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何処かで私を呼んでいる声がする。その声の主が一体誰であるのか、何所から聞こえてくるのかはわからないが、なんだか懐かしくて暖かい気持ちになった。
「目が覚めた?」
「び、すけ……?」
「丸2日、あんたぐっすり眠ってたわさ」
「え、2日も?」
なんでそんなに眠ってたのか全く覚えていない。最後に残っているのは、ビスケが試験官で暇だから一人でオーラを練ってて……と、そこまで考えて気がついた。
「オーラの使い過ぎかよ……」
久々にやったなぁ、これ。とガックリと肩を落とし、しばらく無茶なんてしなかったのにと疲れ果てる前の自分を呪った。彼女はと言えば、よく頑張ったわねとなぜか頭を撫でてくる。
「でーも、もう無茶なんてするんじゃないわよ?」
「はぁい」
心配してくれたんだなぁ、と言葉にはされていないがきっと彼女はそう言う人だ。平気で嘘を吐くし、自分を偽る。でも、とっても優しい人。
「あ、そうだ。アオイが目を覚ましたら会長が呼んでって言ってたんだわさ」
「ネテロさんが?」
それを聞いて、また修行の日々かなぁなんて嫌気が差す。大事な話があるって、と付け足されたので渋々寝かされていたベッドから立ち上がった。
「ネテロさーん」
「おお、アオイ。身体はもういいのか?」
「うん、大丈夫」
数回ほどその場で飛んで見せれば、大丈夫そうじゃなと笑みを向けられた。
それで、話って?と呼び出された理由を問い正せば、まあ座れ、と座ることを促された。
「お前さん、この修行が終わったらどうするつもりじゃ?」
「え?うーん……ゾル家に帰って……また修行の繰り返しか、あの家の手伝い?」
「ハンター協会会長の前で暗殺宣言とはたいしたもんじゃな」
「ネテロさんは私を捕まえたりしないでしょ?」
にっこりと笑ってそう告げれば、面食らった様な顔を一瞬だけしてからほっほと笑う。なにも言わないってことは図星なのだろう。
「みんなしてアオイに甘すぎる」
「修行は手を抜いた覚えはないがの」
「修行はべつとして、私生活」
服や食べるものには困らない。修行だって、私がこの世界で生き抜くために必要だから。詰まる所、彼らは無意識のうちに私を生かそうと必死なわけだ。
「いいけどー。アオイにしてみれば嬉しいことだし」
「ほっほっほ、皆お前さんを好いとるんじゃよ」
それはもちろん自分もと言っている様で、直接言われるとなんだか照れ臭い。物好きー、と茶化すけれども優しく頭を撫でられなにも言えなくなってしまった。
「のう、アオイ」
「ん?」
「もっと、いろんな世界を見たいと思わんか?」
どう言うことかわからなくて首を傾げる。それを見た彼は、そう難しく考えるでないとまた笑った。
「世界にはまだおぬしの知らんものが沢山ある。職業、土地、生き物、実に様々なものがな」
「それはそうだよ。だって私、まだ8歳なのに、全てわかるわけがない」
「ほっほっほ、それもそうじゃな」
当然だと言わんばかりに告げれば、彼は笑う。じゃが、と言葉を続けた時には真剣な顔に戻っていた。
「見て見たくはないか?ぬしの知らん世界を」
「私の、知らない」
世界。ポツリ呟いて掌を見る。私が知らない世界。それはここにある全てがそうだ。私は私であり、けれどここに来た時点でもう私じゃない。だったら、世界を見ることで、私が何者なのか、わかるんじゃないだろうか。
開いたままの手をぐっと握りしめ、一言見たいと告げた。するとネテロさんは、お前さんならそう言うじゃろうと思っとったと微笑んだ。
「さ、善は急げじゃ。今から旅に出る準備じゃぞ」
「え、今から?」
「ハンターの旅はいつだって急なもんじゃよ」
「まって、私ハンターじゃない」
細かい事は気にするな。そう彼は笑った。もとより荷物なんて殆んど無いのだからすぐにでも出発は出来るのだが反論したくなるのが人間と言うもの。
ほれ、早よせんかと急かす彼に、まってよと膨れながらも急ぎ足でついて行くのだった。
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