寝台とソファー



「ほしい家具はあるか」
「ベッド」
「却下だ」
「早くない? え、少しは考えたりとかしないの?」
「一緒に寝る以外の選択肢があるのか」
「別々に寝るってせん…」
「却下だ」
「……」
「他にほしい家具は」

 高杉の家は何でも揃っている。
 調理なんてしたことなさそうな、きれいすぎるキッチンには辟易したが、一人暮らしにしては家具が揃いすぎていると思う。
 大きい70インチのテレビ、ダイニングテーブルとイスのセット、ノートパソコンにパソコン用のデスクに男二人で寝ても余る大きめのベッド。大学生の一人暮らしにしては広めの部屋だし、もしかしたら誰か他の人と一緒に住んでいたのかもしれない。
(──なんだろ、胸がもやっとする)
 今は銀時と高杉の二人で眠っているベッドで、高杉は他の誰かを抱き、他の誰かと戯れ、他の誰かと一緒に眠っていたのかもしれない。そう考えたら、胸の奥がちくりと痛んだ。
 嫉妬なんかしてない。断じて違う。
 これはあれだ、ベッドが一つしかないと一緒に眠るしかないし、高杉がちょっかい出してくるので安眠できないから、別々に眠った方がきっといいと思うんだ。
 部屋は余っている。
 高杉が物置に使っていた部屋を整理して、銀時の部屋を確保してみた。まあ、部屋に籠もってばっかりだと高杉の機嫌が悪くなるので部屋と言っても物置と変わらない。
 高杉は平然としているが、見かけよりも寂しがりで嫉妬深いと思う。
 銀時に対してはとても顕著で、すぐ体に触れてくるし何もなくても銀時の髪をいじったり、服で見えない範囲に甘噛みしてくる。
 ちょっとだけ、距離を置きたい。同居しているだけなのに、これではまるで恋人同士みたいじゃないか。
 今もほら、高杉の指が銀時のうなじを優しくなぞり、その唇が触れそうなぐらい俺の耳に近付く。

「…銀時」
「レ、レポートやったりする机とかっ、」
「ダイニングテーブルで十分だろ。解んないことがあれば俺が教える」
「──学科違うんですけど。なにそのムダな自信」
「他は」
「…収納? あ、あとテレビ前にソファーが欲しいかも?」
「収納?」
「着ない服をしまっておきたい」
「ソファーは?」
「テレビとか映画見てるとき、背もたれほしくない? 寝っ転がって見るのもいいけど、首が痛くなるし」

 実は、高杉に一週間ほど監禁されている間に銀時のアパートの契約は勝手に解約され、家財道具や服、その他諸々の私物は高杉の独断と偏見で処分されてしまったのだ。
 それゆえ、銀時の私物は少ない。 
 高杉が新しく服や下着などを買い揃えてくれたが、古着ばかり着ていた銀時にとって新品で高そうな服は着にくく、いまだに部屋の隅に積んだままになっていたりする。着よう着ようとは思っているのに、染み着いた貧乏性ゆえなかなか着れていない。
(てか、高杉ってセンスいいよな)
 高杉の着ている服は派手目でそのデザインちょっとアレじゃない? イっちゃってない? って感じの着こなしが難しそうな服が多いのに、銀時のために買い揃えたと思われる服はシンプルで何にでも合わせやすい。だから最低限の着数で暮らせているというか。

「ソファーと収納、か」
「第一希望はベッドだからね。ベッドにもなっちゃうソファーでもいいよ」
「ローテーブルもあった方がいいか…いや、長居しねェからなァ」
「ねぇ、聞いてる!?」

 そんな会話をした翌日には、プラスチックの収納ケースとソファーがテレビ前に置いてあった。
 高杉、仕事早すぎなんですけど。

「ほんとにソファー買っちゃったんだ」
「てめーが欲しがったからだろ」

 収納ケースは欲しかった。服を平積みにしておくのは嫌だったから、収納ケースは貰って嬉しい。
 ただ、ソファーは二人掛けで寝っ転がるには足が出てしまうのでやや小さく、寝返りも難しそうで。ベッドに変形することもない、本当のソファーだ。
 このソファーをベッド代わりにすることはさすがにあるまいと銀時は思っていたのだが、試験にレポートにバイトと疲れに疲れまくった銀時が寝室ではなくソファーで行き倒れることが続き、ソファーは一ヶ月も経たずに高杉に処分されてしまった。





どうでもいいけど、ソファーかソファで悩んだ。
いちゃいちゃアイテムになるかなって思惑が外れて、高杉さん残念。


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