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朝から快晴。今日もまたビスケに付き合わされるらしい。元気良く張り切って探すわよ〜と鉱山へ向かう彼女の後ろ姿を何度追っただろう。これで、確か4度目だ。
「もう諦めようよー」
「なーにいってんのよ!まだ4日も経ってないのに」
「その4日目が今日でしょ。もうずっと出てこない気がするんですけどー」
鉱山のあちこちでピッケルを振ってはやめ振ってはやめの繰り返し。おかげで腕がだいぶ鍛えられてしまった気がする。そろそろ飽きて来て、サボりがてらその辺散歩、とピッケルを置き歩き出せば、視界に白い影が横切った。
「……なに、いまの」
辺りを見渡すも、何もいない。気のせいかとまた足を進めようとしたら、今度は不思議な音が聞こえた。
なんだろう、と音の聞こえる方へ向かえば、岩陰からひょこっとフェレットのような狐のような生き物が顔を出す。おかしいな、此処に生き物はいないと聞いたけど……と頭をよぎったが、再び聞こえた音にそんな考えはなくなった。
「……もしかして、君の鳴き声?」
問いかけに呼応するように再び音がなる。そして、軽やかに私の前まで走ってくる。これは、撫でても良いのだろうか、と手を伸ばすけれど、流石にそこまで甘くは無いらしい。よけられてしまった。
「君はどうしたいのさ」
なんて、動物に聞いたって答えなんて返ってこないけど。苦笑を一つ漏らして、そろそろ戻らないとビスケに怒られるな、と踵を返す。2、3歩歩いたところで、肩に重みを感じて立ち止まれば、先程の動物が私の肩に乗って居た。
「……えーと、」
どうした、と言う前に耳に違和感。カランと言う音を立てて翡翠が転がる。それが何かを理解した時には、肩に乗っていたその子は私のピアスを咥えて走り出して居た。
「ちょ、まって!返して!」
大事なものなの。そう叫んでもその子は止まらずかけて行く。慌てて追いかけるけれど距離は縮まらない。
なんでそれを持って行くんだ。外し方なんで知ってる。いろいろ言いたいけれど獣相手に言うことじゃない。
「返せくそが!」
地面を蹴って飛びついた。甲斐あって捕まえたけれども浮遊感が消えない。気づけば足場がなくなっていた。
「やば……っ」
ぐらり。バランスを崩した身体は重力に逆らえず落ちてゆく。少しでも助かる可能性をと手を伸ばしたけれどなにもつかめるものなんてない。これで堅が出来たなら地面に叩きつけられても希望がもてたかもしれない。残念、コントロールは未だにできないままだ。
「アオイ!」
ビスケ、気づいたんだ。少し遠くに聞こえた声に安堵する。鉱山の斜面を駆け下りて来た彼女に、やっぱりビスケは優しいなと頭の片隅で考えた。
伸ばされた手に手を伸ばす。しかしそれは触れることなくパチンと弾けて消えた。
「な、」
なにが起こった。理解する前に意識はブラックアウトした。
ーーーーー
「……消え、た……?」
さっきまで確かにアオイはそこにいた。
なにを騒いでんのとうるさいアオイに言おうとしたら鉱山から落ちてゆくのが見えた。慌てて追いかけたのに、手が触れる直前で弾けたように消えてしまった。
「アオイ!どこにいるの!?」
鉱山の麓で声を張る。しかし返事は返ってこなかった。
"なぜか子供ばかりがいなくなった"
不意に男の言葉を思い出した。真摯に受け止めなかった罰だと言うのか、あの村の子供も、きっと同じように消えたのだろう。
「アオイ……」
踏み出した足に何かが当たる。視線を送ればコロコロと緑の石が転がっていた。
「これ……」
アオイのピアスの片割れだった。
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