絡まっては空回り 03


 ずっと水音が聞こえる。
 不快な音が聞こえるのは、これが初めてじゃない。──音、というか、言葉になっていない誰かの声のような呻き声が聞こえることもあるし、ずるずると何かが這うような音、かりかり引っ掻くような音が聞こえることもある。
 水音は、初めてだった。
 べちゃべちゃ、ドロドロしてなさそうな、爽やかな水音は聞いていて心地良かったのだが、高杉には聞こえていなかったっぽいので、これは普通の人間には聞こえてはいけない音だったのだろう。
 ぱちゃり、ぴちゃぴちゃ。
 ぽとり、びちょびちょ。……ぴちょぴちょ、ぱちゃり。
 どんどん遠ざかっているはずなのに、確実に近付いてくる水音。離れることなく、何かが追ってきているようだ。
 高杉を巻き込まなくて良かった。自分だけで、どうにかなるとは思っていないけど、誰かに迷惑を掛けるのは御免だ。

「……俺は、ここにいるぞ」

 進んでしまった。
 立ち入ってしまったのは、きっと人がいる世界の向こう側。
 ──もう、振りほどけない。



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