬は短いし不定期なので、正月ぐらいは豪勢にと思い来島に頼んであるモノを用意して貰った。
 ちょっと重い紙袋を手に持って。
 深い編み笠を被り、新調したばかりの黒地に黄金の刺繍の上着を羽織って。
 楽しげに出掛けようとする高杉を来島は笑顔で見送る。

「用意して貰って悪ィな。……明日には帰る」
「いってらっしゃいっス!」

 会う相手が誰であろうと。
 自分が用意した物を渡すのが誰であろうと、嬉しそうな高杉の姿を見ると自分も嬉しくなる。
 それだけで満足なのだ。
 来島は高杉の遠くなる背を見送りながら艦内に戻る。
 すると、慌てて何かを探す武市とはち会う。

「また子さん。ここに置いてあった紙袋を知りませんか?」
「紙袋……?」

 指を刺されたそこには、ぽつんと取り残された紙袋が1つ。
 言われてみれば、同じような紙袋が2つ。
 あったような、なかったような……。

「さっき晋助様が持って出掛けたっス」
「……マズイですね」
「どうしたんスか、武市先輩」
「どうも私の紙袋と間違えたみたいです」
「──…え?」

 置いてある紙袋の中身を確認すると、そこには確かに高杉に頼まれて自分が買ってきた品物が入っていた。
 確実に。
 間違いなく、高杉は武市の紙袋を間違えて持って行ってしまった。

「武市先輩。紙袋の中は一体何が入ってんスか?」
「…………」

 来島は武市の言い渋る様子ですぐに解った。
 変態でロリコンな武市の紙袋の中身。
 きっと、ろくでもないモノだ。
 持っていった高杉にも。
 渡された相手にとっても、きっと危険な物であろう。
 来島は遠くを見つめながら、祈ることしかできなかった。



 その頃の万事屋では、紙袋を間違えたとは知らない高杉によって阿鼻叫喚の地獄絵図が始まろうとしていた。
 被害者は高杉と銀時。
 容疑者不在のまま、話は進んでゆく。

「……なに、コレ?」
「福袋」

 高杉に福袋と言われて銀時は紙袋を手渡された。
 紙袋は少し大きめで、見た目よりも重い。
 そっと上から覗いてみるが、密閉されていて中身は見えない。
 ──嫌な予感しかしなかった。
 高杉にとっては福袋かもしれないが、銀時にとっては福でもなんでもないかもしれない。
 もっと言うと、福ではなく鬼や蛇が入っているかもしれない。
 ろくなモノではないと解ってはいる。
 解ってはいるが、銀時は受け取るしかない。
 選択権も拒否権もないのだから。

「てめーが喜ぶモンだぜ?」

 高杉にそう言われて、あまり期待せずに銀時は紙袋の淵をそっと開けた。
 中身をあえて見ないようにして。
 恐る恐る、そっと手を入れて。
 すぐ触れたモノを握りしめて。
 掴んだソレを取り出して。
 ……絶望した。

「何じゃこりゃぁぁあぁぁ!!?」

 銀時が手に持ったのは、ピンク色のふわふわしたうさぎの耳としっぽだった。
 肌触り良く、色はパステル系でとても可愛らしい。
 そう。とても可愛らしいのだが。
 一体どこの誰が着けるというのか。
 嫌がらせ以外の何物でもない。

「最悪だー!新年早々嫌がらせかこのやろー!!」
「──違う」
「あぁ!?」
「俺のじゃねェ。こりゃあ、どっかで間違えたなァ」
「冷静に分析してる場合か!!なっ、なっ、なぁあ!?」

