朝霞に想起


 少し肌寒い朝。人のベッドにいつの間にか潜り込んで人を抱き枕にしやがっているどこぞのカスザメとの出会いを想起しようと思う。
 スクアーロと出会ったのは、十四か十五か、その頃だった。俺が通っていた学校はマフィア関係者のために作られたような学校で、小学校から高校までが同じ敷地内にあった。
 だから二つ下のスクアーロとも早々に出会う機会があった訳だ。出会う機会というか、奇襲される機会か――。

「う゛お゛ぉぉい! テメエがボンゴレの御曹司だなぁ!」
「な……にしやがる! 危ねーだろうが、このカス!」
「さらっと避けといて、何言ってんだぁ」

 授業も終わって、その辺に昼飯食いにいこうと校門に向かっていると、突然木の上から少年が剣撃を携え降って来た。
 やべぇと思って咄嗟に身を引いて躱したところには、剣を振り下ろしたままの体勢で襲撃者が立っていた。
 ――銀髪と、灰色の目と、この喋り方。

「お前……」
「俺の名はスペルビ・スクアーロだぁ」

 ドンピシャかよ!
 って言うかいいのか、スクアーロにここで会っちゃって。スクアーロがザンザスに一目惚れするのってこいつが十四歳くらいの時じゃなかったっけ? 何で俺今襲われてんの!
 つーかギャラリーうぜえ! 見てないで助けるか、さもなくば散ってくれ! なにバトんの楽しみそうに待ってるんだよ!

「俺と勝負しやがれ、御曹司!」
「ざっけんな、俺は剣士じゃねえ」
「剣術の授業の成績は飛び抜けてるって聞いたぞぉ」
「周りがヘタなだけだろ」

 俺前世で剣道やってたし。剣道と西洋剣術は全然ちげーけど、まあ何とかなっている。道場の師範に「師範代になんね?」と誘われた俺の腕前、グッジョブ。

「日本刀持ってるって話じゃねーか」
「誰から聞いた、そんなモン」

 確かに九代目に強請っ……日本刀っていいよなって零したら速攻で上等な本物用意してくれたけど。あの人あれを誰相手に使えって言うんだよ……。
 こないだくれた原作ボスが使ってたあの二丁拳銃で十分ですよ。

「いいから勝負しろぉ! お前、日本の剣術を使うんだろ!」
「断る」
「な゛っ!」
「俺は腹減ってんだ、無駄な体力使いたくねえ。――テメエら退け! いつまでも見てんじゃねえ、カッ消すぞ」

 ボスっぽく喋ってじとりと周囲を睨みつけると、ギャラリーはクモの子を散らすように逃げ帰っていった。何て便利なんだ、ボスの身体。……あれ、でも眉の貌とか違ったりするから完璧にボスってわけでもねーのか? まあいいか。

「う゛お゛ぉい!! だったら腹減ってねー時なら勝負すんのかぁ?!」
「しねえ」
「う゛お゛ぉぉぉぃ!」
「るせえっ、無駄に叫ぶな」
「ぐはっ!」

 お……しまった、つい足が出た。スクアーロの頭に俺の回し蹴りがヒットして、スクアーロは横に吹っ飛んだ。ボスの身体足なげぇ。
 吹っ飛ばされたスクアーロは、その辺の木に激突していた。まあ受け身は取ったろう。
 崩れ落ちて、震えながら身体を起こしたスクアーロの目は、爛々と輝いている。わあ、嫌な予感。

「くっ……流石だぁ、ザンザス……。無駄のない素早い動きに重い一撃……それでこそ俺のボスに相応しいぞぉ!」
「うわうっぜ。マゾか。意味分からん」
「う゛お゛ぉぉい!」

 おっとつい本音が。でもスクアーロってマゾじゃなきゃやってられなくないか。主にボスからのヴァリアー内暴力的な意味で。
 いつも耐えてるスクがここぞというときに下克上してボスを縛っても一向に構いませんけども! 普段マゾいスクアーロが豹変してサドくなってボスを調教とかおいしくありませんか! 下克上出来ないヘタレのままでも大好きだけど!
 ……っていうかこの世界ではヘタレであってほしいよね。だって実行されるボスって俺じゃん。縛られたくねーもの。

「まあいい……――う゛お゛ぉい、ザンザス! 俺はたった今から、お前の部下になってやるぞ、喜べぇ!」
「はぁ?」
「俺はお前の姿を一目見た時から、俺のボスになるのはお前しかいねえと感じていた……。今日実際に間近で会って話して、それは確信に変わったぞぉ! お前は俺の運命の相手だぁ、どこまでも、どんな時でもついて行くぜぇ!!!」
「気色い!」
「はぶぁっ!」

 運命ってなんだ運命って! 何か誤解されそうなことを大声で叫ぶんじゃねえこのカス!
 畜生、これがボスに言った台詞で俺が傍観しているんなら超萌えたのに! 何で俺ボスに成り代わってんの!
 という八つ当たり半分で、ついつい鞄をスクアーロの顔面に投げつけてしまった。

「ストーカーはムッツリだけで十分だ!」
「ボス! 俺はストーカーではなく貴方の忠実な部下だ!」
「うぜえええ!」

 植え込みから頭と両手に木の枝を装備して姿を現したレヴィ・ア・タンに、ちっくしょう、もう投げつける物がねえじゃねーか!
 つーか忠実な部下とかいうなら助けろよ! 襲われた時に颯爽と現れろよ!

