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すがる様に伸ばされた手を、私はどうしたらいいのだろうか。自分のものより小さい其れを、振り払うだなんて出来なくて。ただ、ただ立ち往生。
「……えーと、」
「……」
目線を合わせるようにその場にしゃがみこめば、きゅっと服を掴まれる。放っておいてもいいのだが、相手は二歳。どうしてくれよう。
「いなく、なっちゃうの?」
「え、」
「また、いなくなっちゃうの?」
これはあれか、もしかしてなつかれているのだろうか。はたまたなにかを要求されているのか。と言うか、予想される答えが側に居てほしい以外導き出されないのだから末期。
「……アオイねーさま、」
今にも泣き出しそうな瞳で見つめられ、どうしろと言うのか。いかないで。絞り出された言葉になにもしてあげられない。ここに居続けることなんてできない。
「……ごめんね」
「ねーさ、」
「ごめん」
小さな彼の背に手を回し抱き締める。私も、ここへ生まれる前に比べたら、随分と小さくなったものだ。そして、無力にも。
「ずっとここにいることはできないけど、また、帰ってくるから」
「……いつ?」
「わからない」
目的は念系統を調べることだけど、ほかにもやることがあるかもしれない。よくよく考えてみれば、私だってやり方だけは知っている。それが、記憶に残っているから。それに、ゼノさんやシルバさんだって知っていてもおかしくないのに。もしかしたら、私のことに気がついたのかもという、疑念。だとしたら遠に殺られているのだろうけれど。
この家の人間はさみしい人たちばかりだ。ゼノさん然り、シルバさん然り。キキョウさんやマハさん、それと、息子たちもだ。教育が進んでいる分、人間性が崩壊しているような気がしなくもない。それでも、こうやってちゃんと感情を出せる子がいるのに、それをイラナイモノと言って消してしまうのだから、悲しい。
「帰ってきたら、」
「?」
「帰ってきたらカルトくんの気が済むまで遊んであげる。一緒にいる。だから、今は」
ね?諭すようにそう言い聞かせれば、小さくうなづく彼。
そういえば、この子は兄であるキルアが大好きだったような気がする。そしてほかの家族も。私自身あったことはないけれど、記憶には残ってる。
「……かなしいもんだよね、」
「ねー、さま?」
「ううん、なんでもない。帰ってきたら、真っ先にカルトくんに連絡入れるからね」
「……はい……!」
前世の記憶とは酷なものだ。知らなくていい未来がわかってしまうのだから。そして、私が本来ここにいるべきでないことも。
「アオイ、迎えがきよったぞ」
「あ、うん。それじゃ、カルトくんまたね」
今更、何を考えたところで同じこと。もう、あの頃には戻れないのだから。いま私ができることを、適当にやり過ごすだけだ。
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