世界の心臓に刃を立てた日


 やって参りました、懐かしの日本ッ!!!
 いやいきなりなにかって、俺はいま九代目とともに日本に降り立ったところなのだ。
 何のための渡航かというと、九代目がボンゴレ門外顧問沢田家光の息子――つまりゆくゆくはボンゴレ十代目となるいまだ幼き主人公、沢田綱吉に会いにいくというので、ショタツナ見たさに俺もくっついてきたっつう。
 ショタなツナはさぞかし可愛かろう、と内心ニヤニヤしながらロビーまで行けば、見慣れた顔が俺達に向かって大きく手を振っていた。

「九代目ー! ザンザスー!」

 デカい声で俺達を呼ぶその男こそ、何を隠そう家光である!
 家光はよく、ボンゴレに来たばかりの時の俺の面倒を見てくれていた。まあ大半が「勉強なんてしてねーで遊ぼうぜ!」でしたけど。俺も俺で七割くらい誘いに乗ってましたけど。
 原作ボスにもこんな風に絡んでたりしたのかなとか考えては、家ザンでザンザス片思いもイケる俺としては脳内が大変なことになったもんだ。
 百八十度変わった世界で毎日堅苦しい勉強や猜疑、侮蔑の視線に晒される中、唯一裏表なく――かどうかはさておき――親身に気安く接してくれた家光の存在はどれほど嬉しかったろうか。俺が原作ボスだったら家光が初恋になっちまうところだ!
 満面の笑顔を浮かべる罪作り家光の隣にいるのは、リボーン界随一のママンこと奈々さんだ。彼女もうれしそうに笑ってる。
 そしてその奈々さんの足下には今回の大本命っ、ショタツナが! 初めて会う人間にオドオドしてママンの後ろに隠れてるよ! やっべぇ超絶可愛い!
 ショタツナの犯罪的な可愛さに、さしもの俺でも表情が緩んじゃいそうだぜ……恐るべしショタツナ。

「やあ、家光。そして久し振りだね、奈々さん」
「こんにちは、ご無沙汰してます、ティモッテオさん!」

 ふたりはどうやら、結婚式の時に面識があるらしい。俺が拾われたのは家光が結婚する前だけど、俺は出席していない。ので、奈々さんと会うのは今日がはじめてだ。
 ほんわかしたママンを見ていると、何となく前世の家族を思い出す。ほんわかしてたのは父さんでしたけど。母さんはイケメンでした、主に中身が。

「今日はね、私も息子を連れて来たんだ」
「……ザンザスだ」
「ザンザス君ね! はじめまして、ザンザス君。家光の妻の奈々です。それでこっちが、私たちの息子の綱吉です。ほらツッ君、ごあいさつは?」

 綱吉は奈々さんによって俺達の前に立たされるが、九代目を見上げて、俺を見上げて、泣きそうな顔でまた後ろに隠れてしまった。

「あらあら、ほんとに恥ずかしがりなんだから」

 ママンは困ったように笑うけど、いや多分恥ずかしいってより――

「……なんで、おめめ、あかいの?」

 ショタツナは怯えた様子で、俺を見上げて――けれど俺の目を見ないように――首を傾ける。
 うー、やっぱなあ。赤い目の人間なんて初めて見たろうからビビるよなー。っていうか何で俺(というかボスというか)、目ぇ赤いんだろ。俺アルビノってわけでもないし。……いやまあ配色の理由考えだしたりしたら真六弔花とかあれ自前だったらどうしようの集団だけど!
 俺の沈黙をどう捉えたのか、家光が慌てた風に謝って来た。

「すまんっ、ザンザス! 悪気はないからよ」
「いや、その歳で悪気あっていまの発言だったら末恐ろしいだろ。つか気にしてねえし。グラサンしてくりゃよかったなー。それはそれで怯えられそうだけど」

 十四の時点で百八十ある俺がサングラス装備でショタツナの前に現れてみろ。泣かれるだろ。

「……お前そんな口調だったか?」
「あ゛」

 やっべ! 俺九代目以外の前じゃ原作ボスっぽい口調にしてたんだっけ!
 家光の前で素になるとか俺なにしてんのー。いずれ来るだろうリング戦の時に怪しまれんじゃん。や、反乱起こす気はないけど、ツナ達鍛えなきゃ未来編発生したときやべーから、九代目に協力してもらって……。

