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「ねぇ、ビスケ。あそこ?」
「そうそう!ついに来たわよ〜、幻の鉱石、幻影龍の鱗の取れる鉱山に!」
ふうん、と興味なさそうに頷いた私は悪くない。そんな私に幻の鉱石なのよ!もっとテンションあげなさい!って怒るけれど、ストーンハンターの気持ちは一般人の私なんぞに分かるはずがない。
「大体、鱗の時点で鉱石じゃないじゃん」
「黙らっしゃい!幻影龍の鱗はねぇ、絶滅した龍の鱗が長い年月をかけて石になったすっごく綺麗な鉱石なんだわさ!」
「……絶滅、ねぇ」
「それだけじゃないわよ〜。その鉱石は向きと光の当たり方によっていろんな色に輝くって言うじゃない!これはもう何が何でも手に入れなきゃ」
死してなおもこの扱いとは絶滅した種族に心の中で合掌。生きていたら、きっといろんな人から狙われたんだろうな、と思うけれどそれでも生きた龍、見たかったな。
飛行船はこれ以上近くへ行けないから、と鉱山の麓に降ろされる。ここからは歩いて行く他手段がないが、ビスケは幻の鉱石目前にそんなことはどうだっていいらしい。
早く行くわよと急かされて、呆れつつも着いて行く。なんだかんだ、ゾルディック家を出てから彼女と半年以上もこうして世界を回って居るのだ。今更彼女のわがままに振り回されるのなんてどうってことない。
「あんたら、あの山に行くのか?」
「え……あ、はい」
「やめた方がいい。あそこは生物を喰らう」
「え、どういう……」
「アオイ、置いてくわよ〜!」
「あ、まって……」
突然声を掛けられて立ち止まれば、この付近に住む人だろうか。よくわからない忠告を頂いたが、ビスケがさっさと行ってしまったので立ち止まって居るわけにも行かず歩き出す。振り返って見たが、その人は淋しそうな瞳でこちらを見て居るだけだった。
「なに話してたのよ?」
「なんか、山に入るなって」
「それって鉱石を取られたくないだけなんじゃないの?」
「……そうなのかなぁ?」
さして気にもしない彼女を見て、不安が募る。このまま、なにもなければいいけど。
採掘場らしきところに着いて、さあ探すわよとどこからともなくピッケルを取り出して投げ渡してくる。危ない。傷つけない様に慎重にね!と言われるけれど、私周出来ないからビスケ見たいにサクサク掘れなくて大変なのよ。
「ねー、ないよー」
「まだ3時間も経ってないじゃない」
「って言うか私、どんなのか知らないんだけど」
「私も知らないだわさ」
「はぁん?」
そんなんじゃ見つかったって分かりっこないじゃない。そう言うのはやめておいた。言ったところで彼女は諦めたりしないだろう。仕方ない、気が済むまで付き合うかとため息を一つ吐いておいた。
ーーーーー
「けーっきょく、見つかんなかったわね〜」
「もう諦めて帰ろうよ」
「やーよ。まだ1日目よ?たった1日で見つかるなんて最初から思ってないだわさ」
「付き合わされる私の身にもなってよ」
まあいいけど、とグラスにささったストローをくるくる回す。此処は麓の小さな村。鉱山から降りて来て、ビスケが円で探してくれた。でも、なんだか暗い雰囲気でこちらの気持ちまで沈んでしまいそう。
ねぇ、とビスケに小声で話し掛ければ、なにが言いたいのかわかったのか、確かに暗いわねと呟いた。
「何かあったのかな」
「さぁね、部外者にはわかんないわよ」
「そういうこと言う」
かく言う私も、あまり興味は無いのだけれど。しかし、鉱山に向かう途中掛けられた言葉が気にかかる。思い切って立ち上がり、近くに居た人に話しかけて見た。
「生物を喰らう鉱山って、どういうことか分かりますか?」
「ちょっと、アオイ……!」
話しかけて見れば、ザワザワと騒ぎ立てる周囲。当の本人たちは目を泳がせて、知らないと白を切る。その様子は知っていると自ら言っているようなものだと思うけれど、きっと追求したところで答えてはくれないだろう。そうですか、と早々に話を聞くのを諦め席に戻れば、なにやってんのおバカとビスケに怒られた。
「だってさぁ、気になるじゃない」
「だからってなにも考えず行動するんじゃないの!」
「はーい」
今宵泊まる宿を探し歩き回る時でさえ怒られた。そんなに怒らなくたっていいじゃない。ふと視線を感じて振り返ってみると、あの時のおじさん。目があったのでとりあえず会釈をしておいた。
「アオイ?」
「あ、えっと、」
「無事だったんだな」
「はい、まあ……」
ビスケに誰、とでも言うように聞かれ、何て答えようか迷って居たら彼の方から話しかけてくれた。曖昧に返事をして見せると、宿を探して居るんだろう?と問われ頷く。
「着いてくるといい」
「あ、はい」
歩き出した彼の背を追うように足を進めれば、不満を漏らしながらもビスケが着いて来た。そんな彼女を宥めながら暫く歩けば一軒の家。とても宿には見えないが、と首を傾げる。
「この村には宿が無いんだ。良ければうちに泊まるといい」
「なるほど、それで」
好機の目がこちらに向いたわけだ。宿がないと言うことは、外部からの人間があまり来ないと言うこと。更に、村としてもあまり泊めたくないと思って居るのだろう。入ることを促され、お邪魔する。中には、誰もいなかった。
「お一人で暮らしてるんですか?」
「……ああ」
「あの、ご家族は……?」
「息子がいたよ。……2年ほど前まではね」
こう言う時はビスケに頼ろうと黙って居たが、それを聞いて口を開く。それは、あの山で?と質問すれば、悲しそうに、そうだ、と呟いた。
「なぜ、あの山が生物を喰らう、なんて……?」
「もともとあの場所は動物がたくさん居たんだ。だが、ある日を境にどんどん減って行った」
「ある日?」
「幻影龍の鱗が見つかった日さ」
それを聞いてビスケが反応する。一体どれだけその石が欲しいんだか、と内心ため息を吐いて。理由は、と聞いたが"わからない"としか返ってこなかった。
「なぜ、息子さんは?」
「最初は珍しい鉱石が取れたと村人は喜んだ。誰もが鉱石を見つけようと山へ行ったさ。自分の子供がいなくなるまではな」
「……他にも同じようなことがあったんですか?」
「ああ……なぜか子供ばかりがいなくなった。みんな必至で探したがどこにも見つからなくてな……いつしかあの山には誰も行かなくなった」
不思議な話だ。まるで神隠しにでもあったのだろうか、なんの痕跡もなく消えるだなんて。これを聞いて、ビスケは諦めたりしないかな、と少し期待をして彼女を見たが、そんな気は無いらしい。
今日はもう寝るといい、とおじさんが寝室まで案内してくれたので、私はもう、なにも考えないことにした。
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