About you.


――XANXUS

 つまらねー学校のくだらねー授業をサボって廊下を一人で歩いていると、日当たりの良い中庭で、木に凭れて読書をしているらしい南雲日嗣を発見した。
 何となく窓に寄って奴を見下ろせば、奴の隣には案の定、キャバッローネのヘタレがいて、呑気に惰眠を貪っていやがる。
 南雲は随分成績優秀だそうだから、授業をサボったところで何の支障もねーだろうが、キャバッローネのカスは授業に出ろ。ボンゴレの同盟ファミリーの次期ボスがバカじゃ、同盟組んでるボンゴレまで低く見られるだろうが。

「…………」

 ――南雲日嗣、か。
 ボンゴレ、キャバッローネや学校の奴らは、あいつが冷静沈着で何事にも動じない度胸と剛胆さを持っていると思ってるようだが、ンなわけねーだろ。
 あいつはヘタすりゃカス以上に小心者でヘタレだ。どうやら感情が顔に出ねーらしいから、周囲はあいつが始終ビビってるってことに気付かねえんだろう。俺が気付いたのは、おそらくは超直感の影響。逆に言や、超直感がなければ気付けないほど、あいつの心は表に顕れねえってこった。
 ゆえに読心術も通用しない。だから南雲は人格を勘違いされまくる。
 南雲は――出会った時から俺に怯えて、見た目だけならカタギに比較的近いガナッシュにさえ怯えて、裏社会そのものにも怯えているようなどうしようもねー臆病者だと、思っていた。
 それが覆されたのは、つい先日のことだった。それなりに歴史あるキャバッローネの跡取りにも関わらず、相も変わらず粋がったカスどもにちょっかい出されてるへなちょこ野郎を、俺は南雲と目撃した。カスどもは俺と南雲に気付くや無様に逃げていって――。
 その、くだらねー存在を見下ろす南雲の黒い眸が、俺の南雲に対する認識を塗り替えやがった。
 この俺が、一瞬でも身震いさせられるほど、冷えきった暗い目をしていた。あのとき南雲の双眸に宿っていた色は、嫌悪なんて生易しいモンじゃねえ、あれは――憎悪に近かった。今にも奴らを引き裂いて殺してしまいそうなほどの激情が、普段何も灯さない南雲の眸を染めていたのだ。
 常に無表情でヘタレの一歩後ろに控えているか、でなければ本を読んでいるかの、牙を持たない軟弱なカスだという認識を改めるには、その時の南雲の目は十二分だった。

(牙を持たねーわけじゃねえ。あとはあの小心っぷりを何とかすりゃあ……。何でテメー、キャバッローネなんかにいんだ)

 ヘタレなんか見限って、ボンゴレに来て、俺の下で働けよ。

(…………、待て)

 俺はいま何を思った?
 あいつがキャバッローネなのは、あいつの父親がそうだからだろうが。つーかあいつの家は少なくともあいつの祖父の代からキャバッローネだ。何でもなにもねえ、南雲がキャバッローネなのは当たり前だ。
 なんで俺はあいつに対してボンゴレに欲しいなんて思ったんだ。確かにあいつは優秀だ、精鋭ぞろいのヴァリアーにでも放り込んで扱きゃ、かなり腕の良い殺し屋になるだろう。俺と並び立つのに相応しい奴になるはずだ。
 だからって何で、俺の下に欲しいなんて。

(……わけわかんねえ)

 自分のものにも関わらず難解な思考に舌打ちをすると、まるでそれを聞き取ったかのようなタイミングで南雲がこちらを見上げた。
 南雲は俺を発見すると、僅かに身体を強張らせる。どうせ内心ビビってるんだろう。
 あの時とは違って、何の色も映していない黒曜石と視線が絡む。アレから眼を逸らすのが、惜しく感じて、俺は南雲の目を見下ろしたままでいる。
 ――ちがう。惜しいんじゃねえ。逸らしたくないンだ。あいつから、目を。
 こうして視線が交わっている間だけは、あいつが――南雲が、俺だけのものになったように感じられるから。そんな無意識下の思考に、当然俺が気付くことはない。
 どれくらいの時間がたったか、ヘタレが南雲の隣で僅かに動いて、それで南雲の意識が俺からヘタレに移り、アイツの視界から俺が消えた。

(――気に食わねえ)

 ヘタレを睨みつけながら舌打ちをまたして、俺はさっさとその場を離れる。
 俺は視線を外したくないと思ったのに、南雲はあっさり俺からヘタレに意識を向けた。それが何でこんなにムカつくのか、俺自身に理解出来ずに更に苛立が募る。

「……うぜえ」

 忌々しく吐き捨てた言葉は、授業終了のチャイムに掻き消された。



恋愛的な友情は恋愛よりも美しい。だがいっそう有毒だ。なぜなら、それは傷を作り、しかも傷の手当てをしないからだ。
――ロマン・ロラン


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