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「じいちゃんが帰ってこいってさ」


ふうん。それしか言えなかった。
元々荷物は持ってきていないし、帰ろうと思えば今すぐにでも。ただ、面倒。


「アオイ、帰れる?」
「……イルミくんは」
「残ってるんだよね」


仕事。淡々と告げられた言葉にああそうかとここへ来た本来の目的を思い出す。私、癒やし係。


「いいよ。アオイ帰れる」
「ん、じゃあまた。修業頑張ってね」
「うん」


ぽんぽんと頭を撫でられる。荷物は大して持っていないからほとんど手ぶらで、ホテル近くに待機していた飛行船に乗り込んだ。



***



「おーアオイ、よく帰った」
「ただいま、ゼノさん。シルバさんたちは?」
「シルバは仕事じゃ。ミルキはいつも通り引き籠っとるがな」
「そっか」


一ヶ月と少し。離れていた間も彼らは変わらない日常を送っていたようだ。元より、変わっていたのは私の方。
いつまで私はこうしているんだろう。過去を引きずったところでどうしようもないのは解っているのに、忘れられなくて。


「それよりもアオイ。修業の方はどうなった?」
「一応練までは。なんか念系統ってのがわかんないらしいから」
「そうかそうか」


どうしてゾルディック家の人間は私の頭を撫でたがるのだろうか。と言うより、お前ら私を甘やかしすぎだ。
この家へ来て何度目か解らない溜め息を飲み込み、どうするの?という言葉を代わりに吐き出す。その問いに安心せいと返す彼。


「いや、別に心配は」
「古い友人に連絡しておいた」
「聞けや」


相も変わらず、私の意見は聞いてはもらえないようだ。
別に、今すぐにどうこうしたいわけでもなく。どうあったって、私は元いた場所には戻れないのだ。戻る気など、更々無いのだけれど。


「一週間後、迎えに来るらしい。準備しとくことじゃな」
「一週間……意外と遅いんだ」
「急な話じゃったからな」


感覚が、麻痺してるのか。どちらかと言えばこちらの方が正常であろうに。慣れというのは怖い。慣れてしまえば、元がなんだったか、なんて解らなくなってしまうのだから。


「楽しみか?」
「……別に」


心なしか弾んだ声に、気のせいだと瞳を閉じた。



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