02


 空に浮かぶ船の中に、高杉はいた。
 窓辺で月を眺めながら、煙管を吸う。
 煙で窓を曇らせてしまうので、月を見るのは此処が特等席なのだ。
 浮かんで。
 揺れて。
 隠れては消えて。
 手を伸ばしても届かない。
 願っても手に入らない。
 そんな月を誰かに重ねながら眺めてしまう。

「晋助様。甘い匂いがするっス」
「甘い匂い?」

 咥えていた煙管を離して服の匂いを嗅ぐと、原因はすぐわかった。
 
「──……いちご牛乳、か」
「何か言ったっスか?」
「……いや」

 甘いものは嫌いだ。
 匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなり吐き気がする。
 だが、この匂いは嫌いじゃない。
 この腕に抱いた。
 銀時と同じ、甘いニオイ。

 白い月を眺めながら、珍しく破顔する高杉を見ているのは。
 それは勿論、月だけだろう。



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