本当の話


 授業をサボって裏庭でぼけーっとしてたら、なんかいきなりスクアーロが目の前にいて、俺の顔を覗き込んでいた。

「お前、ちゃんと寝てんのかぁ?」
「……あ?」
「つーか、一人で人気のないとこに行くのやめろ。襲われたらどーすんだぁ」
「どうせお前かレヴィが追っかけてくるだろ」
「信頼してくれてんのは嬉しいけどよぉ」

 いかにも不機嫌そうな顔をしたスクアーロは、どさっと俺の隣に腰を下ろした。俺が伸ばせよ、と言ってから整えるいがいには切っていない銀髪が、さらりとゆれる。

「で。ちゃんと寝てんのかぁ、ザンザス」
「寝てる」
「じゃあ、ちゃんと寝れてんのか?」
「寝れてる」
「嘘付けぇ。クマできてんぞ」

 言って、スクアーロは右手の親指で俺の左目の下をなぞった。

「……ただの夜更かしだ」
「眠りが浅ぇーんだろ。夜中に目が覚めるかぁ?」
「夜更かしだっつの」

 確かに、アレ以来寝付き悪いし夢見悪いしで、あまりうまく眠れていない。けどそれを口に出すと、何か情けねえから絶対に言わない。
 認めようとしない俺に、スクアーロは眉間に皺を寄せて、俺の頬を思い切り引っ張って離しやがった。いてぇ。

「素直にゲロッちまえ! トラウマんなってて怖ぇーってなぁ」
「なわけねーだろ、カス」
「ザンザス」

 聞いた事がないくらい真面目な声で、スクアーロは俺を呼ばわった。――けれどそれは、"俺の"名前じゃない。
 真剣なスクアーロの視線を正面から受け止める。

「……イクス」
「あ?」
「ザンザスじゃなくて、イクスだ」
「……名前か? いや待て、どういうことだぁ」
「ザンザスってのは、俺の炎を見た母親が、あとからつけた名前だ。それまでは、イクスって呼ばれてた。から、誰もいないときはそう呼べ」
「……それ知ってんのは、」
「九代目だけだ」

 引き取られてすぐに、九代目には本当の名前があることを言っておいた。だから時折、俺がほんとうに弱っている時は九代目は、俺をイクスと呼んでくれる。
 俺はボスに成り代わったけれど、ザンザスとしてではなく、俺としてもここに在り、在ったのだと、誰かに知っていてもらいたかった。本物のXANXUSの場所を奪った身で、烏滸がましいかもしれないけれど。

「俺は別に、十代目になりたいなんて思ってねえ……」
「は?!」
「十代目に――プリーモの思いを受け継ぐのに相応しいのは、俺じゃないし。そもそも俺にはボンゴレは継げないからな」
「っえ、いや、ちょっと待てザン……イクス。それどう言う事だぁ、お前は九代目の息子だろ、継げねーなんてことは」
「九代目とは血なんて繋がってねーよ」
「……はぁ?!」
「間抜け面」
「うるせっ、どーゆーことだぁ、テメエ! ボンゴレの象徴である死ぬ気の炎に、超直感まで持ってて血縁じゃねーってお前、意味わかんねーぞぉ!」
「声でけーよ。とにかく俺は下町で生まれ育って、たまたま憤怒の炎と超直感が使えて、そんで俺が九代目の息子だと妄信しだした母親にザンザスと改名されて、とある冬に九代目に引き取られたんだよ」

 何でボスが憤怒の炎と超直感持ってるかなんて、そんなことは原作者のみぞ知るってやつだぜ……。俺的にはボスは二世の系譜なんじゃないかなーだったらいいなーってかんじですけど。でもセコ様目ぇ緑なんだよな。
 未だに大口開けてアホ面晒してるスクアーロは、さて、俺が九代目の実子じゃないと知ったらどう出るのか。原作ではそれでもボスについていったけど、こいつは原作のスクアーロじゃなくて、"この世界に生きている"スペルビ・スクアーロだ。キャラクターじゃない、実在しているこいつがどうするかなんてわからない。
 だのに打ち明けたのは、こいつなら大丈夫だと、信じたいからかもしれない。

「だから俺は最初から、十代目の椅子何ていらなかった。――幻滅したか、スクアーロ」
「……っするわきゃねーぞぉ! 十代目になれねーって言うんなら、だったらヴァリアーのボスになれ! イクスが十代目になるんだったら、俺がボスになってお前の手足(しゅそく)になったが、それができねーならお前をボスに推す」
「スクアーロ……」
「俺のボスはお前だけだって言ったろぉ、イクス。それはお前が九代目の息子だからじゃねえ、お前がイクスだからだぁ。多分、あのムッツリも同じだぜ。まあ、お前の秘密は俺だけが知ってりゃいいけどなぁ」
「……スク……」

 やだどうしようちょーうれしいんですけど! でも何か恥ずかしいから素直には喜んでやらねーお!

「お前が"手足"という言葉を知っていたことに俺は今猛烈に感動している」
「ッう゛お゛ぉぉぉぉぉい!!!!!!! テメエこの野郎ふざけ……」
「…………」
「いえ何でもありません申し訳ありませんでした」

 勢い余って俺の胸倉を掴んで来たスクアーロをちらりと見上げたら、何故か素早く手を放して土下座して来た。ぶはー。
 ちなみに、九代目は俺が血縁関係にないって知ってるって言うのは知らない。俺が暗殺されかけてから、真実を話すかどうか悩んでるみたいだから、スクアーロが俺をヴァリアーのボスに推薦してからバラしてみよう。
 てゆーかなんであのおじい、俺を実子だって言ったんだろうか。や、憤怒の炎持っちゃってたら、養子って言っても周りが信じなさそうだけど。
 無言で掴まれた部分の皺を直してると、スクアーロは緩慢な動作で座り直した。顔引き攣ってる。

「……でぇ、結局どうなんだ。まともに寝れねーんだろ」
「まあ眠りが浅くなってんのは事実だが、目が覚めたら目が覚めたで、まあ……な」
「何がまあな、なんだぁ」

 隠し部屋に引き蘢って日本のゲームとか攻略してます。或いはネサフして萌え補充してます。

「ともかく、睡眠時間は減ってるが、俺はすごく元気だ」
「……よくわかんねーが、元気ならいい……わきゃねーぞぉ。ちゃんと寝れるようにしねーと、身体が保たねーぞ、ボスさんよぉ。なんなら添い寝してやろーかぁ?」
「…………」
「……何か言え……」
「キモイ」
「う゛お゛ぉぉい!!!」

 何だよ何か言えって言ったのそっちじゃねーか!

(……そういや、)

 ――"俺"の名前って、何だったっけ?

なんてシリアスぶってみたりしたいお年頃!


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