(話さなきゃ駄目かな、記憶のこと、この世界のこと)

 九代目もツナ達を鍛えるために殺す勢いでかかるっていうなら、しかもボンゴレリングを使うんだから、それなりの理由がなきゃ許してくれないだろうし。いくら九代目が俺に激甘だとしても。
 ……しゃーない。話すっきゃねーわな。ツナのとこにリボーンが送られてから、全部打ち明けよう。……俺が腐男子ってこと以外!
 よし、考えもまとまったところで、あとは家光を誤摩化すだけだ。

「テメーの幻聴だ」
「いや、幻聴にしては随分長かったぞ」
「気のせいだよ、家光」
「え、九代目」
「ね」
「…………ハイ。ソウデスネ」

 にっこにっこ笑って押し切る九代目に、家光は頬を引き攣らせた。
 パパン、なんという腹黒い笑顔。


 ――思えば俺はツナに怯えられてばっかりだな! 十年前もいまも。いやいまはわざとビビらせてんだけど。
 俺のことなどすっかり忘れている様子のツナを眼下に見下ろして、俺は左手に炎を宿す。スクアーロが身内まで殺す気かと喚いているが、べつにほんとにぶっ放しゃしねーよ。

「沢田綱吉……」
「っひ……」
「死ね」

 と、憤怒の炎を放とうとした瞬間に、俺の足下にツルハシが刺さる。……わかりやすいけどさあ。

「――待て、ザンザス。そこまでだ」

 右側の台地を見遣れば、そこには予想通り――正しくは原作通り――バジルと門外顧問チームの男を引き連れた、ツナギ姿の家光が立っていた。

「ここからは、俺が取り仕切らせてもらう」
「家光……」
「と、父さん?!」
「なっ! 十代目のお父様?!」

 獄寺がやけに驚いてんなーと思ったら、そういやあいつ、家光に命救われたんだっけか。その変なオヤジが綱吉の父親だよごっきゅん。
 俺の背後ではスクアーロが、家光に対して剣を向けている。

「……やめろスクアーロ。門外顧問に剣向けてんじゃねえ」
「っボス! ……チッ」

 一週間ちょい前に、リング争奪戦と銘打って十代目ファミリーをビシバシ鍛えちゃおうぜ計画が始動して、うまいこと家光はバジルを囮にしてくれた。で、それをスクアーロが追っかけて、偽のリングを持ち帰って来た。
 最初からスクアーロたちには、バジルが持ってるのは偽物だろうと言ってあったので、スクアーロがツナたちに騙したなーって言ってるのは演技。
 いまのところ、総て計画通りに進行している。この争奪戦が茶番だと知っているのは九代目と九代目の嵐と雷、そしてヴァリアー幹部のみ。あとは――おそらくチェルベッロも、察知しているだろう。
 俺を厳しく睨みつけている家光は、ツナ育成計画のことはなにひとつ知らされていない。

「――ザンザス。これはいったいどう言うつもりだ」
「……」
「お前はボンゴレ十代目の椅子に興味はなかったはずだろう。それが何故いまになって、ボンゴレリングを狙う?」
「ハッ……。俺が本当にドン・ボンゴレの座に興味がねーと思ってたんなら、随分と濁った目をしてやがるな、家光」
「なっ……親方様を侮辱するか!」
「よせ、バジル」

 実力差も考えず武器を手に取るバジルを、家光が静かに宥める。バジルって結構直情型だよなー。あれもあれでわんこですねわかります。ツナバジか、バジツナか、それが問題だ……。
 脳内は通常運転でも、外身はしっかり"XANXUS"を装っている。ええすっかり慣れましたとも。

「本当に興味がなきゃ、さっさと後継者としての権利を放棄しているだろうが。――あの日にな」
「……ザンザス」

 あの日というのは、例の俺暗殺未遂が起きた日のことを指している。気取ったスクアーロが、なにやら悔し気に俺の名を呼んだ。
 ツナ以外の後継者候補がいつのまにか死んでいたいまとなっては、俺の命を狙う奴なんていないので……いや駄目だいるわ。ボンゴレやヴァリアーに怨みを持つ奴から命狙われまくりだよ。
 むしろあの頃より悪化してるから、おちおち一人で外出も出来ない。まあコミケやらインテやらオンリーやらの同人イベントには一人で行きますけど!
 あの人混みの中で殺しして騒ぎにするほどの馬鹿はいないだろ。いても俺は生き残るけど。会場で殺されたら多くの同志達に迷惑かけるし。その上俺の趣味モロバレになりますし!