 叫び続ける銀時は、驚愕と動転で気が気じゃない。
 冷静な高杉とは対照的に、興奮したままだ。

「なんでうさ耳!?うさしっぽ!!?」
「卯年だからだろ?」
「しかもこのしっぽ……」
「あァ。入れるみたいだな、ア…」
「自主規制!!」

 高杉の言葉を遮るように、銀時はしっぽを床に叩きつける。
 そして、紙袋を投げ捨てて一目散に部屋の隅へ逃げてしまった。
 部屋の隅でガタガタ震える銀時を余所に、高杉は哀れにも投げ捨てられた紙袋の中身を漁る。
 紙袋の中にはその他に、手袋やワンピース、靴に靴下に首輪とうさぎ変身用品一式が揃って入っていた。
(──武市のかァ?まったくヤツは…)
 悪趣味としか言いようがない。
 いかんせん全て女性(幼女)用。
 用途は不明。
 テロリストも犯罪だが、倒幕という目的の前に違う犯罪でしょっぴかれないでほしい。
 どう見ても中のモノは子供用のサイズで、成人男性である銀時が着用するのは難しそうな物ばかりだ。
 その中から、高杉はサイズが合いそうなうさぎの耳と首輪、手袋を取り出して銀時へと放る。

「銀時ィ」
「……なんだよ」
「着けろ」
「ムリムリ!絶対にムリっ!!」
「無理やりヤるぞ?」
「──ッ」

 高杉の恫喝に諦めて。
 銀時はしぶしぶ投げられた物を手にする。
 床に投げ捨てられたソレらを。
 なかなか決心がつかず止まっている銀時を、遠くからじれったそうに見る高杉。
 銀時には時間がない。
 いや。
 正確には、時間ではなく高杉には待つとか我慢という言葉がない。
 このままでは本当に無理やり着けられてしまうだろう。
 追いこまれて仕方なく。
 銀時は意を決して、のろのろとソレらを着けだした。
(……やっぱり似合うな)
 銀髪の天然パーマの中に、ひょっこり自己主張をするのはピンク色のうさぎの耳。
 今にも泣き出しそうな赤い瞳。
 紅潮した頬。
 白い首筋には同じ赤の皮でできた太めの首輪。
 両手にはピンク色の獣のような肉球付きの手袋。
 サイズが若干小さいらしく、ふにふにと感触を確かめている。
 ここまでくると、サイズが合わなくて着せられなかったもこもこ毛皮でできているピンク色のノンスリーブのワンピースが残念だ。

「新八と神楽がいなくて、ほんと良かった…!」
「そうだなァ…。餓鬼供に見せるのは勿体無ェな」
「高杉クン!?」
「うさぎのしっぽも着けねェか?」

 銀時が思いっきり投げ捨てたうさぎのしっぽを高杉はこれみよがしに見せつけながら近付く。
 ゆっくり獲物に近付く狩人のように。
 高杉は壁際へと銀時を追い込む。
 射止められて動けない銀時は、逃げ場を失い必死で高杉を睨みつける。
 そんな威嚇も軽くあしらって。
 わなわな震える銀時の頬を、高杉は優しくしっぽで撫でる。

「きっと似合うぜ?」
「い・や・だ!!」

 逃げようと暴れる銀時を捕まえて膝抱きにして抱き締める。
 引っ掻かれないだけマシだが、まるで警戒心丸出しの可愛いピンク色のうさぎだ。
 そんな銀時の頭を撫でて、軽く触れるだけのキスをする。
 何度も、……何度も。
 銀時が落ち着くまで。
 緊張が解けるまで。
 何度もキスを繰り返してやると、落ち着きを取り戻した銀時が高杉の頬にキスを返してきた。
 高杉もお礼とばかりに、首輪を付けたままの首筋にキスをして赤い跡を残す。
 逃げるのを諦めた銀時は腕の中で乱暴にうさぎの耳を取ろうとしている。
 しかし、手袋が邪魔で取れないらしい。
 キスされながらもがいて。
 手足をバタつかせて。
 結局、うさぎの耳を外せずに手袋を外していた。

「ククッ。──そろそろ取りに戻るかなァ」

 名残り惜しくて、もう一度唇を重ねる。
 舌を絡めて呼吸を奪うように吸い尽くす。
 唇を離すと、下から覗きこむように見つめる銀時と目が合う。

「ほんとは何を持ってくるつもりだったんだ?」
「霜降りたっぷりの国産和牛肉と、ケーキ」
「高杉っ、……大好き!!」

 うさぎ耳の銀時に飛びつくような勢いで抱きつかれて。
 武市も変態もロリコンも、案外捨てたもんじゃないと思いながら高杉は笑った。




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