side:伊能誠吾
※※※

 事をすませた後のシャワーからアサトの私室に戻ると、部屋の主は裸のままベッドに寝そべってDSをいじっていた。

「あー、おかえり。ちょっと静かにねー、今魚釣ってるから」

 仮にも親衛隊長が、親衛対象にその態度はいかがなもんかね。
 ベッドの端に腰掛けてのぞき込むと、どうやら動物とスローライフを送るゲームをしているらしかった。役員に選ばれた時アサトにDS本体と一緒にプレゼントだと贈り付けられたが、暫くして厭きたから、俺はもうやっていない。
 久々にアサトの村を訪ねようか……と思ったものの、きっと俺の村は雑草だらけでひょっとしたらラフレシアが咲いているかもと思ったら、結局面倒になったんで取りやめた。

「あ、やった、錦鯉釣れたー」
「おめでとうさん」
「どーも」

 結構良い値で売れる魚を無意味にみせびらかしてから、アサトはDSを閉じた。電源落とさないってことは、まだやる気でいなさるんだろう。

「風呂に入らなくていいのかい」
「入るけどね。ちょっと気になって」
「気になる?」
「んー、何で誠吾がいまだに俺達と寝ているのか」
「……そりゃ、」
「親の愛の片鱗を感じたい、それはわかってるよー。俺が言ってるのは、だったらどうして真山じゃないのかって話」
「……んん?」
「一番居心地いい感じって言った割には、抱こうとしないよねえ」
「……そりゃあ……お前さん、あれだよ。アシル先輩のガードが堅くてね」

 ちょっと戸惑いがちに言えば、アサトはうつ伏せで肘をついていた体勢から体を起こして、胡座をかいてから今度は膝に頬杖をついた。

「そんなの、クラス同じ誠吾のが、龍鳳寺より有利なんだから、理由にならないよ」
「ん……そうかね」
「そうだとも。おまえ、ひょっとして何か錯覚しているんじゃないのかとおもう」
「錯覚?」
「伊達に長く誠吾のセフレでいないよー、やっぱり、俺」
「ちょいと……一人で納得していないで、わかるように話しておくれでないかい」
「だから。おまえほんとは、真山の与えられてきた愛の片鱗なんて、欲しがっていないのじゃないかって言う。居心地よく感じているのも、もしかしたら取り違えているのかもよ」
「……は?」
「だって、片鱗が欲しいなら、誠吾はすぐ手を着けるし、つけようとする。現に白水にも迫ってたじゃん」

 ああ、そりゃ、まあ白水も抱きたいと思うけども。あんな寂しげな心の見える絵なくせに、それでも優しくてやわらかい、あたたかな絵を仕上げる白水を包む愛情を、欠片でも感じたいから。
 そういうことを――俺は友紀に思っていない、のか? 直接的な交わりで感じようと、感じたいと手を伸ばしていない?

「だけれ、ども……友紀といるのは、楽しいほうだよ」
「……ふうん。まあ、なんでもいいんだけどねー……。本心から真山の片鱗を欲しがってないっていうのは、アタリだよ、絶対。本気で欲しいなら、誠吾はセックスで求める質だし」
「……」
「ま、何にしろ、真山から手を引いた方がいいと思うけどねー。わかってない下っ端を抑えるのも、結構めんどいし……」
「一体どういうことだね、それは」
「ん? 愛されたがりで愛したがりの誠吾には、愛されたがりだけの真山は合わないってこと」
「……アサトなら合うって言うのかい」

 座ってるアサトの上体を、またベッドに押し戻す。親衛隊の中なら、アサトが一番心地良い。緩いアサトが隊長なのは、だからというのもある。
 アサトは中性的な顔で、からからと笑いなすった。

「あはは。俺よりも、もっとずぅっと誠吾に合うひとがいるよ」
「へえ。一体どこの誰が合うんだい、俺に」
「誠吾のすぐそばにいるよ。誠吾と殆ど同じ、愛されたがりの愛したがりがね」
「だから、誰だって訊いているんだがね」
「ちょっと考えればわかると思うよー。その子ねー、俺のイチオシ! ぜひとも誠吾には、彼とくっついて充足してほしい感じ」
「へえ」
「と言うわけで、俺お風呂入るし。シーツ変えるからのいてー」
「あ、うん」

 会話を無理矢理終わらせられたんで、素直にベッドから降りて勉強机の椅子に腰を下ろした。
 ……いや、やっぱりリビングのソファで寝転がろうかね。そうして熟慮したい。友紀に対することを。俺の近くにいなさるらしい、アサト一押しの誰かのことを。

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