「う゛お゛ぉぉぉい、何だテメーは! 俺のザンザスをストーキングするたぁ良い度胸じゃねーか、このムッツリがぁ!」
「誰がてめーのだこのカスザメ!」
「ムッツリだと?! 俺をそんな風に呼んで良いのはザンザス様だけだ、訂正しレヴィ先輩様と呼べ!」
「何かうぜーぞ貴様ぁ!」
「どっちもうぜーよ! ……もうやだこいつら……」
「ザ、ザンザス?! どうしたぁ、何落ち込んでんだ?!」
「ボス! この喧しいカスは即刻排除します、どうか気を確かに!」
「ンだとぉ?! やれるもんならやってみやがれ、ムッツリストーカーがぁ!!!」
「何ぃ?!」

 ……この翌日からスクアーロもレヴィも休み時間のたびに俺の教室まで押し掛けて来て騒いでいくもんだから、周囲の俺への評価が「校内イチの苦労人」になってしまった。マジ滅べ。
 暫くしてから二人が鬱陶し過ぎて学校サボってみたら、あいつら信じらんねーことにボンゴレ本部まで乗り込んできやがったんだ……。そんで無理矢理俺の部屋に襲撃の勢いで闖入して来て、スクアーロは欠乏症になるだのなんだの言って抱き着いてくるし、レヴィはそれ見てスクアーロに喧嘩売って俺の部屋で、俺の部屋でガチンコおっぱじめるし。
 二人のバトルで本邸の俺の部屋にある隠し部屋があわや発見されかけるし! ああアレは本気で焦った。焦り過ぎて必死過ぎてうっかり《決別の一撃》をぶっ放してしまうほどに。
 当然俺の部屋は灰になった、他の部屋を巻き込んで。隠し部屋付近は、憤怒の炎にも耐えられるように苦心して改装したから焼け残ったけども。
 ええ、ちょー怒られたね。九代目に。凍らされるかと思った。殆ど跡形もなく風化した元部屋で、三人揃って五時間正座させられた。俺は前世で正座には慣れてるから、スクアーロとレヴィよりはマシだったけど、五時間経過した時はさすがに立ち上がれそうで立ち上がれなかったっけ……。

「あの後日本禁止令は出るし、小遣いも半減するしで、ほんとお前ろくなこと持ち込まねーな、カス」
「う゛お゛ぉ……い……。起き抜けになんだぁ……」
「何でてめー人のベッドに入り込んでんだよ。誰が許可した」
「俺の中のお前だぁ」
「死ねば」

 ほんとこのスクアーロ、どうしてこうなった。昔は直情大型犬でまだ可愛気あったのに、今じゃただの妄想癖のある変態じゃねーか。

「可愛かった頃のスクアーロを返せ」
「俺は今でも可愛いぞぉ」
「可愛くねーよ。学生時代のお前ってほんとアホで馬鹿でアホで可愛かったのに」
「う゛お゛ぉい、何でアホって二回言った」
「今じゃすっかりタチの悪いアホじゃねーか。可愛くない。十四歳スクアーロが欲しい」
「欲しいんだったら、今すぐくれてやるぞぉ。十四じゃねーけどなぁ」

 ニヤニヤとスクアーロはいやらしい笑みを浮かべて、俺をひょいと馬乗りにさせた。義手の方で尻を撫でて、というかおもっくそ指がけしからん場所を……。

「朝っぱらから盛んなッ!」
「うッぐ……! う゛お゛ぉぉ、い……イクス……寝起きに鳩尾は……ッ」
「果てろ!」

 獄寺の決め台詞を借用して、もう一発鳩尾に拳をお見舞いする。
 悶絶するスクアーロは放置で、寝室の時計を確認して眉を顰めた。

「……くっそ、まだ寝れるじゃねえか……。おい馬鹿、さっさと出てけ。んで三時間後にルッスに起こしに来させろ」
「ッな゛ぁ?! 何でルッスだぁ! そこは俺に頼むところだろうが!」
「朝っぱらから盛るような性欲魔人には任せらんねえ。前科数十犯は引っ込んでろ」
「ぐ……っ! ……仕方ねーだろぉ、寝起きのイクスは三割増でエロいンだからよぉ……。最近ますます色気が……つか、だったらルッスーリアのが危険じゃねえのか」
「あいつは死体にしか興味がねーから安全牌だ。少なくともお前より」
「う、ぐ……」

 とうとうなにも言い返せなくなったスクアーロから降りて、ベッドから蹴落とした。また喧しくなったけど、無言でドアを指差していれば、やがて押し黙ってすごすご出て行った。三時間後来るのは、きっとちゃんとルッスーリアだ。
 ――さてと、午後からの書類との格闘のために、鋭気をたっぷり養っておかなくては。

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