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 で、諦めて食堂近くまで来たはいいけどさ。

「……何故お前がいるんだい、嘉山」

 何で龍鳳寺がいますかね。真山の奴、俺らが不仲と分かってて仕組んだな。
 ちらりと真山を横目に見下ろすと、「仲良くしろよ!」みたいに見上げて来た。マジうぜぇ……。

「文句なら俺を引っ張って来た山猿に言いなよ」
「友紀を振り払うくらい、いくら友紀が馬鹿力でもわけないだろう、お前は」

 ……えええええ、山猿発言スルーなの? そして馬鹿力とか言っちゃうの?! お前真山に惚れてませんでした? さすがのミラクルつぐみんもびっくりだよ!
 龍鳳寺は天然、と至極どうでもいいメモを手に入れた俺は、溜め息をついた。やだもうめんどくさい。いーちゃんいないのに食堂とかめんどくさい。つかいーちゃんいない時には龍鳳寺なんてどうでもいいし。

「こらっ! アシルも鶫も仲良くしろよ!」
「友紀、いくら友紀がそう言っても、僕はこんな奴とよろしくしたくないんだ」
「こんな奴なんて言うな、俺の親友なんだぞ!」
「友達ですらねぇし」

 ぽつりと零した本音は、真山と龍鳳寺の耳には届かなかったらしい。このわけわかんない状況のギャラリーには聞こえたようだけど。
 つか飯時ですからね、食堂行こうって奴ばっか通るからね。こんなとこで騒いでたらそのうち風紀に怒られそう。

「家同士の確執があるんだ、だから」

 え。嘉山(うち)は〔龍鳳寺〕なんか気にしてませんけど。家同士ってか、龍鳳寺家が嘉山を毛嫌いしてるんじゃん。
 確かに龍鳳寺の狙ってた取引はうちが取ったけど、横から分捕ったわけじゃないし。単純に龍鳳寺方の力不足で先方がうちを選んだんだし。
 だから不当なんだよね、龍鳳寺が――龍鳳寺の総意が嘉山を恨むのは。結局龍鳳寺家で正気(まとも)なのは長男だけってことか。

「家なんて関係ないだろ! 俺たちまだ高校生なんだから、俺たちは個人なんだ!」
「友紀……それは」
「馬ッ鹿みたい」
「嘉山ッ……」

 どうやらやんわり否定しようとした龍鳳寺が、俺を睨み付けた。鬱陶しい。八ツ橋なんか、真山相手には余計なだけっしょ。

「確かに俺らは高校生だけど、一般的なそれとは違う。俺たちは――特に後継者候補は家名を背負って〔銀蘭〕ッて特殊なガッコに通ってんの。どのくらいの生徒がそれを自覚し理解しているかは知らないけど、お家なんて関係ありません自分ら個々人なんです、なんてのは一般家庭のおはなしなわけ」
「そ……っんなの、変だ! 間違ってる! 家柄とか、家同士の確執とかで友達が作れないなんて!」
「それで悩んでる奴が言うならまだしも、お前には是非を言う資格ないっしょ。……つか、一般家庭でも〔あのお家の子とは遊んじゃいけません〕くらいあるし」
「そんなこと……っ! 鶫はずっと銀蘭なんかにいるからわからないんだ、世間じゃそんなことはないって!」

 銀蘭なんか、ね。今の台詞が春宮司分家の耳に入ったら大へ……あ、もう入ってる。夏煌胤と秋大路がものすごい形相で真山睨んでる。ていうかいたのね風紀の能面コンビ。ついでに遠い目の冬香院も。ギャラリーが蜘蛛の子散らすみたいに食堂入ってった……。あ、冬香院が夏煌胤に木刀奪われた。ああ二人がかりで刃傷沙汰に発展するのを止めている。

「ってか、俺、幼稚園は家の近所の公立だし」
「っえ」
「園児ってまだ、親が世界の殆どでしょ。だから親があのお家の子と遊ぶなとか、井戸端会議で特定の家を悪く言えば、すんなりそれが刷り込まれる。俺はそれを知っている」

 そう、でなければ芳春が園児の親らの不躾な視線や陰口にさらされることも、お山の大将気取った蛙の子に突き飛ばされることもなかったのだ。
 視界の端に分家三人が鎮まるのが写った。少なからず俺たちの園児時代を知っているのだろう。あー、夏煌胤×冬香院のしつけプレイとか落ちてないかな。夏煌胤のドS受けでもいいけど。それとも夏煌胤×秋大路の健気受け? やべぇ分家掛け算意外とたぎる。そういえば夏煌胤と秋大路には守人(代理の闥センセーと同じ存在で、闥センセーは代理の守人)がついてるからそいつらも交えた掛け算も……あれ、俺シリアスなこと考えてたはずなのに何で掛け算してんだろ。腐男子の性ってコワイネ!

「で、でも友達の友達は友達だろっ! だからアシルと鶫も――」
「友達じゃないって言ってんの」
「けど、仲良くしたほうが楽しく過ごせるだろ! 俺は二人のために言ってるんだ!」

 俺らのため?
 なんて笑い話だ。自分の欲を満たしたいだけのくせに。利害が一致するならまだしも、俺たちには害しかもたらされないのに。

「……友紀。僕たちのために、というなら、僕とこいつを無理矢理友達にしようとしないで」
「な、何で……っ」
「僕は総意を抜きにしても、こいつが気に食わないからだよ。たとえ家の確執がなくとも、家が親しくしろと言ってきても、こいつと仲良くなろうとは思わない。――絶対に」

 あらら。何かすごい発言聞いちゃったよ。
 お兄ちゃんの真似事しかできない、総意という糸に繰られるだけのお人形ちゃんだったのに、まさか自我を持っちゃうなんて。これも王道転校生ミラクルってやつ?
 ま、どうでもいいけど。

「でも……っ」
「これ以上強引にされたら、僕は友紀を嫌ってしまう。頼むから、僕に友紀を嫌わせないで。いいね?」
「――ッ! わかっ、た……無理矢理して、ごめんな……鶫も」

 ……これは天然なのか計算なのか。何か見事に真山の手綱握った感じだなぁ。
 最終兵器「嫌いになっちゃうよ」か。有効だけど俺は使いたくないな、元々嫌いだもの。

「片は付いた? ならもう、俺帰るよ」
「っ鶫! 一緒に……」
「俺と――俺たちと龍鳳寺は二者択一。二兎を追う者は一兎をも得ず。おとなしく、構ってくれる方を選んどくんだね」

 踵を返したまま告げれば、それ以上は引き止められなかった。これで静かになればいいんだけど。……それ以前に真山、無事でいられたら儲け物だわ。すぐ近くで、木刀持った盲信者たちが待ち構えているから。
 とりあえず巻き込まれないうちにさっさと撤退して、サラッと曲でも書いちゃおう。今回のテーマは、青い兄さん健気受けで。



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