初夢ワガママ


 年明けはいつも賑やか。
 神楽と新八の三人で年越しソバを食べて、テレビを見ながら飲んで歌って騒ぐのが毎年の恒例になっている。
 二人は未成年だから酒なんか飲んでねーけど。
 いつも以上に笑って、はしゃぎ疲れたのか今は二人仲良くこたつで眠っている。
 どんな初夢を見ているんだろうなぁ。
 そう思いながら、神楽を抱えて足元の新八を乗り越える。
 押し入れを開けると、そこは神楽の寝台。
 敷かれたままの敷布団に神楽をのせて、布団を掛ける。
 こんなとこで良く寝れるなーと思いながら、襖をそっと静かに閉める。
 新八にも布団を掛けてやって、電気を消した。

「明けましておやすみな?……良い初夢を」

 銀時が隣りの自室に入ると、誰もいなかったせいか寒々としていた。
 人の気配のない暗い室内。
 ひんやりと纏わりつく冷気。
 窓から空を見上げれば孤独な月。
 こんな夜は弱くなる。
 寂しいなんて思いたくもないのに、暗い感情が押し寄せる。
 遠い昔に切り捨てたはずの……これは、恋慕。
(──…高杉)
 眠る前に、心の中で何度もその名前を呼ぶ。
 そうすれば、会えると知っている。
 夢の中でだけど。
 けど、初夢ぐらい、俺様で人格が破綻した最悪なテロリストに会いたい。
 夢の中のヤツは、いつも何も言わず、無表情でつまらないヤツだけど。
 会えないよりかはマシだと思ってしまうなんて、末期だと思う。

「早く会いに来いよばーか」

 寝巻に着替えるのも億劫でそのまま冷たい布団に潜り込む。
 酔いが醒めてしまったのか、なかなか眠れない。
 ごろごろしながら窓辺を見やる。
 さっきとは打って変わって静まり返った夜。
 窓から降り注ぐ月光。
 それと、黒い人影。
 目をこすって窓の外をよく見れば、紫煙が月を曇らせる。

「──高杉!?」

 慌てて窓を開ければ、煙管を咥えた高杉が立っていた。
 窓に寄り掛かり月を見上げながら。

「すみませーん。ここは禁煙なんで、喫煙所でお願いしまーす」
「五月蠅ェ」

 高杉は煙管を叩いて灰を落とすと、銀時に手渡す。
 煙管は凍えそうなほど冷たかった。
 何か言いたそうな銀時をよそに、高杉は窓から部屋に入る。

「すみませーん。土足厳禁でお願いしまーす」
「……持ってろ」

 窓辺に腰掛けながら、草履を脱いで銀時に投げつける。

「痛っ、お前は姑かこのやろー」
「あァ?ご主人様か未来の旦那様だろ」
「なに馬鹿言ってんの!?馬鹿杉!」

 顔を真っ赤にしながら、銀時は投げ渡された草履を置きに玄関へと走る。
 あの勢いでは、きっと草履は玄関に捨てられただろう。
 そんな銀時を高杉は窓に腰掛けたまま見ていた。
 月を背に。
 楽しそうに笑いながら。

「銀時。お前、俺の名前を呼んだだろ」
「はあぁ?……呼んでねぇよ」
「嘘だ」
「なにそれ、確定なの?」
「聞こえたンだよ、お前の声が」
「……なんで」
「だから、会いたくなった」

 言葉が出なくなった。
 聞こえるわけねーじゃねーか。
 ──呼んだよ。
 確かに、心の中で。
 何度も何度も、煩わしいくらい。
 鬱陶しいぐらい。
 自分でも呆れるぐらい。
 お前の名前を。
 なんでお前は俺の声が聞こえたの?
 望んでなんかいない。
 願ってなんかいない。
 だってこれは、俺の小さな我が儘だから。
 だから、叶うはずなんかないのに……。

「馬鹿杉」

 俺は答えの代わりに、高杉を強く抱き締めた。
 その体は頬や顔、髪先だけでなく指先までも冷え切っていた。
 寒空の下とぼとぼ高杉が歩いて来たのかと思うと、ちょっと嬉しくて笑ってしまう。

「なに笑ってやがる」
「別にー。あ、正月だから酒あるよ。甘酒でも飲むか?」
「あんな甘いの酒じゃねェ。……いい」
「あっそ」
「寒い」

 高杉はそれ以上なにも言わなかったけど
 俺には確かに高杉の声が聞こえた。
 ──だから、てめーが温めろ。
 冷たい高杉に抱きついたまま銀時は布団へと移動する。高杉は何も言わず、熱を奪うように銀時を抱き締め返す。
 熱を逃がさないように。
 銀時を逃がさないように。

「はいはい。……明けましておやすみ」
「なんだそりゃ。違うだろ」
「あってるよ?明日の朝になったら、明けましておはよう。
 んで、昼は明けましてこんにちは」
「……てめーは黙って温めてろ。
 今年もよろしくなァ、銀時」

 耳元で囁いた高杉の頭ごと布団を被る。
 ──熱い。
 高杉のせいで火照ってしまったのは気のせいじゃないだろう。
 けど、この温もりは嫌いじゃない。
 もっと強く抱き締めてほしい。
 ずっと繋ぎとめてほしい。
 そうすれば、初夢の中でも高杉に会える。
 新年早々、一緒にいられるなんてとても幸せだ。
 この小さな幸せで、俺はこの一年楽しく過ごせるだろう。



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