06


 いろいろ頼んでいた、銀時絡みの仕事が終わったらしい。
 桂から連絡があって思い出した。現状、すでに銀時と一緒に同居というか同棲……、新婚生活が始まっており、何も不満はないし恙なく日常を送っている。
 ……いや、不満はあった。仕事が立て込んでいて、銀時と生活リズムがズレてるから顔を合わす機会がないのだ。渡した携帯電話で連絡を取り合っているとはいえ、銀時が枯渇している。今まで銀時なしでよく暮らせていたな、と思うぐらいには。
 離れていた三年間、銀時の様子は銀時の後見人であった吉田松陽先生から聞き出していた。銀時が中学校を卒業した、銀時が高校入学した、銀時が校外学習で花やしきへ行ったのでお土産を貰った、銀時が──…。聞くまでもなく松陽は教えてくれたし、逆に銀時マウントを取られているようで悔しかった。もうマウントは取られないし、子供じみているがマウントを取るのは自分になる。松陽先生には悪いがざまーみろ、だ。
 家に帰ると銀時がいる。それだけで幸せなのだから、もう手離すつもりはない。義兄弟になった特権を隈なく使わせてもらう。
 そう、義兄弟──、何もかも通り越して、銀時とは家族になった。誰にも邪魔されない、確かな絆であり縁だ。家族に縁の薄い銀時は家族や兄弟という言葉に弱く、世間知らずで。兄弟、という言葉を出せば疑いながらも受け入れてくれる。
 銀時の住んでいた家は、むかし母親と二人で住んでいたらしい。だからあの女は部屋の鍵を持っていて、簡単に不法侵入できてしまったわけだ。家賃は大家に相談して遠縁の松陽先生が支払っており、電気ガス水道などの光熱費も同じく松陽先生が援助していた。
(銀時も馬鹿だなァ……)
 自分を残してふらっと出掛けたまま帰って来ない母親を、銀時は待ち続けていた。──母親が帰って来ても、寂しい思いをしないように。
 松陽先生に養子入りする話も、一緒に住む話も断って。
 そんな価値が、銀時を売ったあの女にあったとは思えない。ずっと一人で、細々と暮らしていた銀時はさぞ寂しかっただろう。
 人の温もりを求めつつ、銀時が頑なに表舞台を厭うていたのは、自分が有名になって母親がたかりにくるのを防ぐためと、有名になっても帰って来なかったら虚しいから、と松陽先生に打ち明けたことがあるそうだ。思っていたより銀時の心情は複雑で、闇が潜んでいる。
 街金から銀時の名義で借りた金は回収して、足りなかった分は立て替えておいた。銀時に非はないので当然だ。不足分はあの女から必ず回収する。銀時のために無償で働けばいい。
 養子縁組したことを銀時が知って数日間は、高杉の陰謀だと不貞腐れていた。
あの侘しい部屋で、銀時が一人で暮らしていくよりは今のほうが幸せだろう。

「銀時不足で死にそう」
「……早く帰れ。銀時が待っているだろうに」
「あァ、銀時がいるから毎日ちゃんと帰ってらァ」
「末期だな」

 恋とは恐ろしいものだった。
 一緒にいられるようになってからも、銀時への感情は溢れ出してしまいそうなほど膨らんでいる。こんなにも苦しいなんて。

「──…鬼に恋してから、ずっとこんなンだ」

 ひとしきり自嘲すると、高杉は立ち上がる。
 任せっきりになってしまったが、銀時には汚い話を聞かせたくなかったのでとても助かった。あの女はもう二度と近付けさせないし、銀時と会うこともないだろう。
 盲点だったのは、自分の母親が銀時をいたく気に入ったことだ。高杉との舞台で銀時を見ていたとはいえ、養子縁組の話をしたら即決でオッケーをもらえた。
 桂は司法修習生ということもあり、今回の件に巻き込んだ。──銀時が信用できる大人を、一人でも増やしてやりたかったのもある。次期弁護士となる桂を紹介しておくのはきっとプラスになるだろう。

「ヅラ、銀時から連絡はあるか?」
「……まあ、多少は。愚痴が多い、か」
「バイトしたいって言われても断れよ」
「ほう? 顔見知りの元でバイトするのは構わないんじゃないか?」
「俺が構い倒すからいいンだよ」

 ──ほんと、銀時はそのまま純粋に、騙されたままでいてほしい。
 義兄弟になったことを後悔なんてさせないから。ずっと俺の傍で笑っていてくれ。



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