02


「──…なぁ。寒くねぇの?」

 銀時が高杉の指先に触れると、その指は氷のように冷たかった。
(悴んで寒いクセに、我慢するなよなー)
 銀時は高杉の体をぺたぺたと至る所触りまくる。一度鬱陶しいと振り払われたが、懲りずに触っていたら眉を顰めて目を瞑ってしまった。
 高杉が何も言わないのをいいことに、一番冷たい指先を両手で握って温める。
 けど、冷えきった指はすぐには温かくならなくて。
 吐いた息を吹きかけて。
 自分の頬に当てながら温める。

「まだ冷たいな。ほんと、出掛ける時は厚着しろよ。お前、低血圧なんだし」
「……低血圧は関係無ェだろ。てめーは俺の母親かァ?」

 寒いのにやせ我慢して、小憎たらしいことばかり言う高杉。
 そんな高杉を見ていられなくて、銀時は自分のマフラーを高杉の首に巻く。
 ぐるぐると巻いて、自分ではすぐに解けないように後ろで片結びしてしまう。
 ついでに耳あても高杉の耳にセットして完成。
 先程よりは見た目でもずいぶん温かそうだ。

「よしっ!じゃ、俺は飲み物でも買ってくるわ」

 ブラックのコーヒーで良いよな?答えは聞いてない!と言いながら、高杉を置いて銀時は缶コーヒーを買いに行こうとする。
 今はマフラーも耳あても付けていない銀時の方が寒そうだ。

「……おい」
「なんだ?緑茶の方がいいのか?」
「違う。てめー寒いだろ」
「俺はいいんだよ。高杉の方が寒そうだったし。
 てか、なんでそんな薄着なの?」

 銀時の問いに高杉は答えない。
 無言で銀時の腕を掴み、離さない。
 遠く離れてゆくことを許さないように。
 ──銀時だって、なんとなく答えは解っている。
 解ってはいるがあえて聞いてみたかった。
 なんで寒い格好でやせ我慢までして会いにくるのか。
 なんで、……この手を離さないのか。

「…てめーが温めてくれンだろ?」

 繋いだ手を引いて、高杉は銀時を抱き締める。
 銀時の求めていた答えが、そこにはあった。
 いつも。
 それは幼い頃からの日常だった。
 寒ければ二人で温めあって。
 寂しければ二人で寄り添って。
 足りないものを二人で埋め合って過ごしてきた。

「お前は寒がりだし?…いつでも、温めてやるよ」

 高杉に抱き締められて、その温もりに浸っていたくて銀時は目を閉じる。
(……ほんと、猫よりタチ悪いわ)
 迷い猫は迷ったフリをしているだけで、腹黒く算段していた。
 差し出された手を逃がさないように喉元に牙をあてて、爪で縫いとめながら、もがく自分を楽しんでいる。
 そんなことを思いながら、銀時は高杉の黒く冷たい髪を梳いた。



 それから家に帰ったのは日付の変わるギリギリだった。
 玄関の鍵を開けて入ると、すぐそこには神楽と定春が座って待っていて銀時は驚く。

「ただいまー」
「おかえり銀ちゃん!──猫には会えたアルか?」
「……あぁ。ありがと、な」
「よかったネ」

 神楽はにっこり笑って、銀時に抱きつく。

「けど、煙たい猫アルな」

 言われて服の匂いを嗅ぐと、確かに煙管の香りがした。
 高杉に抱き締められたせいか、はたまた高杉にマフラーを巻いたせいか。
 一緒に居たので、言われるまで全く気付かなかった。

「そう、だな」

 苦笑いをしてマフラーを外そうとすると、マフラーは後ろで片結びされていて簡単に解けなかった。
 最後の悪戯かよ、と呟きながら。
 銀時はマフラーに顔を埋めた。




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