友と舎弟と変人と俺


 くあ……、と憚らず大あくびをすると、しゃらりんとケータイのカメラのシャッターが聞こえた。
 びっくりして聞こえて来たほう――机の右上に肘をついてニヤニヤしてる美形を見る。

「……何撮ってんだよ」
「へへッ。校内三指に数えられる綺麗どころ、北條漣騎様のあ・く・びッ。高値で売れるぜェ?」
「で、売上は勿論全額俺にくれるんだよな、ユチ」

 にっこり笑って手のひらを差し出せば、ユチ――遊城悠一(ゆぎゆういち)は顔を引きつらせて、さっきの写真を削除した。俺は本気で取り立てるから。

「う〜……一学期最後の漣騎メモリー……」
「英断ッすよ、兄貴! 遊城なんかが兄貴の写真持ってたら、兄貴が汚れる!」
「ッつか、何でバカオルがここにいるんだよ! てめー、一年だろが! ここは二年のフロアだしッ、Eのバカオルが足を踏み入れるもおこがましい、Sの教室だぞ!」
「はッ、ンなこといったら、あんただってDだろーが。底辺にゃ変わりねェくせに、威張ってんじゃねーよ」

 俺を兄貴と呼び、俺を挟んでユチと睨み合うこいつは仙波神織(せんばかおる)。一年のくせに俺より背が高い。なのにヒヨコみてーに人のあとひょこひょこくっついて来る。
 カオルは本当の弟じゃなく、何か勝手に懐いてひとを兄貴兄貴と言っている、まあ舎弟みたいな奴だ。
 二人がエスだなんだと言ってるのはクラスのこと。うちの学校は成績でクラス分けがあるから。ユチのDとカオルのEは、底辺の部類。更にEは特殊。
 俺のSは、なかでも特定の条件を満たした奴しか籍を置けない特別クラスだ。クラスの人数も少なくて、ウチは今年は十二人。
 反して底辺で特殊なカオルのEは、校内外で問題起こしたり素行不良だったり、成績が終わってたりする奴のクラス。こっちも人数は多くない。カオルは成績が終わってて、ちょっと不良なのでEらしい。

「ユチは、こなん、Dでも最下位でござんしょ。カオルの言いしゃんすとおり、こなんら、同類でありんしょ」

 そして更に俺の背後に表れ、俺の右肩をいやらしく撫でながらどぎつい赤の扇子で口元を隠すのが、クラスメートの松崎東雲(まつざきしののめ)。趣味で廓詞(に似せた言葉)を使う変人だ。
 ――この面子が、俺の日常。
 四人でくだらねぇことで笑って、飯食って、たまに雑魚寝したり。それが俺の平穏だった。
 先月、ユチ曰くの王道主人公とやらが転入してくるまでは。……いや今はそれはいいか。
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