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気づいたらここにいて、なにがどうなったか、なんてわからずに。ただ、わかるのは世界の理に逆らってはいけないのだと。目の前に現れたのは漆黒。もちろん、数日前に兄と呼んだ存在とは異なるもの。


「おはよ」
「……おはよう」
「きて」


長い髪を結いもせず、目の前で揺れたそれを掴むように手を伸ばす。空を斬るかと思ったそれは意に反して、彼が手を取り引いてくれた。


「入って。父さんが居るから」
「わかった」


音をたてて開いた扉の向こうは青白い光に包まれて不気味。その奥に、ぼうっと浮き上がるように見えた彼もまた同様に。


「こんにちは、シルバさん」
「ああ、アオイ。よく来たな」


にこり、作って、笑って。お互いに胸の内はさらけ出さずに。座ることを促され、向かい合った椅子に腰を下ろす。話す話題は、そう、村のこと。


「お前の村が、奇襲にあったんだってな?」
「らしいね」
「らしい?お前は当事者だろう」
「うん。だけど私は何も知らないし、何も見ていない」
「そうか」


彼らと、私にはほんの少しだけ面識がある。それが一体どんな理由で、何を意味して出会ったのかは覚えていないけれど。ひとつ、言えるとしたら、彼らは私を好いていて、手放したくないと思ってくれていること。それだけだ。
クルタ族のとある夫婦に拾われて、こうして育って。最終的には見殺し、だなんて、申し訳ないことをした。けれど、どうしようもないのだ、私には。


「アオイさえよければ、家で暮らさないか?キキョウも喜ぶ」
「……どうせ行く宛もないし、シルバさんがそう言うなら」


歓迎する。そう言って頭を撫でる彼に微笑んで。無表情で私を見つめるイルミくんに視線を投げた。



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