>> 16
17/20


話には聞いていた。でもそれはだいぶ前の話で、いつ会えるのかとずっと胸を高鳴らせていた俺にとって、全く音沙汰なかった1年間は長かった。


「キル兄様……」
「ああ、カルトか。どうした?」
「アオイ姉様、しらない?」
「……しらね」


名前を出された途端に不機嫌になるのだから自分もまだまだ子供だと思う。けれど感情をまだコントロールできなくて、だから兄貴たちにも嫌味を言われる。
カルトは、そっかと残念そうにして俺の部屋を去って行った。それを見て再び手元のゲーム機に目を移す。手元に影が差し込んで、またカルトかと思い、今度はなんだよと投げた。


「それ、何てゲーム?」
「っ、」


声を掛けられて驚いてゲーム機を落とす。床に叩きつけられたそれを拾い上げたのはレースに包まれた綺麗な手だった。


「はい」
「あ……り、がと」
「いいえ」


差し出されたそれを受け取り、声の主に視線を送れば再び驚かされる。青みがかった長い黒髪は片側で緩く巻かれ、その頬はほんのりピンク色。長い睫毛が透き通る様な青い瞳を縁取っていて、とても綺麗だと思った。「アオイ……?」と確認する様にその名を呼べばうん?と微笑みが返ってきた。


「あ、もしかして見とれちゃった?」
「な……っ、んなわけないだろ!」


図星をつかれて慌てて否定するも、何が可笑しかったのかくすくすと笑うアオイ。口元に持って行かれた手にはレースの手袋。服装も淡いピンクのプリンセスラインのドレスで、一瞬本物のお姫様かと思った。


「冗談だよ。似合わないでしょう?キキョウさんがどうしてもって言うからお化粧とドレス着てるんだけど」


動き辛いのよね、と困った様な顔で笑うアオイ。その耳元で光る翡翠の耳飾りに光が反射して目が眩む。可愛いと、思う。無意識下で零れた言葉を彼女はありがとうと嬉しそうに受け止めた。


「ねぇ、それなんてゲーム?」
「えっと、」


最初に掛けられた言葉を繰り返され、落ちていたパッケージを指し示す。面白いの?と聞かれ頷く。


「……やる?」
「いいの?」


とたん目を輝かせる彼女に、持っていたゲーム機を差し出せば、喜々として受け取る彼女。すでに手袋は外した様だ。


「まって、これどうやるの」
「ここが操作で、こっちが攻撃」
「ふむふむ」


教えるために画面を覗き込む。顔をあげれば意外と近かったことに気づき身体が火照るのを感じた。アオイはそんなこと御構い無しに今渡されたばかりのゲームに集中している。姉、とはお世辞にも呼べないその姿を見て少しだけ笑ってしまった。
少しくらいならと隣に身体を寄せれば、自然とその頭は俺の肩にもたれ掛かる。思わずその頭を撫でればふわりと甘い香りがした。


「なにやってんの」
「げ、兄貴……」
「あ、イルミくんおかえり。ちょっと待ってね」


今敵倒すから。と視線はそのままに告げるアオイはすげぇと思った。イル兄を待たすとか俺ならぜってぇむり。カチカチと忙しなくボタンを押す音とゲームのBGMが響くだけの静けさになんだか気まずさが込み上がってくる。程なくして勝った、と嬉しそうに告げたアオイの声でようやくこの場の雰囲気が和らいだ。


「昼から出かけるって言ったのアオイじゃなかった?」
「だってイルミくん仕事だったじゃない」
「だからってなんでキルの部屋に居るの?」
「家族の部屋に居るのがいけないことなの?」
「別にそんなこと言ってないでしょ」


兄貴が言い負かされてるところなんて初めて見た。このままでは埒が明かないと、とりあえず出かける準備してきなよとアオイに向かって告げる兄貴。はあいと間の抜けた返事をしたと思えば、キルアも一緒においでよと言い渡される。


「は!?」
「いいよね、イルミくん」
「……アオイの好きにすれば」
「ほら、いいって。キルアも一緒に出掛けよ」


ね?と微笑まれて断れる奴がいたら教えて欲しい。なにも言えずにただ頷く俺を確認し、着替えてくるねと慌ただしく駆け出したアオイの背を呆然と見送ることしかできなかった。



prev//next

戻る

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -