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「お前さんがアオイか」


値踏みするような視線にはもう慣れた。連れ込まれた飛行船の中でただ立っているだけ。私を連れてきた相手は奥へ行ってしまった。一人やることがなくて私は暇を持て余しているだけ。連れてきたんだから話し相手くらいしてくれたっていいじゃないか。


「……帰ったらゼノさんに一発入れてやろう」


なぜあの人は私を他人に任せたりしたのだろうか。やはり、私の存在が邪魔だったから、という結論にしか至らない。その証拠に、あの家にいた期間、キルアだけは関わらせてもらえなかった。というより彼と行き違いで仕事に行かせられていたという方が正しいのかもしれない。


「あやつに拳を入れると申すか。随分と頼もしい娘じゃの」
「あ、えっと、」
「ネテロじゃ」
「ネテロさん」


どうしたらいいのかわからないので、とりあえず笑っておいた。ネテロさんは奥から持ってきたのだろうグラスをテーブルに置き、練はできるかと告げた。


「できる、けど」
「このグラスに向かってやってみろ」
「……」


水見式、とかいう名前だった気がする。記憶なんて曖昧だ。この世界に生まれてから既に8年。もはや一部の事象と人の名前しか覚えていない。
言われた通りにグラスに手をかざし練を放つ。いつまで待てばいいのか、何の反応も起きないそれにため息をついた。


「……あの、ネテロさん」
「何かのう」
「何も起きないんだけど」
「まあ待て、グラスの水を飲んでみるといい」


流石に飲むのは嫌だったので指に水をつけ舐めてみる。水だ。紛れもない水だ。


「水」
「ん?そんなはずは……水じゃな」
「何も起きないじゃない」


数分前の私のほんの少しの期待を返して欲しい。というか、何も起きないとは何事か。私には才能がないと。むしろ前世の記憶を持ったまま生まれ変わったのでそれが当たり前だと。どうしてくれよう。


「ふむ、普通はなにか起きるんじゃがな」
「つまり私は普通じゃないと」
「ま、そういうことじゃな。さしずめ特質系といったところか、あるいは」
「……あるいは?」
「いや、なんでもない」


それ以上私のことに関しては触れずに、念系統の話をしだしたので言及するのはやめておいた。
ネテロさんが説明してくれた事柄を頭の片隅に仕舞込み、自分がどうすべきかを考える。


「ま、しばらくは」
「?」
「お前さんの身体能力の向上からじゃな」
「……え、」


じじくさくほっほと笑うネテロさんに、面倒くさい。その意味を込めた視線を投げておいた。



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