「……で? テメーは何をしに来たんだ、家光」
「――九代目からの勅命が届いたからな。これは、最近のヴァリアーの動きを容認している九代目への異議申立ての質問の返答ともとれるものだ」

 家光が言ってるのは、おそらくマレ・ディアボラ島で一月前に起きた襲撃占領事件の時に潜入中だったモレッティに、心身ともに重傷を負わせたことだろう。
 ヴァリアー副隊長だったオッタビオ――実はちゃんといたが、俺の世話役には任命されなかったのであまり面識はない――は、イタリア軍に所属していた元軍人たちに武器を横流しさせていた。それだけなら、まだいい。
 見過ごせなかったのは、オッタビオがボンゴレ上層部に隠して、奴らから入手した開発レポートをもとにヴェッキオ・モスカという軍の強襲兵器を開発していたことだった。
 旧式とは言えモスカはモスカだ。ゴーラ・モスカと同じように、対人には凶悪すぎる装備をしている。マフィアの世界には、あってはならない力だった。
 まあ多くは語らないが、オッタビオはコソコソ開発してたヴェッキオ・モスカを使って、自分たちの保護を求めてマレ・ディアボラ島で開催されたパーティに参加していたマフィアたちを人質にした、件の軍人達を始末しようとしていた。
 俺はマレ・ディアボラ島から一・十五キロ離れた海岸で犯人達と交渉していたオッタビオのところへ行き、スクアーロ達には占拠された迎賓館の解放に向かわせた。ついでにスクとマーモンには、奴らが持ってるゴーラ・モスカの開発レポートを奪うように指示をして。
 そのとき門外顧問所属のモレッティは、オッタビオの部下に変装して潜入捜査をしていた。俺がオッタビオを消し炭にしてから、モスカの開発に加担していた奴の部下達を殺したとき、モレッティも巻き添えにしてしまったらしい。
 一応言い訳をさせてもらうと、面識もないのに変装されてちゃ、どれが殺され屋なのかなんてわかりゃしねえよ! かといって確認しながらは戦えないし、モレッティだけ無事だったらそれこそリング戦に向けての動きを怪しまれるし!
 そりゃ、ほとんど虐殺だったことには九代目に苦言を呈されたけどさ、この時のために家光を騙すのには必要だったんだってば。気が咎めないでもないし、心が痛まないわけでもなかったけれど。
 けど俺、ボンゴレを裏切ってた奴らの命よりも、ぶっちゃけてしまえば未来編に備えてツナ達を本気で強くすることの方が大切だ。ので、オッタビオ以下加担していた部下たちには、生きる世界を変えていただいた、というわけだ。
 門外顧問の男から受け取った、九代目の勅命状を紐解く。紙面の上部にプリントされたボンゴレの紋章部分に、大空属性のオレンジの炎が灯った。

「それは九代目の死炎印……。間違いない、本物だね」
「うわ、イタリア語で書いてあるっ。よ、読めないよ〜……」

 イタリア語ってのは気付けるんだな。ボンゴレはイタリアのマフィアだからイタリア語でって言ったんだろうけど、無意識に気付ける程度ではあるんだ。
 困惑するツナに家光は笑って、要約してツナ達に伝える。

「――いままで私は、後継者に相応しいのは家光の息子である沢田綱吉だと考え、そのように仕向けてきた。しかし近頃になって、ボンゴレ十代目に相応しいのは、彼ではなく我が息子ザンザスではないのかと、超直感が私に告げた。私はそのように計らうつもりだが、この変更に不服のある者もいるだろう。――現に家光は、ザンザスへのリングの継承を拒んだ」
「なっ?! あの人九代目の息子なの?! っていうか、っていうか……!」

 いまにも叫びだしそうなツナは、多分なんで拒んじゃうんだよーとか憤っているんだろう。うん、読心術を行使するまでもなく、すんげー分かりやすい。

「かといって私は、ファミリー同士の無益な抗争に突入することを望まない。そこで皆が納得する、ボンゴレ公認の決闘をここに開始する――」
「それって――」
「ああ、つまり……同じリングを持つもの同士の、一対一のガチンコ勝負だ!」

 家光が言い切り、ツナの絶叫が夜の住宅街に谺した。……あんま騒ぐと、民家から人出てくるぞー……。

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